。side神崎博臣の話
高校の教師になった。
目標はいじめをなくすこと。生徒が思い詰めることのないように導いてやろうとも誓っていた。
宮原のようなやつがもし出てしまったら、俺のようにぽっかりと穴のあく奴がいるだろう。そんな奴を増やしたくないと思った。
何が俺をここまで引っ張ってきたかはよく分からない。
宮原からが昏睡状態に陥ってから、そんなよく分からないものが俺を突き動かしてきたのだ。
ある寒い夜、たまたま入った居酒屋で宮原の親父にばったり遭遇した。
だいぶ時間が経っているというのに、向こうも俺の事を覚えていた。
宮原の親父はあれからずっと、宮原を介抱しているのだという。いつか、息子が目覚めるかもしれないと。
確かにこの男は仕事ばかりで、宮原の相手を全くしてこなかったのかもしれない。だが、そこに愛がなかった訳では無い。
観測されなかったら存在しないという意見はおかしい。伝わらなかったのかもしれないが、確かにそこには愛があった。
当時のあいつは本当に視野が狭いと思った。
彼は俺に、たまにでいいから息子のお見舞いに来てくれないだろうかと言った。
行ったからといって、なんにも変わらないしむしろ辛くなるだけだ。
だが、何を高校時代の友人1人にこんな思いをさせられるのかと思うと、なんだかむかっ腹が立ってきて、ケリをつけようじゃないかと病院に向かった。
父親の献身的な介抱の甲斐があってか、殆ど昔のままであった。
童顔だった事もあり、本当に時間が止まっているみたいだった。
何十本という管に絡められ、身動きの取れない宮原見ていると、なんだかとても可哀想に思えた。
こいつは、実は父親からこんなにも大切に思われていると気づけなかった。
それってとっても、悲しい事だと思った。
結局、それから何が変わるわけでもなく時間だけが過ぎていった。
初夏。HRで、最近の生徒は先生を呼び捨てにする事について、冗談交じりに説教を垂れていた。
その時私の務めている学校は、かつて宮原がいた進学校だ。
風体こそ真面目を気取っているが、その実中身は工業高校の生徒と何も変わらず、むしろ無趣味で心が貧しい奴らばかりだった。
なるほど、宮原が嫌がるわけだ。
そんな事を考えながらHRを終えようと起立を促した時、教室の地面がビカリと光った。
あまりの明るさに目がチカチカしていたが、ようやく視界が元に戻ると見知らぬ暗い建物の中にいた。
外国の宮殿のような壁や地面であり、生徒と副担任も居たが、ゲームに出てくる魔法使いみたいなローブを着た人々が俺達をぐるりと囲っていた。
32歳、人生のターニングポイントでの出来事だった。