30ページ目、魔力測定
「エリザ・フォ…………エリザと申します」
苗字を名乗ると貴族とばれるどころか身元もばれるので慌てて言い直します。
危ない危ない。
「ええと、知り合いの娘でね、この子の冒険者登録もしておこうかなと思っていまして」
「……一応年齢制限はありませんがあまりに幼すぎるのでは?」
「あぁ、いえいえ、登録だけですから、実際に活動するのはだいぶ後になると思います」
「ん、そうですか……そういうことならまぁ、いいでしょう。ですが試験はいつもと同じのを受けてもらいますよ?」
「はい、ありがとうございます。では、あまりお手を煩わせてもなんですから私達はこの辺で」
カンナさんが小さくお辞儀をしたので1拍遅れて私も頭をぺこりと下げました。
ギルドの玄関ホールに戻ってくると、そこそこに人が増えていて賑やかになっていました、
カウンターも4つ全て解放され、先程の職員さんとは変わっていました。
「ごめん、二度手間だったけど、あそこに並ぼうか」
カンナさんの指は1番空いている受付に向いていました。
他の冒険者達も列を作っていて、一応順番はきちんと守るんだなぁと感心していると、直ぐに私たちの番になりました。
「本日はどういったご要件でしょうか」
「今日は……よいしょ」
カンナさんの右腕が私をすくい上げ、職員さんにも私が見えるようにしてくれます。
「この子の冒険者登録をしようと思ってね」
それを聞くと、営業スマイルを貼り付けていた職員さんが少し表情を崩しまた。
「……幼すぎるのでは?一応登録は出来ますが…」
「うん。登録だけだから。あ、エリザ、ちょっと私の冒険者プレート出してくれるかな」
先程懐にしまっていたのを思い出し、探してみると案外浅い場所にあったようで、直ぐに取り出せました。
銀色の方を見せてね、と小声で言われたのでその通りに見せます。
職員さんは銀色のプレートを見ると、何かに納得したように頷きました。
「Bランクですか……分かりました。ちゃんと危険になったら止めてくださいね。子供に何かあったら目覚めが悪い」
……ん?危険?何かあるのでしょうか?
不安を抱えたまま広い殺風景な部屋に通されました。
地面はそのまま土で、ただ空間を作っただけのような部屋でしたが、部屋の真ん中を中心に大きな丸が書いてありました。
「試験はここで行います。何かあれば職員が止めますが、カンナさん…でした?あなたもしっかり守ってあげてくださいね」
「え、試験って…」
小声でカンナさんに尋ねるとあれ?と聞こえてきそうな間の抜けた顔を返されました。
「言ってなかったっけ。登録の際には魔力量の鑑定と実技の試験があるって話……言ってなかったねごめん」
申し訳なさそうにへらへらと笑っていますが、絶対反省してないでしょ、あんた。
「では、まずは魔力の測定を行うのでこちらに来てください」
職員さんの方を向くと、机の上に面白い形の魔道具がありました。
丸い水晶の下から管が通っており、その管の先にはくすんだ金色の皿があります。
「一滴でも良いので血を、この皿に垂らしてください」
小さな針をセットで手渡されましたが、血を流すのは不本意というか、苦手です。こんなこと言ってちゃ冒険者なんかにはなれないんでしょうが、前世から自分を傷つけるという行為には「痛そう」という単純な理由から手を出しておらず、全く耐性がありません。
「カンナさん〜……」
涙目でカンナさんに頼ると、やれやれと言った感じで人差し指の腹を刺されました。
暫時の痛みの後、指の腹の真ん中から小さな赤い球がぷくりと膨らみ、表面張力が追いつかずに弾けました。
あまりじっくり見ていても精神衛生上良くないのでさっさと皿に垂らして指にヒールをかけました。
それが皿に落ちた瞬間、地面に染み込むようにして消えていきます。すると皿から管を伝って水晶へ青色の光が伸びていき、水晶が緑色に強く輝きました。
LEDを彷彿とさせるその強い光をみて職員さんが驚きの声を漏らします。
「なん……凄いですね。こんな強い光見た事ないです。魔力量だけならBランクの魔法使いの冒険者とも引けを取らないかもしれないです。………あ、属性は風ですね」
ほうほう。内包する魔力量は高いんですね。これはいい事を聞きました。基準となる人がカンナさんくらいしかいなかったので、一般的な意見はウェルカムです。
それにしても、風とはピンと来ませんね。使い方によっては強力ではありますが、私は少し苦手です。
攻撃魔法としての風は、強い魔物とかには効かなさそうに思いますから。
職員さんが紙に何かを記入し終わると、次は実技です、と告げました。