26ページ目、王都の城壁
いつの間にか騎士さん達とカンナさんの方は話がついていたようで、微笑ましげにアメリアを見ていました。
「や、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私はジーク。この4人の代表です」
私とも話していたお喋りな騎士はジークと言い、アメリアの言葉から察するにこの中で1番腕がたつようです。
「俺はハロルドという。ジークに何かあった時の、副代表だ。」
「俺はシオンって言います。あ、後こいつはルートって言って、この中で唯一魔法を使えます。まぁ、真っ先に狙われちゃってなんにも出来ませんでしたけどね」
シオンという騎士が説明をしたのは、先程気を失っていた騎士のことでした。
まだ意識が戻らず、眠ったままですが、その息は安定しています。
「私はカンナという。一日だけだが、よろしく頼む。出来れば今晩の夜の番はそちらに頼めないだろうか」
流石に1週間も1人で夜の番をしてると昼夜逆転しそうだ、と笑いました。
騎士さん達も快く受け入れてくれます。
馬車に揺られながら、話し相手が増えたので談笑をします。
一気に馬車内は賑やかになります。
騎士さん達はカンナさんと話を弾ませ、時々私達の方に生暖かい視線を向けました。
貴族の娘だとはいえ子供なので、案外子供みたいな接し方をしているように思え、それも「お友達が来たなら自分たちは世話しなくてもいいかな」という雰囲気が出ています。
子供同士とはいえ、私の方が地位が上なのでもっと注意してやって欲しいところです。私は気にしませんが。
おかげで私はアメリアちゃんの話し相手をずっとしています。
「あなた、なんで今まで人形みたいにじっとしてたの」
「ふふ、実はねぇ…あれは私そっくりの人形なの!私の代わりにパーティに出てもらったのよ」
「えぇ!そんなことしてバレないなんて、なんていい腕の職人さんがいるのかしら!」
嘘を混ぜながらお話していても、すんなりと信じてしまうのでイタズラ心よりも罪悪感が積もってきます。
純新無垢な子供が、眩しい……
騎士達は微笑ましくこちらを見ますが、カンナさんは悪戯そうにニヤついています。なんかムカついたので後で仕返しをしましょう。
「そんなだから私は友達が居ません。アメリアさんは友人はいますか?」
そう尋ねると先程までの明るい顔から、会った時のようなムスッとした顔になりました。
「ふん、あなたには私がいるでしょ!私には何人も友達はいらないわ。私に釣り合うのなんてそういないの。あなたは私のお人形だから特別なだけ」
「あー、なるほど……アメリアさん、人の価値はそれぞれが同じくらい尊い、らしいのです。釣り合うか否かではなくあなたが一緒にいて気分の良い人こそが友達なのです。それに、友達がいると自分だけでは気づけないことに気づけたり、ひとりじゃ出来ない事もできるようになります。媚を売れとは言いませんが、もう少し他者に目を向けてみるべきですよ」
アメリアちゃんは自分を1つ上の段に置き、他者を見下しているようです。
いや、本当は上手く人に話しかけれない事に理由をつけているだけだと思います。私もよくやりました。
私は一切動かず、物も言わなかった人形のような状態だったから話しかける練習相手になったのでしょう。
友人が一人しかいなかった私がこんな事を言うのもなんですが、アメリアちゃんには私以外にも良き友人を作って欲しいところです。
「うー、お父様みたいな難しいこと言わないで!あなたは私のお人形さんなのよ!」
アメリアちゃんの手が私の両頬を引っ張ります。
私は無抵抗のままそれを受け入れますが、私を踏み台にアメリアちゃんには友人を作ってもらおうと勝手にお節介心を滾らせました。
少しずつ慣れていけば良いのです。
夕方になり、馬車を、止めて野営の準備をします。
いつも通りカンナさんがお風呂と明かりと暖を確保すると、騎士さん達は随分と驚きました。
今までやってきた馬車旅でも1番快適だと微笑みをこぼしています。
ようやく目を覚ましたルートさんがカンナさんに魔法について問い詰めてました。
おかげでカンナさんは結局その晩もずっと起きていたようで、翌朝彼女の目の下に少しくまができていました。
少し可哀想に思いましたが、日頃の恨みを込めてふっと嘲笑うと「性格悪いなぁ、君は」と呆れられました。
朝食を終え、馬車を動かす直前にルートさんが魔力で鳥を創り何やら手紙を持たせて飛ばしました。
「何をしていたのですか?というか、今の鳥を創るのってどーするのですか!」
「ん?あぁ、エリザ様、おはようございます。賊に襲われ馬車が壊れた事やロードラン侯爵の馬車に同席することになった事を子爵様に伝えねばならなくてですね。こうやって魔法伝書鳩を飛ばしていたのです。簡単な命令しか出来ませんし、少々難しいですが教えましょうか?」
「はい!」
それから小さな鼠などをイメージして、ルートさんに魔法で創る動物について教えてもらいました。
カンナさんもその魔法を知らなかったらしく、私とカンナさんで説明を聞いていると、あっという間に時間が過ぎていきました。
昼前になった頃、ようやく王都の城壁が見えてきました。
遠くからでもくっきりと見える灰色の壁は、随分と大きく強固である事が見て取れます。
その堅固な外装とは裏腹に、中では華やかで豊かな街並みが並んでいるのですから今からワクワクが抑えきれません。
まさに修学旅行を楽しむように心を弾ませ、近づいてくる城壁を眺めました。