4ページ目、冒険者ギルドの出来事
この回から回想、のような形で一人称視点に切り替えます。そもそも一人称は難しく、私の文章力で至らぬ点もございますが、悪しからず。
私が意識を持って数日後。お父様もようやく心のざわめきが落ち着いたようで、「感動の再会感」は少しづつ薄れていった。
それは悲しい事ではなく、むしろ日常を取り戻しつつあることであり、喜ばしいと思うのだ。
わたしくごとではあるが、エリザの顔はとても可愛らしいと思う。自画自賛では無く、宮原風音として客観的に見てそう思うのだ。
前世では自信がなく、自ら動こうと出来なかったが今は違う。
顔の自信は心の余裕。
今世は顔面偏差値に甘んじてあざとく生きていこうではないか!
そう心に決めたのだ。
ある日「オレの自慢の娘を紹介せねばならん奴がいる」と言い、初めて御屋敷の外に連れて行ってもらいました。目立つといけないので、庶民の着るような服を用意してもらいました。
御屋敷の下に広がる街は賑やかで、とても豊かな雰囲気がしました。
石の街道はでこぼこしてはいるが比較的整備されているようで、色んな露店も並んでいる。
皆髪の毛の色がカラフルで、中には獣の耳のようなものが生えている者もおり、改めてここは異世界なんだなぁと思いました。
見るもの全てが新鮮できょろきょろしているとお父様が頭を撫でてくれました。真意は分からないけれど、心の底から温かいものが広がっていくの感じました。
前述したように、この世界には魔物や魔法がある。
冒険者と言うのは、基本的には何でも屋だが、魔物の討伐を主とする。
そんな冒険者達の集まりが冒険者ギルドと言う。ただ、ギルドは冒険者が集まっているのではなく冒険者をサポートする機関である。依頼をギルドを受けたり、魔物の部位を買い取って貰ったり、ありとあらゆる情報を貰ったり。
実は冒険者ギルドは国から独立しており、ギルドの身分証があれば国際間の行き来も楽になるらしい。
さて、お父様の知り合いは果たしてロードラン領のギルドマスターでした。
ギルドに入ると流石は冒険者と言ったような喧騒と様々な臭いが混ざった、少し野蛮そうな空間が広がっていました。
お父様に手を引かれながら辺りを見渡すと、昼間っからお酒を飲んでいる者や、仲間と談笑している者、大きな怪我をして項垂れている者もいました。
屋敷とは違い、皆いかにも荒くれ者という風貌です。
お父様がギルドの受付に着きました。見やると受付の女性はうら若く、着ている服も小綺麗でした。その分受付だけ場違いな感じになっています。
父は受付の女性に「ギルマスにロウダが来たと伝えてくれ」とだけ言いました。
お父様の顔はあまり知られていないのでしょうか。その女性はきょとんとしていましたが、別の職員さんに何やら耳打ちをされ、慌てて奥の階段をかけ登って行きました。
「まぁ、ここ数年街には顔を出していなかったからな」
お父様は微笑みました。
「街は平和そうでよかった。俺の知らない内に変わってたらどうしようと思ったよ」
ギルドマスターを呼んでいる間、暫しお父様と他愛もない話をしていました。私の中のエリザが喜んでいるのを感じると、私もなんだか幸せな気分になりました。
その気分を遮るように1人の男が割って入って来ました。
「ここはお前のような弱っちいオッサンが、子供つれて来るような所じゃねぇぞ。不愉快だ」
大きな体躯の、黒い肌をした男でした。
。
「だがまぁ、多くないかもしれねぇが金とそこの嬢ちゃん差し出したら許してやるよ」
そう言うとニヤけたまま左の掌に右の拳を何度かぶつける仕草をしました。チンピラ、と言うのでしょうか。日本にいた頃はおおよそそんな人間と会うことはなく、平穏に暮らしていたので、とても迫力があります。
何故この類の人は支離滅裂というか、おおよそ理解できない結論を出すのか疑問で仕方ありません。
「ああ?なんだァ、その目は。俺はCランクでも上位なんだぜ?逆らうのか?」
そう自信ありげに男が言うのですからCランクはとても強いのかと思いました。事実、Cランクまでなれば熟練といったところですし、その中でも上位となるとかなりの手練です。
当時の私はそれをよく理解していませんでした。
ですが、お父様がグラウンドドラゴンに挑んだ英雄の1人だとは夢にも思っていなかったので、とても不安でした。
表情が顔に出ていたらしく、お父様は
「大丈夫だよ、俺が守るから」
と微笑みました。
「若造。お前、この街の冒険者ではないな?」
「あ?それがどうした」
「なら、1発ぶん殴ってやろう」
お父様は自信ありげでしたが、正直私はまだ不安でした。昔冒険者を少しやっていたからと言ってただの貴族です。むしろ「魔法系か?」とさえ思っていたので肉弾戦は不味いのでは。そう思っていました。
一瞬でした。
挑発に乗った男がお父様に殴りかかった瞬間、お父様はしゃがみこみます。そのまま足払いをするとミシッという嫌な音と共に男の巨体がバランスを失いました。そして、立ち上がりざまに、よろけた頭をすくい上げるように拳を振り上げるとその勢いで男の体が反対方向に倒れたのでした。