case2−1
1 Side:九
夏休みが終わると俺が通う星見台高校は、数週間後に迫った学園祭に向けた準備が始まる。
そこで熱を帯びるのが、クラスの出し物を何にするかという話し合いなのだが──
「では、うちのクラスは何をするか決めようと思います」
クラス委員長の柊翔太が意見を求めたので、俺は真っ先に手を挙げた。
「はいはいは〜い」
目が合った委員長は、苦い顔をしながら俺に発言権を与えた。
「じゃあ、九。何がやりたい?」
「メイド喫茶がいいと思います!」
若干鼻の下が伸びているのはご愛嬌。ここは堂々と意見を言い切った。
ざわつくクラス。
男子からは「お〜!」という低い声が漏れ、女子はと言えば、冷たい視線を俺に浴びせ続けている。
「他無いかな? 無ければこれに決まっちゃうんだけど……」
すると、クラスの中心的女子である矢島若菜が対抗馬になった。
「それならイケメン執事カフェが良いです」
女子の拍手が巻き起こる。
「それはつまらないと思うけども!」
キリッとした顔で俺は矢島に意見した。
「若菜、うちのクラスにイケメン居なくない?」
隣の席の早川瑠璃のこの発言が、クラスの女子に笑いを起こした。
「ですよね。ってことはですよ? “イケメン”執事カフェはウソになっちゃうな〜。それはいけない。よくないな〜」
俺の反撃にぐうの音も出ない女子達。
ということで、俺達2年A組の出し物はメイド喫茶へと決まった。
「いや〜。イケメンじゃなくて残念」
「ここちゃん。そこまでしてメイド喫茶やりたかったのね」
2 Side:美波
クラスはそれぞれの班に別れ、いよいよ学園祭の準備が始まった。
「私達は買い出し係ね。必要な物はリストにまとめたから、ここちゃん頼りにしてるよ。たくさん荷物あるだろうから。よろしくね」
私はここちゃんにリストを突き出すと、もう一人の買い出し係である笹羅英里と歩き出した。
「美波さん。わたし人混みが苦手なので、はぐれないように側にいてもらえますか?」
「もちろん。私もそんなに得意って訳じゃないから、その方が助かるよ」
笹羅英里ちゃんは小柄で、目立つようなことを好まないクラスメイト。そんなこともあり、授業で先生に指名されると、緊張から頭が真っ白になってしまうらしいです。
「笹羅もメイド服着るんだろ?」
「へっ?! わわわわたしは、そんな……」
「ここちゃん。英里ちゃんを困らせない。ほら、荷物持ちさん行くよ」
「ひでぇな。まぁ、メイド服の為なら頑張るか」