61ページ目、いよいよ私の出番
順番はマシュー君が一番手、私が二番手、ヘンリー君が三番手です。深い意味はありません。ただ、真ん中で確実に私が勝っておくと、マシュー君が負けていてもヘンリー君に繋げられますし、マシュー君が勝っていたら勝ちが確定します。
流石に舐めすぎですかね?
観客席ではなく控え席から会場を見ると、遠くから見ていたよりもずっと広く、周囲から浴びせられる歓声を聞くと体が強ばりそうです。
試合が始まる前に二人を見ると、二人も緊張した面持ちをしており、失笑してしまいました。それにつられてか二人も少し頬を釣りあげ、場の空気がすこし和らぎました。
マシュー君が中央で闘っているのを眺めながら、私の番をどうしようと考えます。
多分、私はかなり強いと思います。アメリアちゃんみたく圧勝するのは簡単そうですが、変に注目も集めたくないですし、ゆっくりと打ち合いながら端に誘導して場外が一番ですかね。
マシュー君は体格差を活かし、上方向から力強い振り下ろしを繰り出します。それを受け止めたお相手さんの剣にヒビが入り、相手が降参しました。
武器が折れたら降参…ではなく戦意がなくなれば降参なんですけどね。ですが、武器を持っていての技術に自信がある相手には有効かもしれません。こっそりと心のメモに書き留め、マシュー君と入れ違うようにして中央の円に入ります。
会場はコロッセオのように円形で、周囲からぐるりと声が聞こえてきてうるさいくらいです。私が立ち止まった位置から十二、三メートル先で相手の男の子が慢心の笑みをこぼします。
私が彼を知らないように、彼もまた私の事知らないんですかね?女だから力押しにしたら勝てるとでも思っていそうです。
一応武技と身体強化の使用は許可されているので、一概に腕力が全てではありません。しかし、授業では武技はまだやっていないのでまさかそれを使うとは思っていないのでしょう。その軟弱な精神に不意打ちを与えてやりましょうか。
審査員の教員が「はじめ!」と叫び、同時に少年が切り込んで来ます。身体強化を自信に施し、半歩後ろに後ずさってから少年の剣を弾こうとしました。
思ったより剣が柔く、少年の剣がそのまま折れてしまいました。少年は驚いたように目を見開き、私も驚いていましたがすぐさま少年の首元に剣を突きつけます。
周りからどうと歓声が湧き、少年が降参しました。
あれ…同じ質の剣を使ってるはずなんですけどね。観客は楽しそうな視線を私に向けますが、同時に他の生徒から警戒の目が重なります。
私は背に冷や汗を感じながらそそくさとその場を退散しました。
マシュー君とヘンリー君は喜ばしそうに「さすが、マイヤー先生を追い詰めただけある」と声をかけてくれましたが、苦笑いで受け流しました。
思ったよりも力を抜かないとまともな戦闘にはなりません。力を御せぬ者は未熟者じゃけぇ…
次の試合こそはと拳を握り固めるのでした。




