5ページ目、ギルドマスター
倒れ込んだ男を見ると完全に気絶しているようで、ピクリとも動きません。
まさに一瞬の出来事で、私はともかくギルド内にいた冒険者達もこちらを見つめて驚きの表情を浮かべています。
お父様の実力…というよりその怪力を初めて知り、恐ろしいというよりは「凄い」と思いました。
自分もこの世界ではああなれるのでは?という、どこか憧れにも似た感情を抱きました。
ですが、同時にあれで殴られて無事な自分の体を不思議に思いました。
単に記憶を思い出したというだけではないのかもしれません。
ともかく、お父様は肉付きは良いのですが、それでも貴族ですからそこまで筋肉があるように思えませんでした。
流石は異世界、現実じゃありえないような刹那の攻防を、私は息を呑んで見つめることしか出来ませんでした。
「おい、あいつこの前ここに来たCランクじゃねぇか?」
「まじかよ、相手は何者だ?なんか見覚えはあるが…」
「いやー、でもあいつにゃ困ってたからスッキリしたぜ」
だのと冒険者達が口々に思いの丈を漏らしていましたが、お父様に睨まれると一瞬にして口をつぐみました。
ようやく奥から、恰幅の良さそうな男性が、先程の受付の人に連れられてきました。
「大変お待たせ致しました、ロウダ様。こんなところで待たせてしまい、申し訳ございません」
深々と頭を下げた後、お父様の足元で気絶をしている男を見て眉を顰めました。
「ギルマスが頭を下げるあいつは何者だ?」と戸惑う冒険者達の方に目をやり、
「おいお前ら、これはどういう事だ?」
と睨みつけました。
「お、俺らはただ見てただけだ。そこの、あいつが勝手に喧嘩売って勝手にぶん殴られただけだよぅ」
群衆の内、人が言った。口々に「そうだ、その通りだ」と肯定する声が増えていきます。
「はぁ……こいつが悪いんだな。前々からこいつは気になってはいたが……おい、お前ら、この方はこの街、いやこのロードラン領をお治めになっているロウダ・フォン・ロードラン様であられるぞ!よく覚えておけ。そして、二度とこんなこと起きねぇようにしな」
それを聞くと冒険者達は顔を青くして散らばっていきました。
ギルドマスターはこちらに向き直ると、もう一度頭を下げた。
「うちの者がご迷惑をおかけしたようで、誠に申し訳ございません。当ギルドとして、この手のいざこざは個人の責任でして、そのう…」
「ああ、構わん。ここには一冒険者として訪れたのだ。それに、お前からその口調で話されるのは未だに慣れん。砕けてもらっても構わない」
お父様のその言葉を待っていたと言わんようにニットと笑うと、
「ありがとよ、ロウダ。じゃあ奥の客室に行こう。積もる話もあるしな」
と言いました。
ギルドマスターさんの目はお父様を心底懐かしむように光っていいました。
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