冒頭の話
冒頭で触れたところを、もう一度作中で戻ってきて描こうと思った作りかけです
「なんであんただけが生きてるのよ」
女は両の目の端を潤ませながら、敵意を剥き出しに金切り声でほえた。
知っている。忠告も聞かず身勝手に行動するあのパーティリーダーと恋仲にある女だ。
彼氏によく似てじつに愚鈍そうである。
彼女の言うことも、これから私の身に起きるであろう事も何らおかしなことはない。
恐ろしいほど、自分を確立させていたものを奪われたような浮遊感。膝をおられたような無力感と共に私の記憶の奥底に横たわっている憎き思い出が、唐辛子をかみ潰したように口の中に溢れ出した。
彼女は悪くないし身勝手なリーダーも仕方がない。しかし、許し難き影が彼女らに映るのだ。こうして冷静に考えている間、私の顔は真っ赤になって、口は勝手に動いていた。
「ぁ?ふざけるな。誰がお前らの尻拭いをせにゃならん。あいつらは勝手に動いて勝手に死んだ。そこに私が助けに入る余地は、殆どない。私に何を望んでいる?魔法学園で最優秀者だからとチヤホヤされていた私に対しての皮肉か?私が生きていたから死んだヤツらの責任を取らにゃならんのか?」
死んだ者を悼むよりも自分の憤りを優先させ、前世で憎んだ彼らとは関係の無い人に、勝手にその影を見て蔑む等愚の骨頂だ。冷静な私はそう思っていたが、体を動かす感情はより熱を昂らせ、握っていた無理やり緩め、頭を乱雑に掻きむしった。
喉の奥から火でも出そうなくらい、怒気をはらんだ低い声が迸った。
「なら私も死んだ方が良かったなぁ?生きてる方がバカバカしくなるね。その分、死んでいったあいつらはラッキーってもんだな」
「そんなわけ…」
「あぁ、そうだな。アイツらが勝手に死んだから私が咎められるんだ、関係ない話だったな。全く迷惑を他人にかけるやつの気が知れん。死んでも迷惑を残していくなど、たまったもんじゃねぇよ」
全身から怒りと共に魔力が拡がり、それが辺りに恐怖を感じる程であることはわかっていた。しかし、それを抑えようとせずに目の前の女を睨んだ。
今の私の目には、学生服を着たあの先輩が映っている。今は理不尽に抵抗できる、物理的な「暴力」を持っている。何を我慢することがあろうか。
辺りに強風が巻き起こり、目の前の女が倒れ込んだ。私を中心に強風がさらに強さを増し、仲裁に入ろうとした衛兵やら他の冒険者やらを押しとどめている。
こんな大人気ないこと、馬鹿らしいなんてわかっている。今の私をカンナさんが見たら馬鹿だと思うだろう。アメリアちゃんやナンナちゃんがみたらきっと失望するだろう。
しかし、私は怒りを辺りに撒き散らし、思い出された激情のままに魔力の剣で地面を叩きつけた。数センチの亀裂が四方に走る。
女は気絶していた。私は大きくため息をついて気持ちを落ち着かせ、足早に宿舎へ向かいました。
過去の記憶を未だ引きづるというのも、おかしな話です。自分の成長のなさを改めて戒めるため、そして、私が今生きている理由を考えるためにこの手記を書き始めます。
ニヒリスティックな事ですが、結局意味なんてないのだと理解しています。全ての偶然の上に私がここに立っているのだと。しかし、やはり理由を探さずには居られないのです。
私の胸を強く締め付けるこの議題こそ、私という人間の生きる理由たるのかもしれません。




