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、side神崎博臣の話

一番初めのプロローグに書いた、友人の話を入れたかったんです。なんなら、彼にも異世界側に転移してもらおうかと

帰り道でたまたま見かけたので、話しかけようとしたら電車にぶつかって自殺した友人に負い目を感じ、もうあんなことをさせない為に、生徒を導く教師になった。


高校二年の在る夏の夕暮れ、駅で宮原風音を見かけた。


彼は中学以来の友人…いや、親友で、ユーモアに欠けるが実に良い奴だった。

驚く程多芸で、彼の非常に鋭い意見は国語や社会の教科書に書かれた凝り固まった常識を粉々に砕いた。

どうやったらあんなに哲学者のような思考になるのか、どんな風に暮らしたらあんなに多趣味になるのか不思議で仕方がなかった。


最初は、面白そうなやつだと思ったから話しかけた。だが、家族についての質問に返ってきた言葉を聞いて……なんて言うんだろうな……庇護欲?を煽られた。それがきっかけだった事は否めない。

まさかドラマとかマンガでしか見ないような家庭環境の奴がすぐ近くにいるなんて、誰も予想できないだろ。

母とは別れ、父は仕事、おばあさんはなんて言うかまぁ……おばあさんだ。

つまり、親から愛されて無かったんだろうと思うと、とっても可哀想な奴だって思ったね。


いつも無表情でクラスの様子をじぃっと眺めていたが、俺が話しかけてやると嬉しそうな顔になったものだ。

なんだか犬みたいにも思えたし、その……まぁ…本人は僻みっぽい性格だったから自覚してなかったと思うがニキビも少なく比較的綺麗な顔をしていた。

だからそいつといると、俺はちょっとだけ嬉しかった。


お互い雰囲気とか全然違ったが、気が合うし話も合うし、なんなら知らない事についても興味津々で話を聞いてくれた。


他にも仲の良い奴も居たが、宮原と居た方がずっと気を楽にできたし、なんでも話せた。


でも、なまじ頭が良かったせいで進学校に入ってしまい、話す機会もめっきり減ってしまった。


そんで、駅。声をかけようとしたら、あいつは電車と夕暮れの中に吸い込まれていった。


俺が居るだけじゃだめだったのかって気分になった。いやはや自分が誰かの支えになっているかもと考えるなんて、勘違い甚だしいだろ。


心の中から何かをごっそりと持っていかれた気分だった。


長い人生の五分の一、俺の人生はここから始まった。



あまりオカルトなんて信じないが、不思議な事に宮原の体はバラバラにはなっていなかった。あんなに派手に赤い飛沫を飛ばし、ホームを染めあげたというのに四肢の欠損すらない。


流石におかしいもんだから、親しい者の何人かが、こいつが本当に宮原風音なのか確認を取らされた。もちろん俺も呼ばれた。

確かにそいつは宮原で、眠っているような感じだ。ふっと目を覚ますんじゃ無いかと思うくらい綺麗な寝顔だった。

不謹慎だが「眠ってるみたいだろ?」てセリフが頭をよぎって笑いそうになった。宮原なら許してくれるだろうが。

いや、事実寝ているそうだ。奇跡的に生きており、病院に運ばれていた。

脈も正常、体のどこにも異常はなく、外傷が著しい事を除けばいつ目覚めてもおかしくないそうだ。

だが、結局あいつは目覚めなかった。


……そこで初めてあいつの父親を見た。

背が高く、威圧感のある雰囲気だったが、顔には全く覇気がなく、疲労困憊といった顔つきのまま黙って宮原を見ていた。


俺はそんな彼しか知らない。でも、あいつから聞いていたような薄情な人間には思えなかった。


あいつの目には、なんにも映っていなかったのかもしれない。


地元の花火大会に2人で行ったことがあった。


あいつは花火の音より人の声が騒がしくて不快だと言っていた。

見事なな花火があいつの顔を照らしていたのに、空に煙が漂っていて臭そうだとか言っていた。


あまりにつまらなさそうに言うもんだから連れてこなかった方が良かったのかと思ったら、微笑んでいた。

ありがとう、楽しかったよって。


あの時笑っていた宮原の顔は半分だけ花火に照らされて、よく見えなかった。笑う唇だけがくっきりと見えていたのが、嫌に鮮明に残っている。


果たして、宮原の大きな瞳に俺は映っていたのだろうか。

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