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番外編:駐屯基地


 大断層の崖沿いに機動船を走らせた。崖といってもずっと平野が続くのではなく、ときには川を渡る必要があったり、ときには山道を走る必要があったりする。すでにラマ公国を出発してから一ヶ月ほどが経過しており、そろそろ何かしらの手がかりが欲しいところ。そう思った矢先のことだった。


「あれは……商業国の機動船かしら?」


 山を迂回していた際に、奇妙な拠点を見つけた。規模は二中隊ほどだ。停泊している機動船は大国のものだが、駐屯している兵士の中には商業国の兵士も混じっていた。


「おそらく、大国が所有していた拠点をパルグリムが実質的に奪ったのだろう。ほら、奴らの奥に洞窟が見える。拠点を作ってでも隠したい何かがあるのさ」


 イヴァンの言うとおり、彼らは洞窟の入り口を守るようにして展開していた。ナターシャとしては、こんな大国の東にまでパルグリムの手が伸びていることに驚きである。前線の兵士と遜色ない武装をしているのだから、よほど大事なものを守っているに違いない。


「……すごく邪魔。見つからずに進むのは無理」

「かといって迂回するにも、この山道をまた戻るのは面倒だわ。拠点がここだけとは限らないし、迂回した先で他の部隊と鉢合わせ、なんて事態もありえる」

「制圧するのが手っ取り早いか。おいパラマ、あんたらの信徒は戦力として数えていいのか?」


 パラマはしばし考えたあと、まるで名案を思いついたかのように表情を明るくした。


「ここはぜひ、私に任せてもらえませんか?」

「何をするつもりだ?」

「いえ、ちょっと我々の価値を示そうかと思いまして。星天教には我々を迫害した恨みがありますし、憂さ晴らしをさせてください。まあ――」


 そう言いながら腰の剣を引き抜いた。金の装飾が施された美しい長剣だ。幾多の血を吸ったにも関わらず、その刀身に一切の錆びがない。神々しさすら感じさせる剣を構えると、彼はナターシャたちの返事を待たずに地面を蹴った。


「我々というか、私の価値、ですね」


 森の複雑な地形をするすると走り抜けると、彼はあっという間に拠点の中へ飛び込み、勢いのままに一人のローレンシア兵へ肉薄した。兵士は突然現れたパラマに反応が追いついていない。


「誰だお前――」


 言いきる前に、首が飛ぶ。その美しき剣筋は余分な血を流さず、パラマの衣服に一滴の返り血も飛ばさない。

 すぐに周囲のローレンシア兵が異変に気づいた。敵の数はおよそ三十を超え、今も機動船から増援が駆けつけている。彼らは単身で飛び込んだパラマに動揺しつつ、包囲するように銃を構えた。


「ああ、星に魅入られた邪教徒たちよ。贖罪の機会を与えましょう。こうべを垂れなさい」


 高説をたれるパラマ。ローレンシア兵が一斉に銃を発砲した。彼らが持っているのは商業国が開発した最新の機銃だ。命中精度が著しく向上し、たとえ乱戦になっても正確に敵を撃ち抜くポテンシャルがある。三年という月日は人だけでなく兵器も進化させた。

 だが、たとえ人の武器がどれほど進化しようとも、越えられない壁がある。禁足地という存在がその証拠。そしてこの戦場にいるのは、禁足地を管理する化け物。


「愚かな選択です」


 スカートのように長い裾がひらりと舞う。直後、パラマは踊るような足さばきで銃弾を避けた。備品の箱や駐屯地のテント、もしくは敵兵士すらも足場にしながら次々とローレンシア兵を斬った。

 無論、まったく銃弾が当たっていないわけではない。しかし彼の体は傷一つ負っていなかった。銃弾が当たる前にはじかれたのだ。不思議に思ったナターシャが茂みの影でイヴァンに問うた。


「あれ、何をしたの?」

「奴が加護と呼ぶ力、つまり聖都を覆う障壁のようなもので銃弾を弾いているのだろう」

「……多分、ベルノアが作った対物理障壁と同じ」

「なるほどね、コレと同じ……いえ、どちらかというとベルノアが障壁の技術を真似したのかしら」


 ナターシャが右腕の機器をトントンと叩いた。ベルノアが開発した対物理障壁も、元をたどれば神秘と呼ばれる古代の力を利用しているのだから、同じ力をパラマが有していても不思議ではない。

 パラマの強さは圧倒的だった。聖都ラフランでよくナターシャたちが勝てたなと思えるほどに。

 ちなみに聖女の加護は周期があり、ナターシャたちが聖都を訪れた際はちょうど力が弱まっていた。ゆえにパラマの洗脳も解けかけ、ラフランへの嫌悪感をあらわにしていた。だが今のパラマは絶好調。止められる者はいない。


「敵は一人だ! 散開して取り囲め!」

「じゅ、銃弾が効きません、このままでは……!」


 蹂躙する聖女代行。恐ろしいほどに慈悲がない。


「我らが同胞を迫害した罪、ここで償ってもらいましょう」


 彼の表情には積年の恨みがかいま見えた。事情を知らないナターシャたちでも、彼らと星天教の関係が悪かったのが容易に察せられる。

 やがて駐屯地から悲鳴が止んだ。誰一人として生き残りはいなかった。わずかに血濡れた聖女代行が満足げに手を振っている。すると隠れていた信徒達が一斉に敵兵の死体へ群がった。彼らは理性を失った獣のごとく死体に食らいついた。


「お待たせしました。さあ、先に進みましょう」


 それらの光景を見たイヴァンは改めて思う。やはり化け物とは相容れないと。




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