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66ページ目、冒険者として初仕事

大きなイベントが終わり、肩の力を抜いた私は休日、久しぶりに冒険者ギルドを訪れました。

登録だけはしていたのですが、一切依頼を受けていなかったのです。何気に初仕事です。こういう時、どのクエストが良いとかの情報を知り合いから教えて欲しいところではありますが、生憎そんな人はいません。


薬草採取辺りが手頃でしょうが、草花の知識は持っていません。簡単なものならば何とか見分けられるとはいえ、せっかくなので地球人の私が思い描くような華々しい活躍をしたいじゃありませんか。

とはいえ低ランク帯なので魔物討伐を受けるにせよ、せいぜい近くの鉱山に現れたコボルト退治とかです。

てか前世の記憶じゃコボルトって、鉱山の崩壊を知らせて人を逃した事もある妖精さんじゃなかったでしたっけ。そんな存在を討伐しちゃっても大丈夫なんでしょうか?


消去法的に、もう一つのFランクの依頼であるゴブリン退治の紙を受付に持っていきました。


よく考えるとゴブリンも元はただの妖精ですよね…………エリザは考えることをやめた。


さて、一応学生であるとはいえ年端も行かぬ少女が初めての依頼に魔物討伐を持ってくるのは珍しいらしく、受付のお兄さんに止められました。


「またあそこの生徒か、一体学園は何を教えている。魔物の危険性についてはまだしていないのか」


等と愚痴を宣っています。私の他にもう一人そのような人物がいたようです。あまり心配させるのも良くなかろうと、諦めて薬草採取の依頼に換えて受けました。

人が少ない時間帯だったので、彼としばらく世間話や依頼達成のコツ、昇格条件について教えてもらいました。


「では、行ってきます」


「あぁ、気をつけてな、エリザちゃん」


そんな別れの挨拶をするくらいには仲良くなる事が出来ました。……まさかこんなところで冒険者やってる子が貴族とは夢にも思っていないでしょうに。

などと笑いながらギルドを後にしました。

夢さんも連れてきており、街から外に出ると肩からはい出て外の景色をじっと眺めていたのでした。



* * * * *




家族や親しい者を残して旅立ってしまうのは、あまりに残酷では無かったか。私も友人を向こうに残してきた。彼は私を悼んでくれているだろうか。

私は自らそれをしてしまったわけだが、第三者の都合で殺される者がいたら、それはなんて残酷な事かと思ってしまう。

死に意味があるのか。誰かに利用されるためだけの死には個人的な意味はあるまい。しかしながら、誰かの役にたったとすれば意味があるのだろうか?

では「我」とはどこにあるのだろうか。「我思う故に我あり」という言葉はあるが「諸法無我」という言葉もある。しかし、私が勝手に、他者の存在を「認めてあげる」なんておこがましいではないか。

そもそも本当に私のした事に大義はあったか。そうすべきだと推奨されているとはいえ、危害を加えるかもしれないという可能性だけの話で殺してしまうなんて、まるで「相手が銃を持っていたから先に撃ち殺した」と言っているようなものではないか。可能性だけで相手を殺すというのは、過剰な防衛ではなかろうか。


閑話休題。


どうしてそんなとめどない事が頭をよぎったかと言うと、私の足元に転がるグレイバイソンのつがいの死体が原因です。


子は既に処分しています。仕事ではありませんが、そうした方が良いと言われているのでそうしたまでです。

グレイバイソンは泥を纏った巨大な牛です。言うは易いが、力が強く気性が荒いのです。人里にはあまり姿を表さないので危険度は比較的低めとされるものの、個の強さでいえば小さな村ひとつが簡単に消し飛ぶほど強いらしいです。見つけたらギルドに報告というのが鉄則です。

図鑑で読んだ時「そんな事ある?」と半信半疑ではあったものの、いざ対峙してみるとなるほど納得の大きさと力でした。

極力素早く仕留めたものの、辺りの樹木はなぎ倒され、草はえぐれ、土の赤い層がちらりと見えています。

夢さんもいつの間にか覚えた炎で応戦してくれたので、若干辺りが焦げてもいます。


本来の仕事は、森への薬草採取です。しかし道中倒すことが出来た魔物は、倒した証として部位を持ち帰れば別途に報酬が貰えます。それが、人々の危険になる可能性があるならば尚更です。そう思い、バイソンファミリーを殺しました。

動物は、やはり思考力があるのでしょう。子供の息の根を止めた私を見つめる瞳は復讐の色に染まり、つがいで襲い掛かってきました。それを倒し、骸になった彼らを見ているとなんとも残酷な事をしたという気になりました。

私も、父やカンナさんを殺されれば復讐を決意するでしょう。そして、殺した理由が「敵対したら危ないから」というだけだったなら、私は怒り狂うでしょう。

ゲーム的な憧れだけで冒険者になったものの、殺した獣はバーチャルでないリアルの生き物で、飛び散った血は生々しいまでに温かいのです。


魔物と言うだけで悪だと決めつけるのは早いです。冒険者とは、言わば狩人なのです。魔力の流れたただの獣。されど、我ら人間と同じ「獣」を殺すのです。そこに命の重みがあるのは当然で、なるほど食前に命の恵みに感謝を捧げたくなるものです。「いただきます」とは感謝もあるでしょうが、生きるために殺生をした懺悔なのかも知れません。


グレイバイソンは食肉にもなるので、出来れば全部位あると良いです。普通は無理ですが、カンナさんから貰った収納袋があるのでそれには困りませんでした。


少し嫌な気分になりつつも、私は早々と薬草を採取してギルドに戻りました。

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