3ページ目、父親の話
6年の孤独が彼を狂わせた。
愛する者を憎たらしい者だと錯覚しつつあった彼の目は、ピクリとも動かぬ娘の体を見てようやく、嫌という程覚めていった。
この時、彼は絶望と自己嫌悪に打ちひしがれただろう。いや、もしかすると良き父でいられなかったことに対する謝罪の一心だったかもしれない。
私が声をかけた時の父は、いや、お父様は涙の後で目が腫れ、驚きの表情を浮かべていたが、その瞳は心の底から喜んでいたように思う。
強い衝撃で昔の事を思い出す、なんて原始的なものでは無いと信じたいが、ともかく私の記憶は彼女に芽生えたのだった。
もし、この時から今までのエリザが実は私だったって知ったらお父様はなんと反応するだろうか。
嫌われてしまうかもしれない。それは嫌だ。そんな感情があった。
私はね、最初これは異世界転生だと思った。つまり、私の魂が空っぽだったエリザに入り込んだんだと思ってた。
転生というのは合ってたけど、実際には少し違った。私はエリザの、ただの前世の記憶でしかない。
前世の記憶でしかない私が当面エリザを演じていても、自我が呪いで育たなくても、私の記憶や感情がエリザの中にある限り、いつかそれを元にきっとエリザ本人の意思が芽生えるはずだ。
それは私が消える事なのだろうか?だが、それだったら私が転生した意味はここにある。これこそ僥倖ではないか。
私の死は、1人の少女を生き返らせたのだ。意味はあったのだ。そう、信じたいのだ。
再会を喜んだお父様はその日一日中私のそばにいて、色んな話をしてくれた。
魔法の簡単な使い方、剣の扱い方、世の中にはスキルという物があること、そのスキルが無ければおおよそ迫害を受けること、それから10歳になれば王国立ソルラヴィェ学園という教育機関に入学せねばならない事。
4年間、お父様は失われた6年間を埋め合わせるように私との時間を大切にしてくれた。
お父様はよく頭を撫でてくれた。優しい緑色の瞳は穏やかで、何よりも私を安心させた。
私にとってもこの4年間は初めて親の愛に触れる機会でもあり、とても幸福だった。
だが、これは果たして私の感情なのか、エリザの感情なのか未だ決めきれていない。