sideナンナ1
王立ソルラヴィエ学園。王国貴族はもちろん、国民は全てここで学ぶチャンスがあります。
たとえ平民だとしても、ここを卒業すれば職には困らず、親への仕送りもできる程には裕福になれるのです。
とはいえ平民でここまで来るのにも長かった。お父さんやお母さんの仕事のお手伝いもしながら、魔法の勉強もして、12歳になってようやく入る事が出来ました。
3回も挑戦したんだからお父さんとお母さんにはとても負担をかけちゃって、だからこそ学園生活を頑張らなきゃって思っています。
でも、おかげで新入生の中で3番目になれました!
これからの学園生活への期待と、ちゃんとついていけるかという不安に押し潰されそうになりながら大きな鞄を抱えていると、変わった子にぶつかりました。
エリザと名乗る彼女はどこかお上品で綺麗で、一瞬お貴族様かと思ったけど、襟元を見ると紋章がなかったのでどうやら違うようでした。
エリザちゃんは道に迷っているらしく、私もひとりじゃ不安だったので目的地まで一緒に歩きました。
楽しそうに私の話を聞いてくれるし、笑った顔はお人形さんなんかよりもとっても可愛くて。でも、不思議なことに荷物を持っているようには見えなかったんです。なのに、新入生っていうからどういうことか分からなかったんですけど、どこかに預ける場所でもあったんでしょうか。
それに、私も魔法は得意だって思っていたのに、エリザちゃんは詠唱もせずに魔法を使ってました。
私でもそんな事できません。実はとっても魔法が上手なのかな。
大昔の賢者様が呪文を唱えずに魔法を使ったって話は知ってるけど、他にもできる人居るのかな。
入学式が始まって、私は三位だったから前に呼ばれました。
壇上に上がって新入生達を見ると、すっごく沢山人がいて、緊張のあまり立ちくらみさえしました。
ふと横を見ると、真っ赤な髪の女の子と黒色の髪の男の子が立っていました。この2人、私とどれくらい差があってここに立っているんだろう。
よく見ると男の子の方は襟元に紋章はついておらず、私と同じく平民だということが分かりました。
入学式が終わってスキル鑑定をしてもらって、すぐに宿舎に行こうと思ったけど、やっぱりお腹が空いたのでお父さんの知り合いの料理屋まで足を運びました。
街の方まで降りていくと、地元なんかじゃ比べ物にならないくらい賑わっていました。
お父さんに渡された地図通りに道を進んでいくと人が少なくなってきて、なんだか悪い人でも現れそうな雰囲気です。
怖くなって引き返そうかなと思った時、お料理屋さんの看板がようやく見えてきたので、足早に駆け込みました。
店主は柄が悪そうなおじさんだったけど、お父さんの名前を出すとすぐに「ああ、あいつの娘か。その制服は……そうか。学園に受かったのか。良かったな」と言って頭を撫でてくれました。
それになんと、お代まで少し負けてくださいました。
嬉しくなって、宿舎へ向かう私の足取りは軽く、つい歌を口ずさんでしまいました。
宿舎は大きく、三階建てと二階建ての2つの建物が引っ付いています。
私の部屋は、手前にある二階建ての宿舎の2階にあります。
道中先輩達が楽しげにお話をしていたのですが、皆綺麗で輝いていて、私も早くあんなレディになりたいなと目を輝かせていました。
周りをきょろきょろと見回しながら歩いていると、自室の204号室が見えてまいりました。中から誰かの声が聞こえます。
だいぶ時間が経っているので、もうみんな外に遊びに出てると思っていましたが、これ幸いです。
第一印象が大切です。元気いっぱいに明るく、笑顔で挨拶をするのです。
えいやと自分に喝をいれ、扉を開きました。
「はじめまして!私はナンナ……ってなに…あれ?エリザちゃん?」
扉のすぐ近くには先程会ったエリザちゃんがいて、その前で二人の子が縮こまっていました。
うち一人は新入生首席の子ではありませんか!彼女は貴族で、どうしてエリザちゃんがお貴族様に説教しているのかと困惑していると、エリザちゃんの襟元で太陽の紋章がキラリと光りました。
一気に飛び込んできた情報を整理出来ず、しばらくの間黙ってその状況を見つめることしか出来ませんでした。
本日は端午の節句。ですが最近は、鯉のぼりも見なくなりましたね。




