case4
1 Side:九
クラスメイトが次々と姿を消してから3日が経っていた。
俺の周りの席も、今や誰もいない。
「美波。おかしいと思わないか? たった3日でこんなにいなくなるなんて」
「う〜ん。まぁ、いなくなるっていうか……」
「なんだよ。濁すような物言いだな」
チャイムと同時に教室のドアが開き、担任の坂本尚絵先生が入ってきた。
「おはよう。今日もまた空席が増えたわね」
クラスを見渡した坂本先生が呟いた。
「先生! これは事件だと思う!」
勢いよく立ち上がり、俺はスカスカの教室をゆっくり歩きながら考えを口にした。
「何で俺の周りだけ、全員消えたんだろう。何で俺は消えないんだろう……先生何でだろう?」
坂本先生は、まず俺に着席するよう促すと、こう続けた。
「知らない」
「俺だけ……なんでだろう? この摩訶不思議な事件は」
ぶつぶつ言いながら推理を始める。
「ここちゃん、静かにしないと授業中だよ」
「なんだよ美波。これが静かにしていられるかよ。謎を解いてクラスメイトを助けてやらないと」
俺は、この謎を絶対に解いてみせる。そして元のクラスにしてみせると心に誓った。
「兵衛君。謎の前にこの問題を解い……」
「分かりません!」
「考えるふりでもいいからしてちょうだい。では、同じ問題を早瀬さんお願いね」
2 Side:美波
授業が終わり休み時間。
「ねぇ、ここちゃん。これは事件ていうか」
「そうだよな。事件て言うか、連続誘拐事件だよな」
「なぜそうなる。誘拐じゃないでしょ。だいたいそんな物騒な状況だったら、学校休みになるよ」
「だな。知ってたし……ほ、本当に知ってたし」
ちらちら私を見ながら、動揺が溢れ出るここちゃん。
「美波。お前もう謎を解いたのか? この難事件を」
私は腕を組んで、真剣に考えてみた。
考えてみた? そんな必要はなく……。
「いやいや、ただのインフルエンザの集団感染だから」
「なっ、なんだって! じゃあ、どんなトリックなんだよ。それが分からなきゃ、謎がとけたとは言えないんだからな」
「トリックって……ないよそんなの。ただ拡がっただけでしょ?」
「美波。答えはこうさ。まずウイルスがどうにかなるだろ? それが何かしらになって、こうなった」
この力説に私は瞬きしか出来なかった。
「インフルエンザ……インフルエンザ。これだけ俺の周りは感染してるのに……何で俺はインフルエンザじゃないんだ?」
何やらぶつぶつ言っているここちゃん。
「まさか、俺が犯人なのか」
「何でそうなるのよ。そもそも犯人とかいないでしょ」
まだ2限目のチャイムが鳴っていないのに、ドアを開け坂本先生が入って来た。
「この後の授業は無くなりました。当面の間、学級閉鎖となるので、皆さんは連絡があるまで自宅待機していて下さい」
ここちゃんの表情が険しくなった。
「なくなった……はっ、亡くなった! とうとう殺人事件になったか」
「なってない。なってない」
「はい、皆。帰る準備して」
坂本先生が帰り支度をしている生徒に声を掛ける。
「帰ったらちゃんと手洗いうがいをして、感染対策しっかり行って下さいね」
「そんなの当たり前ですよ!」
ここちゃんの一言に、あんたが一番心配だよと、心の声つっこみが聞こえてきそうだった。