60ページ目、魔法部門の大会
会場は実技棟の西棟と東棟になります。
西が魔法で東が武術です。真ん中に中心となる建物があるので、両棟の距離はなかなかにひらいています。
これが本当に学校かと疑いたくなる規模で、下手な三階建てのショッピングモールよりも広いんじゃないかと思うほどです。
でもまぁ、友人は魔法部門に集中していますし、他の子の様子を見なくてもいいなら、出番までずっと西棟にいるつもりです。
他の人の試合を観察するというのは、事前にその人の戦術を確認するという保険でもあります。それを怠るということはすなわち舐めプと言えるでしょう。
が、舐めプでなんとかなりそうですし勝ち負けに興味が無い以上どちらでも構いません。記念程度には勝ちたいですけど、結局のところアメリアちゃん達と喋っている方が面白いのでね。
マシュー君とヘンリー君には申し訳ないですが、私は出番まで東棟へは向かいません。
円形で、中央に戦闘できる大きなスペースが設けられた会場はあたかもコロッセオのような造りでした。上を見上げるとそのまま太陽と雲が見えます。
本日は快晴なり。
ナンナちゃんはぼーっと辺りを見ており、メリッサちゃんはマルコ君と火花を飛ばしあっています。
そして、アメリアちゃんは目を閉じて精神統一していました。
「ほらほら、空を見てご覧なさいな。いい天気ですね〜」
後ろから突然声をかけられたせいで少し驚いたようでしたが、私の姿を確認するといういつものような顔になりました。
「……もし、これで優勝出来たら今度私と手合わせしてくれない?」
「へっ?え、ええ。構いませんが…」
突然の申し出でしたが断る理由もなく、真意が分からぬまま許可を出してしまいました。
それでアメリアちゃんのやる気が何故か湧いているようなので良かったのかもしれませんが……
「ええと…何故?」
「気にしなくていいの」
アメリアちゃんは取り付く島も見せずに、一回戦が始まり、辺りには空気が割れんばかりの歓声が広がりました。
三人一組、一対一の試合を三回し、勝ちの多かった方が勝ち上がります。
初戦はB組とE組でした。
B組には例の王子様と、実技試験の際に私の前にいたルッツ君がいます。ルッツ君とはあれから全く会う機会がなくて知りませんでしたが、実力をつけ、今や王子様に目をつけられるくらいには魔法陣の使い方が上手くなっているそうです。控え席で、居心地悪そうに制服の膝の辺りを握っていました。
B組に知っている人が集中している(と言っても二人だけですが)のでこの試合以外はほぼ他人がやってる試合の観戦になるんでしょうか。
試合が始まりました。
B組の知らない子とE組の知らない子の勝負です。
中学三年間で、同じクラスになった人の名前も半分くらいしか覚えられませんでしたし、全校生徒といえば全く覚えられなかったものです。五年間もあるのですから、彼らの名前も覚えたいなぁとぼんやり考えていました。
魔法部門ということもあり、合図と同時に二人が詠唱を始めました。E組の子の方が若干早く唱え終え、火球が発現します。一息遅れてB組の子の風魔法が発動し、火球はかき消されました。続いてもう一度風魔法を使い押し出す…というようなことを繰り返してB組の子が勝利しました。
想像するような血湧き肉躍る戦闘は行われませんでした。まぁ、魔法なんて直接当てては危険ですし、両者魔法使いなら動きが少ないのでしょう。
次はルッツ君ですが、事前にほぼ完成した魔法陣の描かれた木札を懐に隠しており、線を繋げて魔力を込めることにより威力は低いながらも擬似的な無詠唱で魔法を発動させていました。
木札は消耗品なのでストックがいくつあるのか気になるところですが、次になんの魔法が来るか分からないというのは厄介ですね。
ルッツ君が無事に勝利し、B組が2回勝ったので結局王子の実力は見られませんでした。
というかこれ、先の二人が勝ったら戦わずに済むし、先の二人が負けたら「俺は負けてない。2人が弱かったせいだ」とか言い訳できるのでは?王子がどんな人物か知りませんが、ちょっとずるい気がします。
しばらくして、C組とA組が呼ばれました。
アメリアちゃんに頑張って!とエールを送ると、普段通り鼻を鳴らして笑っていました。
実は昨日のアメリアちゃん、幻覚だとか言いませんよね?
A組は(当たり前ですが)見知った顔はありません。実力もどのくらいなのか分かりませんが、一番手はナンナちゃんに水魔法で場外まで押し流され、二番手はアメリアちゃんの火球で抵抗も出来ずに飛ばされていました。
アメリアちゃんは素早く詠唱をすませると、ファイアボール一発で相手を吹き飛ばしていました。詠唱速度も去ることながら、威力がとても高いです。完全に舐めプとも言えるような圧勝をし、会場にざわめきが広がりました。本当に開始数秒で試合が終わるという前代未聞の事件なのだそうです。
確かにあそこまでの圧勝だと引きますよね。私は引きませんけどね!
本当ならアメリアちゃんが戻ってくるのを待っていたかったのですが、ヘンリー君が息を切らして走ってきたので急いで東棟に向かいました。
祝!60ページ目。ここまで続けられたのはひとえに皆様のブクマ、評価等の応援のおかげです。これからもまだまだ続くと思うので、どうぞよろしくお願い致します




