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63ページ目、対B組

ようやくC組の順番が回ってきました。トーナメント表を見るに、あのB組とあたるようです。


B組は順番を変えたようで、一戦目にルッツ君が出てきました。


試合開始の合図と同時にナンナちゃんは詠唱を開始しますが、ルッツ君は木札の魔法陣をつなげ、殆どノーモーションで魔法を使います。それを何とか避けながらようやく一発火球を飛ばしましたが、簡易版の魔法障壁の木札を使い防がれました。

このままではナンナちゃんの攻撃が上手く出来ないので、持続型の魔法障壁を作り、高威力魔法の詠唱に入ります。一撃に全てを賭け、早期で決着をつけるようです。


同時にルッツ君が早口で何かを唱え始めます。木札の陣を結ぶと光の直線が伸び、魔法障壁にヒビを入れます。そして、ナンナちゃんよりも早く詠唱が終わり、ナンナちゃんの魔法障壁が音を立てて砕けました。

シールドブレイク。対魔法障壁の魔法です。効果が限定的ですが、少しの魔力差なら覆して障壁を壊せるくらい効果は高いです。


しかし、ナンナちゃんにはダメージは入っておらず、一瞬遅れてナンナちゃんから水の激流が吹き出しました。広く、強く、当たれば流されて場外でしょう。

私含め皆がナンナちゃんの勝ちを確信したその時、激流が反転し、ナンナちゃんが吹き飛ばされました。


ルッツ君は他の木札よりも大きく、複雑な魔法陣が書かれた木札をかざしています。


「勝者、ルッツ」


審査員の教員が声を張りました。周囲から感嘆の歓声が湧き上がります。ルッツ君も自分が勝てたという事に戸惑いながらも嬉しそうに笑っていました。

ナンナちゃんは大丈夫でしょうか?観客席から身を乗り出すと、突然の出来事に対応できなかったようで大量に水を飲み、壁に背中を打ち付けて気を失っているのが見えました。


心配になりましたが、学校医が素早くナンナちゃんを運び出していきました。やはり魔法を使う時点で危ない大会だとは思っていましたが、打ちどころが悪かったらまずいことになっていたんじゃないでしょうか。最悪平民同士なら大丈夫なのでしょうけど、貴族が怪我をした、とかなら責任はどこへ行くんでしょうか?学校?皆その辺を了承した上での大会なのでしょうか。


ともかく、後でお見舞いにいきましょう。夢さんに頼み、ナンナちゃんの様子を見てきてもらうようにしました。夢さんはいつの間にか魔法が使えるようになっていたらしく、必要ならば回復魔法を使ってくださいと頼んでおきました。


素早く観客達の足元を駆けていく夢さんを見ると踏まれないかと心配になりますが、頼もしくも思えました。




二番目にアメリアちゃんが来ると知っていたからなのでしょうか、次の相手はあの王子様でした。


余談ですが私の体はいやに視力や聴力が良く、この距離から王子とアメリアちゃんとの会話が聞こえます。


「いくら神童と言われていても、王族たる僕には敵わないだろう。なんてったって、王族は雷の魔法が使えるんだ。危険だし、死にたくなければ棄権してもいいんだよ?」


「ふん、誰が棄権なんてするもんですか。私は雷の魔法を使えなくってもあなたなんか目じゃありませんわ」



あ、雷魔法って使ってる人聞いた事無いなと思っていたら、王族専用なんですね。でも、どうなんでしょう?魔法は結構なんでもありなので、雷くらい簡単に起こせそうなんですけどね。

原理が未だ解明されておらず、王族だけに雷の加護があるんでしょうか?

ですが、雷を使えたからと言ってアメリアちゃんを打ち負かすことが出来るとは思えません。


アメリアちゃんは何やら面白いことを思いついたような不敵な笑みを浮かべています。

アメリアちゃんは満遍なく色んな魔法が使え、特に「無属性」と言われる火、風、水、地のどれにも属さない魔法と魔法陣を使う魔法を得意とします。

入学試験の時にカカシのような的を溶かしていた魔法もそうです。そんな事をはしないと思いますけど、むしろあの魔法を当てられたら命の危機があるのは王子の方ですよね?


王族だから粗相はされない、という考えでしょうか。


開始と同時に「風の精霊よ」と詠唱始めながら、魔力で魔法陣を宙に描きます。

アメリアちゃんが風魔法を使うのは珍しいですね。それに、先程のような初手から火球を飛ばすような事はしませんでした。


詠唱よりも魔法陣が早く出来上がり、火球が連続して飛び出しました。王子から迸った雷がそれらをかき消し、アメリアちゃんに当たると思われたその瞬間、いつの間にか張られていた魔法障壁に阻まれました。


よく見ると地面の砂に少し不恰好ではありますが、魔法陣が描かれています。アメリアちゃんの左の靴の先が、砂で少し汚れています。

手と足で魔法陣描きながら詠唱とか、いったい脳みそいくつあるんでしょうか。ここまで来るとなるほど格の違う器用さですね。


王子は雷を落としたり、地を走らせたりと様々な方法でアメリアちゃんを攻撃しますが、アメリアちゃんは避けたり魔法で相殺して守りを固めています。


そして、開始からしばらく経った頃合、ようやく口で詠唱していた魔法が唱え終わりました。果たして本当にそんな長い詠唱の魔法があるのか、アメリアちゃんオリジナルなのかは分かりません。ですが、私のようにイメージで「これをしたいあれをしたい」ではなく「詠唱」という型にはめた上でのアレンジってすごく難しそうに思えるんですよね。


会場に少し強い風が巻き起こり、砂塵が起こります。王子はただ事ではなさそうなその雰囲気に、流石に攻撃の手を止めて警戒しています。数十秒も経たないうちに風は止み、王子は「これだけなのか…?」と狼狽しています。

事実、風を吹かせるだけの魔法だったようです。しかし、観客席の皆はどよめきます。地面に、大きな魔法が作られているのです。


地面の指定したところだけ砂を除ける、だなんて本当に風を吹かせるだけの魔法で出来るんでしょうか。


私がその風魔法に驚いていたのも束の間、地面に描かれた大きな魔法陣が青く光ります。

焦った王子は雷を出して攻撃しようとしますが、空間が歪み、王子が全身から出血しながら吹き飛びました。その際雷の魔法が暴発したようで、右腕が爛れています。

砂の地面には血の軌跡が伸び、王子が倒れ込みました。


え、何あれは…こわ……

じゃなくて、出血量は多くないとはいえ、一国の王子様にあんなことして大丈夫なんでしょうか!?


回りくどい魔法ですが、アメリアちゃんのドヤ顔を見るに、魅せプの一環でしょうか。アメリアちゃんの倫理観どないなってるんですか?


目を凝らすと、王子の出血は表面の皮膚が裂け、そこから出ているだけでした。しかしながら口からも少し血が垂れているので、内臓にもダメージがいってそうです。

若干青ざめながら学校医が駆けつけてきます。流石に可哀想なので、こっそりと私からも少しだけ自己治癒能力を向上させる魔法をかけておきました。


ここまでしなくても良かったんじゃないかと悲しい気持ちが湧いてきましたが、この大会の真の目的は実践で戦える者の選別ではないでしょうか。そうしたら、ある意味過激になるのは承知の上なのでしょう。


少し気分がくもりましたが、現在一勝一敗です。どちらが勝っても不思議ではありません。といったところで、今度はマシュー君が私を呼びに来ました。

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