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59ページ目、アメリアの杞憂

授業も恙無く進み、不安要素といえば筆記くらいでしょうか?それもまぁ、私も教養人の端くれですから、必死に勉強したら頭にたたき込めるでしょう。


当日の時間割の書かれた紙が配られ、いよいよという雰囲気が学校中に立ち込めると、他クラスの情報が噂程度に流れてきました。


しかし、私は自分のクラスの人の名前すら全員は覚えていません。非常に狭い範囲で生き、あまり外界を知らないので、その噂を聞いてもなんとも思えませんでした。


そして、恐らく下見でしょうに、私やアメリアちゃんに向けられる視線が少し多くなったような気がしました。


頑張って良い人の振りをしているのに面白いくらい友達が増えず、私自身も現場で満足しています。なら別にいいかと思ってしまうあたり、やはり私は陰キャなんだなと痛感します。

せっかく一緒に選ばれたんだからとマシュー君とヘンリー君には話しかけてるのですが、よく良く考えれば倍くらい歳に差があります。果たして子供相手に友達を作ったからと言って、それはなにか虚しいのではないでしょうか?

一方ナンナちゃんとメリッサちゃんはもう随分と友達が出来たようで、アメリアちゃんは一部の人から尊敬の目を向けられています。ですが、本人がツンケンしてるので友達は少なそうです。


あれ?アメリアちゃんって私と同類?いやいやいけません。そういえば彼女は一応神童って言われていたとか聞きましたし、そんな子を私と一緒にしては…



大会前日の放課後、いつものように校庭へ向かう途中。アメリアちゃんとメリッサちゃんは一足早く行ってしまい、がらんとした廊下を2人で歩いていました。アメリアちゃんはいつものように何かの魔法の話をしています。

しかし、どことなく声に緊張や震えが混ざっているように感じました。


「アメリアさん」


「ん?何かしら」


「今度の大会ですけど、緊張してますか?」


アメリアちゃんは暫時体を硬直させましたが、ぎこちなく平常を装いつつ答えました。


「別に?他のクラスの話も聞いたけど、私の敵じゃないわ。ただ、何とかって言う王子様と、陣魔法を使うルッツって生徒がとても強いって聞くし、2人ともB組だからそこだけが気になるわね。それでも、私はそんなのに負けないわ。ただ、メリッサとマルコが両方とも負けちゃったら意味ないわ」


まだ10歳だと言うのに、自信と警戒がしっかり両立していて驚きました。驚くほど早熟だと感じました。

私は20近く生きてきましたが、アメリアちゃんが20歳になったら私なんてとうに越えられてそうだなとか思いを巡らせました。

ですが今は私の方が歳上であることが出来ますし、何かを恐れているように震えるその姿はやはり年相応に思えました。


「まぁ、大丈夫ですよ。負けたって死にはしませんし。何を気負っているのかは残念ながら私には分かりませんが、アメリアさんはとても素晴らしい才能を持っていますよ。普段らしくしてたら、きっと大丈夫」


「そう…。なんか、いつも緊張なんてしていないエリザに言われても…」


「私だって緊張しますよ?私はいつだって自分の考えているだけの振る舞いができるかってビクビクしてしますから」


アメリアちゃんがいつものムスッとした顔を忘れ、面食らったように間の抜けた顔をしました。それがおかしくてくすりと笑うと、いつもの顔に戻り「なによ」ととげとげしく言われました。しかしその瞳は微かに笑い、希望と恐れに潤んでいました。


「いえいえ、すみません。とにかく、お節介ですみませんがアメリアさんが緊張しているように見えたので、少しでも解れたらなと」


よく考えると、私は彼女のことをあまり知りません。だから一体なぜそんな表情をするのか皆目見当もつかず、もどかしい気持ちが芽生えました。

しかし、どういうわけかアメリアちゃんに変な感情を突き動かされた私は、彼女を抱きしめました。


腕の中で小刻みに震えていたアメリアちゃんの体が、くったりと和らぐのが感じられました。

近くで彼女の吐息が聞こえ、どこか小動物のような、硝子のような危うさを感じつつも、私と同じくらいの大きさの体は安定感があるようにも思いました。


「安心安心」


アメリアちゃんは抵抗せず、「なんの真似よ」と呟きました。

私は顔を見るのも恥ずかしく、アメリアちゃんをゆっくり離し、校庭へ続く出入口へと体を向けました。


「いえ、なんでもありませんよ。私が緊張していたので、それを解すためです」


「……そう」


よく良く考えれば、変態の如き奇行ではありますが同年代の友達と考えれば、まぁ大丈夫でしょう。女子高生はよくスキンシップを取っているのを見かけましたからね。

幸いにもアメリアちゃんからも良くない感情ら感じられませんし、そのまま流しましょう。


「さて、今日はあまり無理せずに、最終確認だけしたら休みましょうね」


「そう、そうね。そうするわ」


後ろからは少し嬉しげな声が聞こえ、胸をなでおろしました。

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