28ページ目、短い半日
「なぁ、カンナ。お前さんがあの後どんな人生を送ってこうなったのか知らねぇが、来るなら事前に言っとけよ。お貴族様も一緒なんだったら尚更な。というか、お嬢さん達が誰か知らんが護衛が少なくないか?」
皆のお腹がふくれ、アメリアちゃんに至ってはうつらうつらしている中、ロベルトさんは口をとがらせています。
「まぁ、悪かったよ。久しぶりに仕事で訪れたけど、思いつきだったんだよ。護衛については問題ない。私は、もう君の知る『そこそこ強いカンナさん』じゃないからね」
ふふんと胸を逸らして自慢げに言うカンナさん。
ロベルトさんは半信半疑といった目でその様子を眺めているので、私からもフォローを入れてみましょう。
「ロベルトさん、料理美味しかったです。ありがとうございました。心配しなくてもカンナさんはとっても強いので私1人………子供2人くらいな1人で守りきってくれると思います。それに、私はカンナさんのこと信頼してますからね」
にっこりと笑って言うと、ロベルトさんは、ほぇー、随分と懐かれてるなぁと呟きました。
しばらくカンナさんとロベルトさんが談笑していたので、ジークさんとアメリアちゃんの方に目を向けます。
アメリアちゃんはくったりと寝こけており、ジークさんが彼女の体を抱き上げていました。
満腹になるとくる眠気と長旅の疲れとが相まって、熟睡しています。
少し早いですが、とりあえず宿に行きましょうかと尋ねると、ジークは頷きました。
2、3お別れの言葉やちょっとした助言をしてからロベルトさんの店を離れました。
ジークさんはアメリアちゃんを抱えているので両手がふさがっています。もしもの時の為に、護衛を兼ねて私とカンナさんもジークさんについて行くことにしました、
一旦大通りに戻り、そこから王城の方へ真っ直ぐ進みます。王城が近くなってきたあたりで、道が3つに別れていました。
標識を見ると、王城と学園と、貴族街へと続く道に別れているようです。
貴族街へと入ると、道を歩く人はぐっと減りました。
ちらほらと散歩している方々を見やると、いずれも気品のある煌びやかな服を着ております。
お父様も貴族なんだから、あれくらいの服を来て欲しいものだ等と考え事をしていると、ジークさんが立ち止まりました。
「到着致しましたここまで私の代わりに護衛をしてくれてありがとうございます、カンナ殿」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
「そう言って頂けるとありがたい」
ソルラヴィエ王国に属する貴族は、誕生パーティーを含め定期的に王都に行かなくてはならないので、王都の貴族街にもう一軒自分達の仮住まいを建てているのだそうです。
ジークさんの向かった場所もそういったところでしょう。仮住まいですのでうちには届くおよびませんがそれでも無駄に立派な家です。自分の家の力を誇示するために立派にしているのでしょうが、広くても寂しいのでもう少し小さくて良いのではと思うのです。
眠っているアメリアちゃんには申し訳ないですが、また明日と呟いて別れました。
そのままロードラン家の仮住まいに足を運びます。
アメリアちゃんのとこよりも少しだけ大きな建物でした。
カンナさんがノックするとその扉が開かれ、中から使用人さん達が出てきました。
主がいない間もこういった人達が住み込みで家を管理、維持してるのです。
日本人の庶民的な意見として、こんな人数をここに置いておくのは勿体ないような気がします。もっと人数減らしたらお金も浮くのでは?と思いましたがそこは侯爵家なので気にしないでいいのでしょう……
こちらの使用人さん達は私の事を知らされていなかったようで、1人しかいない見ず知らずの護衛と自分で立って歩いて喋っている私に随分と驚いていました。
部屋に案内され、カンナさんと明日の計画を立てます。
明後日がパーティで、明明後日には寄り道せずにさっさと馬車に乗る予定なので、明日で観光を済まさねばなるまい。となると、事前に回るべき場所を考えねば。
「………エリザって、やっぱりそういう所を見てると男性っぽい思考をするよね」
「なにおぅ?」
「あ、いや、気分を悪くしたなら悪かった。けどまぁ、計画なしにぶらぶらと回るのも良いもんだよ」
「んー、それでも見当くらいはつけときたいじゃないですか?」
「あまり変な所へは行かないようにね」とカンナさんは呆れたような笑い、私もそれに釣られ微笑みを零しました。
王都には珍しいお店が多くあります。ですが、そんなことはないと思いますがアメリアちゃんが顔を出して来るならば、こちらも予定を変えねばならないのである程度は適当な計画でも良いでしょうと納得し、慣れぬ館で半日過ごしました。
あっという間でした。見慣れぬ街ということもあるのでしょうが、計画を立てるのに何時間も考える癖は直した方が良さそうです。こんなだから、昔はいつも時間が足りなかったんでしょう。
ロードランとは違い、僅かながら、夜遅くまで遠くの城下町から人々の喧騒が聞こえます。
音で街の規模を感じ、人が密集している街にどことなく故郷の駅前を思い出しました。
ですが、この街の人々には灰色の男の影はありません。それぞれが人らしく、自分達の色を輝かせながら他人との繋がりを大切にしているのだと。
街のお店は物を買うための市場ではなく、人と人を繋ぐ市場なんだろうなと。
そんな妄想を思い巡らせながら目を閉じました。