34ページ目、誕生の祝祭
会場は王城のすぐ側の大きな御屋敷と、その庭で行われました。
聞くところによると、昔王国に尽力した英雄が住んでいた屋敷のことで、国でも特に大切な祝祭はおおよそここで行われます。
ただの誕生日会ではありますが、私の世代はソルラヴィエ王国の第三王子がいるので特に豪華なのだそうです。
5分前の5分前では遅そうなので20分前行動を心掛け会場に着くと、既に何人かは来ており談笑をしておりました。
特にやることもないのでいつもの特等席に座ります。本日は快晴。風が少しひんやりとしていますが、日向でじっとしているとUVが肌を焼きそうです。
会場の隅にある私の特等席はちょうど大きな木の下にあり、影ができます。少し寒いですが動くのも億劫ですし、その場にじっとしてカンナさんのお喋りをしていると視線を感じて顔を上げました。
開始時刻が近づいてきた事もあり、会場には結構な人が集まり少し景観が悪いですね。というか、こんなに人多かったでしょうか?
いつもはもうちょっと空いていて、遠くでわいわいしているのを眺めるような位置だったような……
いや、これは人が増えたのでなくて皆がこちらに寄っているようです。
皆こちらを気にするようにチラチラと見、そわそわしています。
今年は何かあるのでしょうか?カンナさんの方を見上げ、小首を傾げましたがカンナさんは真意の分からぬ笑みを浮かべるだけでした。
もしかしてカンナさんって序列8位とやらですし、有名人?そういう事でしょうか?
そうこうしていると太陽の絵が描かれたローブを着た、司祭様が庭に設置された壇上に登りました。
開会の合図です。
私のいる席の近くに集まっていた子供たちは皆そちらへ注目を移し、さっと引いていきました。
あぁ、いつもの距離感です。
「我らが太陽神様の威光が戻りつつある新春、新たに歳を重ねる子らはこれからの王国に……」
司祭様の演説は最初は緩やかに、後半になるにつれ激しく声を荒らげながら私達に祝いの文句と神の偉大さを問かれます。
そもそも、ソルラヴィエ王国は太陽を崇める宗教国家であるのです。そりゃ現代日本で言うところの中性ヨーロッパ辺り何で国教があったり、教団の威光が強かったりするのは仕方の無いことなのでしょうが、日本人としての本能が若干の嫌悪感を訴えかけます。
この世界は魔法という神の力の片鱗の様なものを使え、あまり科学的な側面の発展が乏しいので「神」という存在にいっそう真実味が増すのでしょう。
熱心に語る司祭様の演説が終わり、その他要人からのお祝いをいただき、ようやく宴が始まりました。
意外にも親が同伴してる子が多いらしく、私とアメリアちゃんはむしろ珍しい部類そうです。
というか、アメリアちゃんはまだ来ていないのでしょうか。見当たりませんね。
人が集まりすぎて良く見えませんが、遠くの団子のような集団は王子を囲っているのでしょうか。
親を連れて……というか親が子を連れて王子様に挨拶をしているようです。なるほど、権威のある者に取り入ろうとするのは当たり前ですよね。
本来は私もああした方が良いのでしょうが、あいにく現状で満足しているので、まぁ大丈夫でしょう。
集まっていない子たちも結構いるようで、友人との会話に夢中な者、人に混ざるのが苦手な者、用意された料理に夢中な者。皆様々に誕生会を楽しんでいるようで、実に微笑ましいです。なんというか、公園で遊んでいる子供を眺めるような?
そんな事をあれこれ考えながら会場の様子を眺めていると、ふと声をかけられました。
「何をにやにやしてるの、変なの」
振り向き、見上げるとジークさんを連れたアメリアちゃんがいました。
「あら、私ったらそんなに顔に出てました?恥ずかしいです〜」
笑って恥ずかしさを紛らわせていると、アメリアちゃんが私の向かいの椅子に腰掛け、ジークさんにお茶とお菓子を取ってきて貰うように言いつけます。
「いや、去年まではしっかりと見ることが出来なかったので宴の様子を見ていたのですが、皆が幸せそうにしているので、平和だなぁとか微笑ましいなぁとか思っていたのですよ」
それを聞くと赤い眉毛をくっと曲げて分からないわと言われました。
まぁ、大人が子供を見て思うような感情を子供が理解したら驚きですからね。
ふとアメリアちゃんが何かを考える素振りを見せ、表情を暗くしました。
「……なんだか、あなたとこうしてお話していると不思議な気分になるの。私はあんまり仲のいい子は居ないし、いたら面倒くさそうだって思っていたの。だからずっと1人でいいやって思ってたの。お人形さんとならいつまででも遊んでられるって思ってた。でも、あなたは人形じゃなくなっちゃったじゃない。なのに、なんか違うの。なんで違うの?これは、なんなの?」
答えるなど簡単な話です。しかし、自分の感情を分析するという事をその歳で出来るなら、あまりに早熟だと思います。少し、背筋がぞっとしました。私は6歳児という殻に縋って自分は偉い等と評価を貰っていましたが、このままではすぐに追いつかれそうです。
少し表情を曇らせてしまったようで、何よとアメリアちゃんから声をかけられて我に返りました。
「あぁ、いえ、すみません。アメリアさん、あなたは今の私の事を面倒くさいって思っていますか?今の私と一緒にいて少しでも楽しいって思いますか?今の私のこと、好きですか?」
「面倒くさいなんて思ってない……楽しいし、一緒にいたいしそれに……す…」
アメリアちゃんの真っ白な肌がほんのりと赤く染っていくのが見えました。
言葉をつまらせ、身体を震わせながら顔は険しくなっていきます。
「そう。では、私達は友達ですね。気負わなくても……あー、私の気持ちに心配をせずにアメリアちゃんの好きなように接してくれればそれで良いのです。私はそんなアメリアちゃんを受け入れます。それが友達です」
手を伸ばし、アメリアちゃんの額に人差し指を当てると、柔らかく弾力のある触感が返ってきました。
「さて、お菓子を食べましょうか」
丁度ジークさんがお菓子を持って帰って来たところでした。