35ページ目、誕生の祝祭2
それからは随分とアメリアちゃんの表情は柔らかくなり、ジークさんもその変化に少し驚いていました。
「ひゅー、やるねぇ」
だのとカンナさんがヤジを飛ばして来たので、ジークさんがいるので好きな食べ物を持っても良いと言うと「ごめんごめん」と笑いながら歩き去って行きました。
「そういえばその緑のドレス、とてもよく似合っていますね」
そう言うと、アメリアちゃんは少し顔を俯けて「当たり前でしょ」と呟きました。
髪の間からちらりと見えた耳がほんのりと色づいています。
それにしてもよく考えると、今私がこうやって女の子に話かけてるってなんか凄いですね。
昔は迷ってる子に話しかけただけで変な目で見られたくらいですから、やはり見た目って大事なんだなぁと思案しながらアメリアちゃんとの会話を弾ませていました。
改めて、綺麗な容姿に産んでくれた両親と、それに今私が宿っているという幸運に感謝を捧げました。
アメリアちゃんがずっと話し続けていたのでそれを聞いているとあっという間に時間は過ぎ、閉会の時間が近づいてきました。
カンナさんが未だ戻らないので探しに行くと、室内の方でずっと食べ物を漁っていたようで「いや〜美味しいもんだね、高級食材で作られた料理というのも」と笑っていました。
そんなによく食べる人でしたっけ?お腹大丈夫でしょうか。
ですが、バイキングなら元を取ろうとお腹に詰め込むのは分かりますし、閉会ギリギリまで私も残っていたケーキやらクッキーやらステーキやらを一緒に食べました。
昼食代は浮きそうだ、なんなら夜も要らないかもしれん。なんて考えている貧乏性な自分を見ると、貴族っぽくはないから治さなくちゃなぁと苦笑が溢れました。
翌朝、1番に馬車に乗り、王都を出ました。
短い滞在でしたが、行きと帰りを含めると2週間強くらいです。カンナさんもいるので寂しくはありませんでしたが、やはり彼女は友人止まりです。お父様が恋しくなってくる今日この頃。
帰りの馬車に揺られている間、カンナさんに「魔物」というものについて教えてもらいました。
曰く、魔力の流れた生き物。曰く、野生動物の変異体もいる。曰く、更なる魔力を求めるようになりとても好戦的。
ドラゴンやトロル等の魔物は純魔物と言われ、魔力が通っただけの野生動物――ホーンラビットやフォレストウルフという魔物なんかは後天魔物というそうです。
後天魔物は強い魔力に当てられ、体内に魔力が流れるようになり身体能力が大幅に上がった魔物ということですが、これが人で言う身体強化にあたるんですね。
つまり……
「人と熊が素手で戦って、どっちが勝つと思う?」
「熊…ですかね」
「そこで、身体強化を使えば熊にも勝てる。では、熊にも同じ上昇量の身体強化がかかれば?」
「熊が…勝ちますね」
「つまりは、異世界パワーに頼るのもいいが過信はしないように」
その言葉でカンナさんの魔物講座は幕を閉じました。
凄く腑に落ちる例えでした。私も現状に満足せず、出来れば並の魔物からはダメージを受けないくらいには強くなりたいなと思ったのでした。
馬車の窓から身を乗り出すと、春風が頬を撫でます。
……そろそろロードラン領には入ったでしょうか?