24ページ目、盗賊退治(笑)
気配を消しながらゆっくりと近づきます。
馬車は立派そうな装飾が節々に施されていて、騎士もいる事を鑑みると高貴な人物が乗っているのでしょうか。
ですが御者はおらず、馬車も車輪やら骨組みやらが損壊しており、機能しそうにありません。
それに、複数人で攻められては3人という人数ではあっという間に押し切られてしまいそうです。
周囲に盗賊と思われる人達の増援は居ないことを確認し、ある魔法を行使しました。
「スリープ」
眠らせるだけ。ですが、他人の内面に直接関与する魔法はことさら難しく、闇の中級魔法の中でも上位にあたります。
それに、もちろん眠るか眠らないかは対象の体の状態にもよりますから、1人でも無力化出来たら良いなと思い放った魔法でした。
突然盗賊達が全員ふらつき、膝からくずおれます。
目の前で戦闘していた敵が突然倒れ込んだので騎士達は驚いた表情を見せました。
「新手か?」
「わからん。だが、魔法を使う魔物だとしたら厄介だ」
満身創痍といった体の騎士たちですが、目先の問題解決に安心せず、注意深く辺りを見渡しています。
その警戒心たるや、私も見習いたいほどです。
声をかけるかそのまま立ち去るか悩んでいると、ふと騎士達が剣に手をかけ、ばっとこちらを振り向きました。
凄い殺気に一瞬気圧されそうになりましたが、こちらの姿を確認するとその空気は消えていきました。
ですが、手は剣にかけられたままです。
「……何者だ、こんな所で何をしている」
3人のうち、1番背の高い騎士が尋ねてきました。
見つかってしまったので逃げることは出来ず、「えへへ」と苦笑いを浮かべながら両手を上げて、抵抗しませんよと伝えます。
「あ、その、えっと、先程騎士様達が劣勢のようでしたので、その男達に『スリープ』をかけさせてもらいました」
そう聞くと安心すると思いきや、更に訝しんだようで「額を見せろ」と言われました。
「へっ!?額ですか?」
「そうだ、前髪を上げて額を見せろ」
言われた通り額を見せると、次は耳を見せろと言われます。何か意味があるのでしょうかと思いながら髪をかきあげ、耳を出します。
すると、その騎士はしばらく思案し、剣から手を離してから口を開きました。
「すまない。助けてもらい、感謝する。その見た目でスリープを使えると言うからには魔族かエルフかと思ったのだ。敵意を剥き出しにして申し訳なかった。我らはハルメア子爵の御息女を護衛している騎士だ。貴公は……幼いように見えるが何者だ?」
「すみません、それよりも1人倒れている方が居るようですので治療させて貰ってもよろしいでしょうか?」
倒れている騎士の様子を見ると外傷もそこそこ、気を失っているだけで息をしていました。
その騎士のお腹に手を置き、回復魔法をかけていきます。
途中、傷口についた汚れを水魔法で洗い落としながら治療をしていきます。
少しすれば外傷は一切見えなくなり、呼吸も整ってきました。
私が倒れている騎士の治癒をしている間に、騎士達は手際よく盗賊を縄で縛っていきました。
こんなものかなと息をついて振り向くと、騎士の1人に手を引かれ、馬車から少女が降りてきました。
ちょうど、私と同じくらいの年齢に見えます。という事は、私と同じように今年の誕生会に出席する子供でしょうか。
とりあえず治療した騎士をみてもらい、皆さんが集まったところで名乗りを上げました。
「申し遅れましたが、私はエリザ・フォン・ロードランと言います。ロウダ・フォン・ロードラン侯爵の娘でございます」
スカートの端を摘み、頭を少し下げます。
そして、首に下がったロードランの紋章のネックレスを見せると、少女も騎士も心底驚いたような顔をしていました。
図らずともドッキリに成功したような気分になり、少し面白くなりましたが、不謹慎なのでそのままの顔で向き直ります。
少女の方が気を取り直すのが早く、すぐさまムッと顔になり叫びました。
「あ、あなた!私の人形さんじゃない!」