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case1−4


     1 Side:九



「全てお話します。私が岡部先輩の作品を切り裂いた理由を」


 宇田川愛佳うたがわあいか──


 美波と同じ美術部の1年生だ。


 物静かで他人を傷付けるような言動はしないタイプだと美波は言う。


「私は、真希先輩にどうしても勝たせてあげたかったから。いつもいつも岡部先輩が真希先輩を差し置いて、当然のように受賞してチヤホヤされているから、作品をめちゃくちゃにしてやりたかったのよ!!」


 動機を語る宇田川愛佳の言葉を、全員が何も言わずに聞いている。


 美波の話では、部長の岡部美紗子と、藍島真希あいじままきは良きライバル関係にあるらしい。


 だからといって、お互いを蹴落とすようなことは無く、むしろ切磋琢磨することで、それぞれを高みに引き上げていく。好敵手といった存在のようだ。


 俺は前へ出ると、宇田川愛佳へ言葉を浴びせた。


「宇田川さん。君は自分がしたことがどういうことか理解しているのか?」


「迷惑を掛けたと思っています」


「俺が言いたいのはそんなことじゃない! いいか? 君は先輩が実力じゃ勝てないと言っているのと同じことをしたんだ!」


「……あなたに、あなたに真希先輩の何がわかるというんですか!」


 感情的に話す宇田川愛佳の前に、遅れてやって来た美術部3年、藍島真希が姿を現した。


「真希先輩……」


 宇多川愛佳が、先輩の姿を見てボソッと名前を呟いた。


「……事情は聞こえた。謝らなきゃね。私の実力が足りないが為に、愛佳ちゃんにこんなことをさせちゃったんだから……ごめんね」


「ち、違うんです。先輩は……真希先輩は……」


 両手で顔を覆い、声を殺すように泣き崩れた宇田川愛佳。


 全てが明らかになった時、扉が開く音がして保健室から戻った部長の岡部美紗子と顧問の宮野先生が入って来た。


「今回のことは私の監督不行き届きが招いたこと。宇多川さんは私と一緒に来なさい。岡部さんの希望で合宿はこのまま続行。展示会に向けた作品を各自で進めて下さい」


 宮野先生は宇多川愛佳を連れて美術室を出て行った。



     Side:美波



「美紗子、平気? な訳ないよね。作品……酷いね」


「さっきは驚いちゃっただけ。大丈夫。時間はまだあるから、何とかするよ」


 岡部美紗子と藍島真希の会話に、ここちゃんが割って入った。


「あの、例えば切り裂かれてしまった絵を、切り絵の要領で違う物に作り変えるっていうのはどうです? スクラップ&ビルドです」


 岡部部長の顔が明るくなり、藍島先輩も笑顔を見せた。


「九君。天才! いつも美波ちゃんから話を聞いてるよ」


 そう言うと、ここちゃんの手を握った二人の先輩は、早速作品作りに取り掛かった。


「何よここちゃん。ニヤニヤしちゃって、だらしない顔」


「おいおい、そりゃあ無いだろう。事件解決したお礼言われただけだし。それに……」


「それに?」


「なぁ美波。俺の話してるって言ってたけど、どんな話だよ」


 顔が紅くなっていないか心配になった私は、ここちゃんに背を向けると廊下を早足で進んだ。


「なぁ、美波?」


「もう知らない」


「美波が教えてくれないのなら、美紗子せんぱ〜い、真希せんぱ〜い。教え……」


「ここちゃん!! 先輩方の邪魔しないの!! 美紗子先輩、真希先輩。邪魔しちゃってごめんなさい。静かにさせておきますから」


 そう言って私はここちゃんを連れて部室を出た。


「丸く収まりそうで良かったな」


 ここちゃんは、さっきの出来事なんか無かったかのように私に話し掛ける。


「ここちゃん、ありがとう」


「いいって。謎が俺に語り掛けてくれて、真相が俺の背中を押したら、どんな事件でも解決出来るんだから」


「もう、ここちゃんたら。そういう事にしておこうか」


「なんだよ、そういうことって」


「だからそういうことよ」


 そう言って前を向いて歩き出す私の後ろを追いかけるように、ここちゃんも歩き始めた。


「そういえばさぁ。ここちゃん、補習は出なくていいの?」


 その一言に……。


「やべっ! 忘れてた!」


 補習の教室に向かって全力疾走して行くここちゃんの背中に、戻って来た平穏を重ねた私は、決意を新たに自分の作品を仕上げることにした──


 補習の建物から聞こえる先生の声が、学校中に響き渡った。


兵衛九ひょうえここのつ! どこ行った!」


「すみませぇぇぇん!」


挿絵(By みてみん)

秋の桜子様よりいただきました。

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