27ページ目、昼食
そびえ立つ城壁は天を衝くような高さと大きさを誇っており、近くで見るといっそう強固そうに見えました。
一般の人が通る門とは別に、要人等の人達用の別の門があり、私達はそちらをくぐりました。
城門の中に入ると、陽の光がいっそう明るくなったように豊かな城下町が広がっていました。
果物だの、よく分からない肉だの、薬草だの色んな露店や屋台が並んでいて、さながら何かのお祭りの日のようです。
誕生日会までは後2日あります。ゆっくり街を探索しようかと思いを巡らせていると、ジークさんが話しかけてきました。
その脚に隠れるように、アメリアちゃんがいます。
「エリザ様、アメリア様がどうしてもあなたと一緒に行動したいと申されています。もし、この後なにか用事がないのであれば、お昼など御一緒にどうでしょうか」
「べ、べつにどうしてもとは言ってないんだから!」
アメリアちゃんがジークさんのズボンをぎゅっと握りながら口を尖らせています。
ジークさんは困った顔をしていましたが、アメリアちゃんが顔を赤くして今にも泣き出しそうに顰めていたので、カンナさんの許可を得てからご一緒することにしました。
子供は可愛いですね。同級生として見ると、あまりいただけない態度ですが、歳上として見るとなんとも可愛らしいものです。
とはいえ、昼過ぎです。あまり時間もありませんし、遅めの昼食を取って、ちらっと街を観光して、明日の準備やら計画やらを立てたらもう夕飯の時間になるでしょうか。
カンナさんが美味しい店を知っているとの事だったので、今度はアメリアちゃん達に無理を言って食事場所の決定権をもぎ取りました。
大通りから少し離れ、路を歩く人も減ってきた辺りに少し寂れた料理店の看板が下げられている店に着きました。
こう言うのもなんですが、アメリアちゃんには少し似合わないような貧しそうな店で、アメリアちゃん自身も不快そうです。なんだか申し訳ない気分になりつつも店内にはいります。
扉の上に下げられた鈴がカランカランと鳴り、奥から男の人がやって来ました。
店内をチラッと見たところ私たち以外にお客さんは居ないようです。
「やぁ、ロベルト、来てやったぞ。覚えているか?」
カンナさんに声をかけられた男は一瞬眉をひそめて思考しましたが、すぐに目の前のキョウ人が誰だったか思い出したようです。
「おー!カンナじゃねぇか。まさか本当に来てくれるとはな。ここ何年も音沙汰がねぇからどこかでくたばったんじゃねぇかと思ったぜ」
中肉中背、健康そうなものの少し荒くたいような容姿と口調に、ジークさん達は平然としていますがアメリアちゃんを怯ませています。
カンナさんに目配せをします。何となく察してくれたようで、ロベルトさんに釘を刺してくれました。
「あーっとな、ロベルト。申し訳ないが口調を少し正してくれないか。実は、今私はお貴族様の護衛をしていてな……えーっと、お忍び?でここに来ているんだ」
「まじか!」
ロベルトさんは叫ぶと、私やアメリアちゃん達を一瞥しました。
「なるほど、その年齢ということは祝歳会か。申し訳ない。………え?ここに何しに来たん?」
「お前、料理店にご飯食べに来た以外でなにか用事があると思ってるのかな?とりあえず席に座らせてくれ」
ロベルトさんが焼き鳥とお好み焼き(のようなもの)を運んできます。
「あ、あの、俺は店は持ちたかったのですがあまり腕が良くなくてですね、そのぅ……貴族様がお喜び頂けるようなものでありませんのでぇ……」
「いえいえ、カンナさんが『ロベルトの料理は昔から美味かった』と言っていました。確かに私達の普段食べる物とは違いますが、それはジャンルが違うと言うだけです。喜ぶか喜ばないかは、私の好みによりますからね」
にっこりと微笑むと、ロベルトさんは少しほっとしたような顔になりました。
待っている間にカンナさんから聞きましたが、ロベルトさんはカンナさんがこちらへ来てから初めて出会った冒険者さんなのだそうです。
冒険者ランクもそこそこに、料理店をやりたいという子供の頃からの夢を叶えて今に至るのだそうです。
カンナさんは、いつか食べに行くからねと約束をしていたそうです。
荒くたいのは仕方の無いことですが、悪い人ではなさそうです。ジークさん達もカンナさんの話を聞いて「そうだっのか。カンナ殿がそう言うなら信頼できよう」と納得してくれました。
問題はアメリアちゃんです。
「ふん!こんな庶民の食べるようなもの、食べるまでもないわ!うちの料理の方がずっとおいしいもの」
ツンケンして食べようとすらしません。ロベルトさんも顔を青くしてその様子を見つめています。
ここはひとつ。
お好み焼きもどきをひと切れ取って食べます。
「ん〜!美味しいじゃないですかぁ!確かに本場の料理人さん達のような繊細さはありませんが、素材の味や食感が残っていて、上にかかっているソースも力強くてとっても美味しいですぅ!ね?」
ジークさんに視線を向けると、一瞬戸惑いましたがすぐに察したように、なるほど美味しいじゃないかと呟きます。
それに便乗してカンナさんもそれを口に入れ、やっぱりロベルトの料理は美味しいねと微笑みました。
「確かに平民のような味ですが、御屋敷では食べられないような珍しさがありますね〜。あら、アメリアさんは食べないのですか?無くなっちゃいますよ?」
畳み掛けるように私がそう言うと、アメリアちゃんは顔を赤くしながら唸っています。
「今食べないと、後でお腹が鳴りますよ?」
そこまで聞いて、ようやくアメリアちゃんがひと切れ口に放り込みました。
「…………おいしいじゃない」
眉の力を抜いて、呟きました。
アメリアちゃんは持っていたフォークで残りのお好み焼きもどきをかつかつと食べていきました。
その様子を私達は微笑ましげに眺め、ロベルトさんは胸をなでおろしていました。




