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sideツカサ・クルゲ

俺はキョウの総大将である父を持つがゆえ、10歳にしてある種の密偵のような任を与えられた。

こと武力こそが地位に直結するキョウの国では年齢などどうでもいい。むしろこの年齢を活かし、学園への入学を任せられた。今年はソルラヴィエ王国の王子をもおり、それでなくとも毎年貴族やら大臣やらの子供がいる。

具体的な情報が取れるかは不明だが、それでも情報が集まるのは確かだ。


魔帝国が動きをみせている。キョウは武力もあるし、大陸では最も魔帝国から遠い。しかし、徐々に力を付け始めた魔帝国は、いずれ大陸全土を支配するだろう。他国の者はこの事を理解しているのか。大陸で最も大きいソルラヴィエ王国は迅速に対処すべきだが動きを見せない。

そういった情勢を現地で見、国へ報せを送るのが俺の使命だ。

言うは易いが、このソルラヴィエ王国はどうもきなくさかった。単に対応が遅れただけの無能ならばどれだけマシだったろう。


水面下で、この国こそが魔帝国を手引きしているのではという噂がたっていた。


如何せん情報が足りない。ツテもほとんどない。学園内で貴族との交流を作るのが望ましいが、この国は貴族と平民の隔たりは大きいらしい。それもそのはず、キョウのように腕っぷしさえあればどこまででも登り詰められるような国ではないのだ。

もちろん、そうでない貴族には積極的に取り入った。肝心要の王子は平民と貴族を分けるべきだというしそうであったのだが……


そろそろ新しく情報を得られそうな者を探していた時である。学年別武術大会にて、その少女を見た。噂はよく聞いていた。

誰にでも隔たりなく親切に接する貴族がいる、と。その魔法の才は素晴らしく、剣術においては教員を圧倒する、と。

ピンキリだとはいえ、ここの教員になれるのは相当腕の良い冒険者か騎士だけだ。俺もここの教員と戦った事があったが、俺と同じくらいというかなりの練度を持っていた。

俺はまだ子供だとはいえ、これだけの騎士や冒険者がこれ程多くいるとなると、いよいよ魔帝国を止めるための他国への援助をしない事が怪しくなってくる。


閑話休題。


観客席から彼女の動きを見ていた。相手を舐めきったようなゆっくりした動きで、確実に場外へ突き落とす。そして、相手には一切の怪我がないときた。俺もそれくらいならばできるし、子供の戯れだと斬り捨てることも出来た。だが、よく見ると相手にしっかり攻撃をさせ、華のある戦いを演じつつ気がつけば場外へ弾かれている、という試合運びなのだ。

得物が俺と同じ刀であるだけに、何故他国の貴族が俺の国の武器を使うのかだとか、何故あんなふざけた戦い方をするのかだとか、何故試合が終われば他者の試合も見ずに立ち去るのかだとか、俺の中でふつふつと赤いものが滾ってきた。妬んでいなかったといえば、嘘になろう。


気に食わない。穏やかの顔の裏には冷笑が混じっているように感じた。



持てる技術を駆使し、スキルも使って全力で潰しにかかった。いくら貴族とはいえ、噂通りならば笑って許すだろうに。


これ程の猛者がいるとは驚いた。こちらの攻撃は全て弾くか躱され、スキルですらもその体に傷をつけることが叶わなかった。

俺と同じか、それ以上の技量。俺に刀を教えてくれた父を思い出す剣筋。

そして――


あっという間に場外へ押し出された俺は歯噛みした。途中までは身体強化もせず、本気を出していなかったのだ。腹立ちはするが、その実力は確か。もはや当初の目的がなんだったのか忘れてしまいそうな程、俺はそのエリザとやらを睨んだ。


その次の休日、俺は憂さ晴らしに森狼を狩っていた。

本来、群れを率いて行動する森狼に一人で飛び込むなど愚の骨頂であり、五人以上のパーティが推奨される。まして10歳の学生が一人で、等討伐に成功する未来が見えない。

普通ならば。

辺りに散漫する狼の死体を眺め、刀を持っていない方の拳を握る。


やはり、俺は十二分に強く、あの少女が異常だと。彼女が何かしらの情報を持っているとは限らない。しかし、何か有益なものをもたらすような気がしたのは、強い者に惹かれるキョウ人の血だろうか。



狼から必要な部位を剥ぎ取り、ギルドへの帰路についた。


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