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sideアメリア アメリアの杞憂


私は小さい頃から完璧を求められた。

代々魔法に優れていたハルメア家に生まれ、歴代最高とも言える魔力を持っていたからだ。


政治、言語、計算、そして魔法。父は私を自分の知識を継承する存在としか見ていなかった。おかげで私の知識に殆ど穴は無く、周りからは神童ともてはやされた。それは気分の良い事だし、負けるのは嫌いだ。それで十分だった。


ジーク達は私をやけに目をかけてくれて、その度に父への疑念が頭をもたげ、胸の奥が苦しくなった。だから、あんまりジーク達とは顔を合わさないようにしていた。


ハルメア領は寒冷な気候で、そのせいもあり子供は少なかった。それ故、私は同年代の友達など出来はしなかった。


年に一度、王都で行われる誕生パーティーですら友達は出来なかった。

だが、それでも別に良かった。私の横に立てる奴なんて居ないと判断したからだ。

周りからは随分と早熟ですなとよく言われたが、私にしてみれば、お前たちは何十年も生きてどうしてその程度なんだ?と疑問なくらいである。


そんな傲慢な私に一つの大岩がぶつかった。

いいえ、その岩の上に佇むローレライに惹かれたとでも言った方が良いだろうか。


人形でなくなったエリザとの最初の出会いは、私に途方もない恐怖と嫉妬を与えた。

本当に今まで人形だと思っていたものが動き出し、喋るのだ。その上、当時の私ですら出来なかった遠距離からの相手を指定する《スリープ》を使っていた。


今までは、現状維持で満足していた。しかし、更なる上を知った瞬間、私の中で何かが変わった。それは嫉妬、あるいは恐怖。

私は彼女に高圧的な態度をとり、支配しようとしたのか嫌われようとしたのかはよく覚えていない。

しかし、エリザはまるでジークのように私に微笑みかけた。きらりとなびく髪は夜のとばりの如く、光る瞳は星々のようで、美しい人形が私に微笑みかけているその唇を見ると私は……閑話休題。


さて、私は父にやらされていた魔法術を自ら進んでやるようになり、中でも魔道具や魔法陣に強く惹かれた。好きこそ物の上手なれとはよく言ったもので、自分でも驚く程上達していった。

でも、どれだけ頑張ってもエリザは私の魔法に感服せず、エリザの魔法には届かなかった。

自分には才能がある。でも、エリザにはそれ以上の才能があった。そして、そんなことどうでもいいというふうに、私という個人だけを見つめてくれた。

それは嬉しくもあり、何とも妬ましいようにも思った。


私はエリザという友人が出来たが、同時に一番ではなくなってしまった。武術はもとより、魔法ですら敵わない。こんな私を見たら父は激昂するだろう。

また、いくら侯爵家の令嬢と言えど、父は私に友人が出来るのを極端に嫌がった。

「貴重な時間を人付き合いに奪われるのだ。非常に勿体ない」何度も父は私に言い聞かせていた。


エリザの事は父には隠していた。だが、いずれは父の耳に届いてしまう。

あまりいい思い出のない父だが、それでも父親は父親である。あの人に怒られてしまうのはとても怖かった。


初夏、学年別武術・魔法大会が開かれることになった。私は魔法部門での選手に選ばれた。


正直怖かった。私は現状に甘んじ、ルームメイトとくだらない話をしたり、エリザに魔法の話を聞かせたりするばかりで魔法の腕をあまり磨いてこなかった。

それでもエリザを除き、学年、いやこの学校でもトップクラスの魔法が使えるという自負はある。

しかし、万が一イレギュラーが発生したら?父に怒鳴られ、見捨てられるかもしれない。


エリザに幻滅されるかもしれない。いや、エリザは私の魔法の技術についてとやかくは言わないかもしれない。けれど、心のどこかでは、私の事を魔法の技術で見ているだろう。人間とはそういうものである。

孤高と孤独は違うのだ。今まで私は自分のことを孤高だと思っていた。だが、それは孤独であることを隠す嘘なのだ。エリザという友人ができて初めて気付いた。エリザがいなければ、私は孤独なのだと。

その分エリザは正しく孤高の存在であった。

常にマイペースで、他人に流されない。

いくら私達に優しく親しく接してくれていても、もう一段上の場所から私達を見下ろしている。多分私なんかが居なくなってもエリザはやっていけるだろう。


だから、大会前日の放課後、私は漠然とした「かもしれない」恐怖に支配されていた。いつから私はこんなに臆病になったのだろう。自信がくじかれたのか。

そんな私を見透かすように、エリザは私を抱き込み、穏やかな声で「安心」だと言った。

エリザにはあまり私の事を話していない。それでもなお、私が何かに怯えていることは分かるらしかった。

心の奥で何かが安まるようで、同時に何かが燃え上がるような気分にさせられた。それは段々と不安を燃やし尽くし、私の中で腑に落ちたものがあった。


エリザも緊張はするのだと知った。エリザは私に気をかけてくれている。それだけでも十分に思われた。

何しろ、普段他人と体を触れ合わせるのを避けているエリザが、私を抱擁したのだ。


不安が和らぎ、自信が戻る。胸の奥が熱くなる。


エリザの背中を見ていると、かけた声が楽しげになってしまった。

根本的な解決にはなっていないけれど、エリザなら例え私が失敗しても離れていかないだろうという強い確信が出来た。

彼女ならば、あるいは父も説得してくれるのでは。そんな漠然とした大きな希望を、私は胸に抱いた。


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