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41ページ目、治療

間もなくして、ソルラヴィエ学園で教師をやっているという男の先生が訪ねて来てくれました。

名前を聞きそびれたのでここへは書けませんが、その先生は大急ぎで来てくださったようで、屋敷に着いた時ですら息を切らしていました。



彼は目線を私に合わせるようにしゃがみ、優しく微笑みかけてから幾つかの質問をしました。

食欲はあるかとか、どんな気持ち悪さかとか、変な夢は見ないかなど数十項目程受け答えをすると、なるほど、と呟きカンナさんとお父様に状況説明をしました。


「そちらの女人の言う通り、魔力過多ですね。どうやらまだ命に支障をきたす程ではありませんので今の所は猶予があります。これなら何とかなりそうです。対処方としましては魔力を出し切る事が最も有効なので……大量に魔力を使う魔道具を使うか、もし使えるならば中級以上の魔法を使い過度に消費するか、になります」


それを聞いてお父様はなんとか安心したような顔をしていましたが、私とカンナさんは顔を顰めました。


違うんや、兄ちゃん。最上位魔法毎日使ってこれなんよ……。


しかし、私の魔力量が異常に多い事には気づいたようで言葉を続けます。


「しかし……御息女様は魔力量が相当多いようです。さっき言った程度ではもしかすると役不足かもしれませんね……。魔力を常に外に排出し続ける魔法陣を描くのも1つの手です。ですが、その……」


「ん?なんだ?手段があるなら勿体ぶらずに使えば良いのではないか?」


「いえ…そのですね。魔力過多は何らかの原因で魔力が偏ってしまった状態なので、何とか乗り切ればしだいに正常になるはずです。それまで魔法陣でやり過ごす事もあるのですが……体から直接排出することになるので、肌に魔法陣を描かねばなりません。魔法陣自体も長くは持ちませんので、2週間に1度描き直さねばなりませんし……エリザ様だとまだ小さいので、表面積の広い背中に描くことになりますが、恥ずかしかったり、体に魔法陣を刻むこと自体あまり好しとされませんからね」


申し訳なさそうに肩を竦めながら問いかけました。


「どう……なさいますか?」



それを聞くと、お父様は黙り込んでしまいました。

娘の肌を人前に晒したくないとかあるんでしょうか?いや、私はまだ9歳なのでそれは無いか……

とすると、世間体的に体に魔法陣を描くのはそんなにも良くない事なんでしょうか?


「でも、背中ですし普段見えなく無いですか?」


そう尋ねるとカンナさんも頷いて賛同します。


「エリザ…様の魔力量は多分皆が思っているよりも相当多いです。魔法を使い続けるのも良いですけど、決定打に欠けます。一生残るものでも無いですし、私は良いと思いますよ」


「……確かにそうだな…。2週間くらい、しかも背中全体など誰も見ないだろうしな。頼む」


「分かりましたが、一応リスクもあります。魔力を排出し続ける特性故に、魔力が自然回復しません。魔力切れに陥ったらその時は無理やり陣を消さないと非常に危険です。それでも大丈夫ですか?」


「む?」


あー、もう。どうしてややこしくするかな。

かなり気持ち悪い気分な私からすると、さっさと直して欲しいです。

どのくらい排出するか分かりませんが、慢心とかではなくこんなにもあればそう魔力切れにはならないでしょう。


喋る気力もあまりないのでカンナさんを見やると、わかったというようにうなづいてくれました。


「多分ですが、そこも大丈夫です。エリザはそう魔力切れにならないでしょうし、私も魔法には心得があるので教えて頂ければ様子見くらいはできますよ?エリザ…様は今随分と苦しんでいるようですし、早いに越したことはありません」


それでもお父様は悩んでいましたが、私が全力で頷いているのを見て、許可してくださいました。


「では、早速作業に取り掛からせて貰いますね」


そう言い、彼は大きな旅行カバンのようなものから何枚かの紙と、青鈍色の棒とインクを取り出しました。

棒をインクの瓶につけると、先端に球状になったインク液の塊が浮いていました。どうやら毛がなくてもインクをそのまま筆先として使えるようです。

朦朧とする頭でその筆の様子を眺めていると、お父様が先生に呼びかけました。


「おい」


「はい?」


「変なことするなよ?」


「はっ?」


「お父様!」


すまんすまんと笑うお父様。私の苦しみを紛らわせようとした彼なりのユーモアなのでしょうか?

ですが、今は本当にそういうのは結構なんで。

先生も苦笑いですし……


とは言え人前で肌を露出するなど小学校のプール以来……いや、普通に病院に行った際聴診器を当てるために脱ぎますね。

それでも現在は花も恥じらう乙女ですから羞恥心は無きにしも非ず。

結論も出せないくらい思考が濁り、そもそも何を考えていたかよく分からなくなってきた時点で思考を辞めました。


背中ということなので、先生には背中を向けたまま上の服を脱ぎ、ベッドにうつ伏せになります。


少しばかり緊張しながら待っていると、ふと背中に冷たい線が引かれました。直接ものが触れている訳ではなく液体を垂らされるような感覚が背筋を伝い、むず痒くてついつい身を捩りそうになります。

相当複雑な魔法陣でも描いているのか、はたまた私が緊張し過ぎているのか、だいぶ長い間そうしていたように思いました。


「……出来ました。これで大丈夫だと思います」


服を着てから、ありがとうございましたとお礼を言うと「また2週間後に様子を聞かせてね」と返されました。


確かにこれで解決って訳じゃありませんからね。

原因は不明ですが、どのくらいで治るのか不安です。2週間に1度で何回も様子を見るとなると、数ヶ月かかるのでしょうか。


もしそうなら、早い内に魔力を出し切ってしまって、後はこの魔法陣を再現出来たら完璧なのでは無いでしょうか。


幸いにもお父様は忙しく、私の魔法の練習風景を見る余裕はありません。

どんなに変な魔法を使っててもバレないでしょう。

とりあえず2週間で魔力を出し切ることと、魔法陣の再現。


小さな、本当に小さな目標が2つ出来ました。

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