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48ページ目、入学式

それから3日が経ち、入学当日になりました。

収納袋から「入学おめでとう」と書かれた紙が出ててきて、少し元気が湧きました。

先日、泣きながら帰ってきた私を見た皆様がかなりあたふたしていまして、非常に申し訳なかったなぁと思い返します。


貴族街に自身の仮住まいがあろうが無かろうが、生徒は皆、学校の寮に住むことになります。よって荷物はあるだけ持っていかなくてはいけませんが、私は収納袋があるのでそこだけは楽で助かります。

制服というのも懐かしく、あの、人でも死んだかのような真っ黒一色なデザインを思い浮かべていましたが、思っていた以上に良いデザインでした。

そもそもセーラー服とはセイラー服であり、船乗りの衣装です。どうしてこれが女子生徒の制服になったのか経緯は知りませんが、黒1色のセーラー服は私立のブレザーなどに比べるとあまり可愛くないものです。

ソルラヴィエ学園のものは軍服崩れといったようなデザインで、真っ黒な布地に金色の刺繍が煌びやかに映えます。

貴族は、襟元に太陽を象った紋章が縫い付けられており、平民との区別がつくデザインになっております。……教育機関においても、平民と貴族は平等ではないらしいと悟りました。


制服でスカートを履くのは長年の夢でした。姿見の前でくるんと回ったり、ポーズを決めて見たりもしました。


「うむ、我ながら可愛らしい」


などと満足気に宣っていると、夢さんが不機嫌そうな視線を浴びせてきたので中断します。


「おー、よしよし、すまないね、夢さん」


頭を撫でてやると少し満足気に、その小さな体をよじりました。

夢さんは小さいので私の横髪の間に隠れてもらい、入学式にも連れていくことにしました。


さて、試験当日と今日とで2回目の校門です。

日本では考えられないほど大きく広い門から、校舎へと続く道がぐんと伸びております。

新入生の歓迎や部活動の勧誘の為に先輩たちが校内にひしめき合っているのが見えます。馬車で来た者も、校内へは降りてから入って行きました。

新入生は見分けやすく、いずれも大きな旅行カバンのようなものを持っていたり、お付きの者に持たせて歩いている者もいます。


桜がないのが少し物足りないと感じるのは私だけでしょうね。


今日の流れとしては実技練の大広間に集まり、教頭先生のありがたいお言葉や大臣たちからお祝いの言葉がかけられます。

その後、皆で教会へ赴きスキル鑑定という流れだそうです。昼過ぎに自由になるそうですが、寮の自室を確認したり校内を散策したらあっという間に日が暮れるでしょう。


えーっと、先ず実技練を探さねばなりませんね。何処でしょうか……

試験の際に貰った校内の見取り図を広げ、実技練を人差し指で探します。


「わぷっ!?」


体に意図せぬ衝撃が走り、尻もちをつきそうになりましたが、魔法で風を集め、お尻を支えて転けずに済みました。

地図を見ながら歩いていて、誰かにぶつかってしまったようです。


「わわ、ごめんなさい。どこか怪我してませんか?」


申し訳無さそうに私を見つめる少女は両手に大きな旅行カバンを抱えており、襟元を見ると無地であります。

顔は整っていますがそばかすが頬に着いており、よく見ると靴に土がついて汚れています。

ひと目で平民なんだなぁとわかります。大きなカバンから察するに、恐らく彼女も新入生でしょう。

驚かせては申し訳ないと思い、とっさに左の手で自分の襟元を隠しました。


「いえいえ、見ての通り大丈夫ですよ。こちらこそ、ちゃんと前を見ずに歩いていて申し訳なかったです……。ええと、あなたも今から実技練に向かうのですよね?」


「はい!ということは、あなたも新入生なんですね?」


「えぇ。そうですねぇ…もし良ければ実技練まで一緒に行きませんか?」


「私もひとりじゃ不安だったので喜んで!」


そうニッコリと微笑む彼女の笑顔はなんの屈託もなく、辺りがぱっと明るくなるようでした。



ずっと襟元に手を置いてると怪しく思われると思い、迷彩魔法で襟元の紋章だけ消して手を下ろします。






「いや〜、ぶつかっちゃったのがエリザちゃんで良かったよ!お貴族様なら『打首じゃ〜』とか言ってそのままばっさりだったよ。絶対にさ」


先程私とぶつかってしまった少女――名前はナンナと言うらしいです――とはすっかり打ち解け、こんな話をしてくるようにすらなりました。

校内見取り図を丸め、首にトントンと打ち付ける仕草をしながら、アリスにでてくるハートのクィーンもかくやというお貴族様像を説明されました。


なんか、隠しちゃったから今更明かすのは可哀想かなとか思ってたら、カミングアウトのタイミングを完全に見失ってしまいました。

お前さんの目の前にいる私こそが、お貴族様なんやで。


平民。というとなんか上から目線な感じがしますが、貴族でない子はあまり捻くれてなくて、そのまんま子供です。

さっきまで他人だった人とあっという間に友達になってしまうんですから、凄いですよね。


私も昔、旅行で他県に行った際、現地の公園で一日限りの友達をこさえるくらいにはコミュニケーション能力があったはずなんですがね。どこに消えたんでしょう。


「あれ?そういえば私がぶつかっちゃった時、エリザちゃんなんで無事だったの?当たった感じだと、こかしちゃったとおもったんだけど…」


「あ、あぁ、そうですね。私、以前風魔法が得意だって事を聞かされましてね。こう……風を集めてクッションみたいなので……」


そう言いながら先程と同じ要領で風を集め、体を任せてみます。

