31ページ目、実技試験
「円の中心まで来てください」
言われるまま、部屋の中心に書いてある円に入ると、小さな魔法陣がひとつ、前方に出現しました。
「今からスケルトンを召喚します。それと戦い、実力を測ります」
職員さんの言葉にコクリと頷き、魔法陣を睨みます。
何気に今まで魔物と対峙する事など1度もありませんでしたので、緊張します。スケルトンと言うと、人骨の魔物でしょうか。
というか、子供相手でも魔物をぶつけるんですか。まぁ、危険を知らせて弱い者が死線に飛び込まない為の防波堤なのかも知れませんが。
カンナさんから教えてもらった魔法のひとつにウェポンなんちゃらというものがあります。難易度が高くマイナーな上に、カンナさん自身無詠唱でしか使っていないので本人も魔法名はうろ覚えで、まして私は一切知りません。
効果は簡単、自分の思い描いた武器を魔力で作り上げる、便利な魔法です。
とはいえ魔法使いは武器を使わないので、前衛が武器を破損した時に予備として使うの事が多いのだそうです。
強度は術者の魔力の質に依存するそうですが、私はカンナさんからも質は良いと褒められたのでおおよそ大丈夫でしょう。
自身の周りに魔法障壁を貼り、青鈍色に光る魔力剣(仮称)を掴み、この前覚えたばかりの身体強化を使い、準備万端です。
職員さんが魔力剣(仮称)をみて驚いていたのを確認し、少し鼻が高くなりました。
さて、事前にどうやって倒すかと考えていると、魔法陣が紫に変色し、その縁に真っ白な棒きれのような指がかかりました。
指にぐっと力を入れ髑髏が姿を現し、そのまま一気に一体の骸骨が這い上がって来ました。
目玉があるべき場所は大きな洞窟が広がっているだけであり、弱々しい骨がカタカタと音を鳴らしながら繋がっています。
歯も何本か欠けていましたが、頭蓋骨には大きな亀裂が走っていました。
全身はやや小柄なものの、足が外側に開いており男性のものかも知れません。
………人骨という事は、生前人間であったということでしょうか。頭蓋のヒビは、死因なのではないでしょうか。
魔物としては下位に分けられるスケルトンですが、直接「人の死」を体現したその容姿は私を怯ませるのに十分でした。
だって骸骨が動くんですよ?
骨なんて見たの、おじいちゃんの葬儀以来ですよ?
「はじめっ!」
鋭い声にはっと意識を取り戻し、スケルトンに注意を向けます。
既にスケルトンは距離を詰めようと動いており、こちらに腕を伸ばしてきます。
気圧され、一旦後ろに飛びのきました。じっくりと相手を観察し、安全に倒せる方法を考えます。
剣を腕に当ててみると、思ったより強い力で弾かれます。その度に骨の繋ぎ目が擦れ、カラカラと小さく音がなりした。
筋肉による腕力では無いので、正直力量を測りかねます。仮にも魔物というのですから、恐らく通常の人間よりも力があると見た方が良いでしょう。
それに、どうやったら戦闘不能になるのでしょうか。
隙を見て、一太刀の元、右腕と首を切り飛ばします。カツンと高い音がなり、簡単に振り抜けました。
再び距離を取り、切られた骨を見やると腕も頭も胴体も動いています。
………関節で切っていった方が良さそうですね
動きは単調なので、関節を壊すのは簡単でした。
バラバラになった骨を見て、なにか死者を弄んでるような不快な気分になりましたが、とにかくスケルトンは動けなくなっています。
「ええと、これでも大丈夫なのでしょうか?」
倒せた?訳ではなさそうにも思いますがとにかく力を示すことが本懐なので、魔力剣を消し、職員さんに判断を仰ぎます。
「……え、あぁ、すみません。文句無しの合格です。まさかスケルトンを倒しちゃうとは…」
「ん?本当ならどういう倒し方なんですか?」
「ええと……炎系の魔法で焼き尽くすか光魔法で祓うかになります……力が強く、耐久も高い魔物でして、切っても倒せないので、物理職の方はどのくらい戦えるか、または粉々に砕くかで力量を測るのですが……」
まさかこんなぶつ切りでも動けなくさせるとは、と感心したように呟いています。
「切り口も綺麗ですね……剣は誰から習ったんですか?」
「マイヤーさんって方と、こちらのカンナさんからです」
「なるほど……良い先生を持ちましたね」
職員さんはしゃがんで私に目線を合わせると、にっこりと微笑んでくれました。
「はい!」
私もできる限り満面の笑みで返すと、職員さんは頷き、立ち上がりました。
「では、先程のカウンターへ戻りましょう」
ギルドの広間に戻ってくると、また少し人が増えており、所々から笑い声や怒鳴り声が聞こえ、空間の温度が少し上がったように感じました。
「おめでとうございます、今日からエリザさんはFランクの冒険者です。一応なりたての方にはギルドについて説明しますが、そちらのBランクの方がある程度説明してくれてると思うので省きますね。なにか質問はありませんか?」
そう言いながら、職員さんは銅色のプレートをくれました。
プレートには
Fランク エリザ
とだけ書いてありました。
裏を見てみましたが、普通に銅色で何も書いてありません。
「あの、裏側が黒色になってるプレートってなにか意味があるんですか?それと『序列』ってなんですか?」
小首を傾げ、職員さんに問いを投げかけると歯切れの悪そうに答えました。
「裏が黒色なのよく知ってるね。これは職員と本人くらいしか知らないはずなんだけど、それは序列を持ってる人のプレートで、その序列って言うのはギルドに登録してる冒険者の中で特に腕のいい上位50のこと……で……はっ!?」
職員さんは何かに気づいたように突然大きな声を上げ、慌てて口を塞いでいます。
「あ、あの?何か?」
心配になり顔を覗き込むと、その視線はカンナさんに向けられていました。
「もしや、カンナさんって、神威のカンナ……さん…?」