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6ページ目、私の心は

先程、受付の女性が駆け上っていった階段を進み、2階に着くと1階とは随分と違った、落ち着いた雰囲気に意表を突かれました。


木造の床は歩くとギシギシと軋む音が響きます。

階段から1番離れた部屋、立派な装飾の施されたドアノブがある扉まで来ました。


中は豪華そうなソファが2つ、これまた匠が趣向を凝らしたのか、脚が彫刻作品のようになっている木の机を挟むように置いてあります。

部屋の内壁も真っ白で、何やら絵画のようなものが2、3飾られています。


ギルドマスターさんに座るように促され、私達はソファに腰掛けました。


正に吸い込まれそう、とはこの事なのか!ふかふかのクッションに、私の腰がどこまでも沈んでいくような、とても柔らかいソファでした。


私が何度もその感触を楽しんでいると、ギルドマスターが口を開きました。


「その、なんだ?さっきから気になっていたが、そこの、お嬢さんは……?」



お父様を見やると自己紹介しなさいと目配せをされました。


「申し遅れてすみません。ロウダ・フォン・ロードランの娘、エリザ・フォン・ロードランと申します。以後、お見知りおきを」


貴族らしい自己紹介というものを知らないので、それっぽく丁寧語で挨拶をし、頭を少し傾けました。

ギルドマスターはともかく、お父様も驚いたように目を丸くしていました。


もしかして、何か変な事をしたのでしょうか。


誤魔化すため「えへへ」と苦笑いを浮かべてみましたが、何だかあまり効果が無かったように思います。


「こ、これはこれはご丁寧に。私はこの冒険者ギルドのマスターをやっているヨハンという」


そう言うとヨハンさんはお父様に視線を戻しました。


「驚いた。お前さん、娘の話は聞いていたが……これはどういう事だ?それに、こんなに話せるなんて…お前が教育したわけじゃなさそうだよな?」


「きっかけは―――分からないが、つい1週間くらい前、あの呪いが解けたみたいだ。俺もエリザがようやく、ようやく自分の意思で立ち上がり、喋ってくれるのが嬉しくて、嘘みたいで……それで、旧友のお前に報告しようと思ってな」


「ちなみに、呪いが解けてから一切貴族の教育らしい教育はしていない。俺も驚いている」と付け加えました。


呪い。この時はまだ、母が呪いで倒れ、私もまたその影響で自我が封印されていたのだという事しか聞いていませんでした。


封印と言うのは少し違うくて、前世の記憶を思い出すまでは正しく自我はありませんでした。


結果的に(宮原風音)の自我が宿ったので「封印」という認識のままで良いでしょう。


「なるほどな、産まれた時以来初めて見るが、随分と可愛らしくなったじゃねぇか。まぁ、その、アレだ。おめでとう」


ヨハンさんは恥ずかしそうに頭をかきました。


父は穏やかな口調で「ありがとう」と言いました。


それからはお父様とヨハンさんがこの6年の事を互いに語り合い、尽きることはないように思われました。


朝から来たのに、帰る時は西日が傾いていました。

ギルドの仕組みや冒険者というのがどういう職業なのかというのを、この時初めて詳しく知りました。


毎晩、お父様は私が眠るまでずっとそばにいてくれます。

「今日は街の様子を見れて、とても楽しかったです。少しドキリとすることもありましたが、お父様の意外な一面も見ることが出来てとても面白かったです。また連れていってくださいね?」


柔らかなベッドの上、幸福感に包まれながらお父様に言いました。お父様も「ああ」と答え、おでこにキスをしました。


「ああ、それから―――」


どうせなら異世界をゲームみたいにエンジョイしたいと思い、剣や魔法を習いたいと頼みました。

お父様は少し困ったように顔を顰めましたが、講師を呼んでくるように約束してくれました。


エリザの体に感化されたのか、自然と「お父様、愛しています」と口から言葉が出ました。


それは間違いなく私の本心でしたが、果たして(宮原風音)の本心でもあるのでしょうか?


宮原風音としての感情は、だんだんと遠のいていくような、そんな不安が頭をもたげました。

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