強い追い風が当たっているような気分で、悪くないです。


「ほら、こんな感じで」


「ほぇー、すごい……。あれ?でもおかしいなぁ。いつ詠唱したの?」


「あ」


風よ集まれぐるぐるどーん、とかなんとか人差し指を振りながら言ってみましたが、手遅れですね。


「えー、どういうことー?」


ナンナちゃんがぐっと迫ってきます。


「ん、いや、これはそのぅ……いや、はい。無詠唱で魔法は使えます。でも、多分難しいから皆出来ないだけです」


「あれぇ?そうだったかなぁ…無詠唱ができたのは大賢者クォードル様だけで、それも神様から祝福を受けたから、とかだったような気がするんだけど…」


あぁ、この世界の地歴とか全く知らないのでクォードルが誰か分かりませんね。もしかして、炎の魔法で自律式の狼を作った賢者とやらと同一人物なんでしょうか。

ですが、結構一般教養っぽいので人前では極力隠した方がいいかもしれません。というか、そうすべきですね。


「あ、あれが実技練じゃあないですかね?」


ようやく目的地が見えてきたので無理矢理ですが話題をそらします。

彼女も自分の記憶に自信がなさそうだったので、すぐに切り替えてくれたのも幸運でした。


「わぁ、ほんとー!おっきいね!この中に私の家、何十軒建つだろう…」


確かに多くの生徒が中で暴れても大丈夫なようにどこかのスタジアムくらい広いですが、さすがに何十軒は多すぎませんかねぇ……。

私が一般階級の人達の暮らしを知らないだけかもしれませんが。


「でもそうですねぇ、ほんと、大きいですね」


大きさとは力の象徴。近くに見える王城なんて、それこそ街でも中にあるのかと疑うレベルの大きさです。

学園ですら、今眼前にある大きな実技練を含め、相当な広さです。全く、アホみたいな広さです。


日本は、特に都会なんかに行くと土地が足りず、とにかく底面積は小さく上に高くって感じでしたから、ここまで大きい施設というのも見た事がありません。


感嘆の息がついつい漏れてしまいました。


実技練に入ると、お互い決められた席につかねばならないので別れました。


遠くから、私の席を確認したナンナちゃんが手を振っています。私も少しだけ手を振り返すと、一瞬視線が私に集まった気がしてゾクリとしました。


さて、始まるまで長くはありませんが時間があります。

辺りを見回すと、皆そわそわしているようで席の近い子と談笑したり、緊張した面持ちでちょこんと座っているような子もいます。

というかあの強ばった顔の子、ルッツ君じゃないですかねぇ。


そんなことを考えながら、渡されたパンフレット等を読んでいると辺りが暗くなり、前方にライトが集まります。

光源を追っていくと、ライトではなく先輩達が光魔法を一生懸命使っているのが見えました。

そりゃそうよ。ライトなんてハイテク機器あるわけないですもんね。

これを入学式中ずっと続けるんでしたら、相当辛そうです。縁の下の力持ち、なんて言葉初めて使いたくなりましたよ。


校長が前に立ち、校訓や励まし、学ぶとはなんぞやという事について熱弁します。

魔法学園の校長と言うからには、白髪で髭もじゃのご老体かと思っていましたが、普通のおじさんでした。まぁ、別に校長先生にインパクトとか求めてないので良いんですが、少し雰囲気に欠けるなぁ…。


次にご来賓の方々からの祝言をいただき、先輩達からのお祝いとして、ちょっとした頑張れというメッセージと、魔法のショーを見せてもらいました。


別に攻撃したり、防御したりという戦闘に使うものだけが魔法ではありません。

暗闇の中で魔法を使うとそうなるのか、果たしてわざと光をつけているのか分かりませんが、薄らと光りながら水や炎なんかが不定形のまま、もしくは何かの動物を形取りながら会場全体を踊り抜けます。


子供の頃に行った、近くの遊園地にこんな感じのアトラクションがあったなぁと追憶しました。


乗り物に乗って、薄暗い館内を巡って行くのですが、その際に至る所に張られたイルミネーションがキラキラと輝いていて、正直薄暗いのは苦手なのですがそれを忘れさせるくらい、綺麗だと思った事があったのです。


長らく遊園地なんて行ってませんでしたから、もう殆ど忘れかけていた記憶でしたが、この情景をみるとあの時のノスタルジーが蘇ってきます。



長いとも一瞬とも思われる先輩たちの歓迎が終わると、最後に新入生首席、席次、席次三番までの生徒が前へ出て、新入生挨拶をして終了みたいです。


なんと、首席はアメリアちゃんで、三席の子はナンナちゃんでした。

ちなみに、席次は知らない男の子でした。

王子、あんなに派手な魔法使ってたのにどこ消えたねん。



にしても、こんなに多く新入生がいる中で、堂々の一位とは凄いですね。ルッツ君が天才だ、なんて言っていたのも頷けます。

ナンナちゃんも、貴族出ではありませんがよく勉強したんでしょうねぇ。


以前の私なら嫉妬に駆られて嫌いになっていたような気がしますが、不思議と今はそんな気持ちが湧いてきませんでした。


心の中で私の方が優れてるだとか、どうせ子供だし見たいな浅ましい感情がそうさせているのかも知れません。

とはいえ、どこか保護者のような目で見てしまってる気がしたので、そういった所もあるでしょう。


なんなら昔と違い、私は社会的強者であるという余裕かもしれません。


自己分析をしつつ、挨拶を終えたアメリアちゃんに皆で拍手をしました。


この後はすぐ近くの教会に寄って、宿舎の自分の部屋に向かえば残りは自由時間です。

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