case3−3
1 Side:美波
「密室事件……密室殺人事件」
「ここちゃん。殺人は起きてないよ」
「そうか。じゃあ、密室殺人起きてない事件か」
ここちゃんのやる気が高まっているなら、事件の呼び方はこの際それでいいことにしよう。
「密室……密室。そうか密室なんだよ。密室」
「九、さっきから密室しか言ってないと思うけど」
思わず言葉にしてしまう中屋君のつぶやきに、苦笑するしかなかった。
「事件があった日、確かにここには誰かがいた」
ここちゃんは店舗を歩きながら、本が崩れ落ちた場所で立ち止まった。
「中屋。犯人がわかったよそしてその犯人は、まだこの店にいる」
「どういうことだよ! まだいるって」
ここちゃんは何かを拾うと、私と中屋君の眼の前に突き出した。
「えっ、まさか……」
中屋君はあっけにとられ、どこかへ走って行ってしまった。
「ここちゃん、それって」
「ああ、猫の毛だ。見てみろよ。本が落ちたとされる場所は全て角にある」
「そうか。マーキングしてたんだ」
「おそらくな。店舗にはお客さんがたくさんやって来る。そのため、いろんなにおいが付くだろう。ここは自分の縄張りなんだと、ショコラはあの日マーキングしていたんだと思う。まぁ、本が崩れたのはそのせいだろう。実際、本にも毛は付いてるしな」
「にゃ〜ん」
中屋君に追い掛けられたショコラが、長い尻尾をゆらゆらと振りながら、ここちゃんの足元に寄って来て戯れ始めた。
「ショコラだったんだな。犯人……いや、人じゃないか。犯猫は!? 確保ぉぉ〜」
そう言いながら、ショコラを抱き上げてスリスリするここちゃん。
「今回は私の出番無かったか。中屋君。だから言ったでしょ? ここちゃんなら解決してくれるって」
「まさかショコラが犯人で、九が解決するなんて思わなかったよ」
さらっと酷いことを言う中屋君に、ここちゃんが一言返した。
「そういえば、あの壁向いて立ってる髪の長い女の人は、中屋の家の人か?」
「えっ! 何言ってんだよ! 怖いこと言うなよ!」
「ごめん、ごめん。ウソだよ。ちょっとからかっただけ。髪は長くない。さぁ、事件も解決したし、美波帰るぞ」
「あっ、うん。ちょっと待ってよ。置いてかないでよぉ」
頼もしい後ろ姿のここちゃんの背中を追いかけた。
「髪の長さのウソはどうでもいいよ。最後に怖い話残していくなよなぁぁ!」
「シャァァァ!」
闇に向かって威嚇をするショコラ。
「違うとこに依頼しよう。うん。そうしよう」




