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20ページ目、冬季うつなら太陽を作ればいいじゃない

冬季鬱、等という言葉があったり、雨季に気分が沈む、なんて事象があったりします。


理由は単純明快、太陽の光を浴びていないから。

太陽は生命にとって大切なものだなと思う反面、理由が分かっていても沈む気分はどうしようもないと感じました。


正直太陽が無くなったら人は狂ってしまい、まともに生きれないという話は話半分に嘘だと思っていた。


だが、実際に体感すると、なるほどこれは死活問題だと思った。



魔法を教えてもらう時にある事を思いついた。


「はぁ……あの、火球出せるなら、火力最大にして圧縮した擬似的なプチ太陽みたいなもの、作れませんか?又は雲に風穴を開けるか」


「雲に風穴を開けるのはともかく、プチ太陽かぁ…作れると思うが……辺り一帯焼け野原になるかもよ?」


「ですよねぇ。雪は好きなのですが、如何せん日光を浴びていないと気分が嫌に落ち込んで……」


「あー…そういう事だったか……ロウダ様の許しがあれば天高くに作ってみるって実験は出来るかもしれないが……」


カンナさんも日光を浴びたいのだろうか。作りたいとは思っていたようです。

最近は寒いので火の魔法の練習ばかりしていました。

火という物自体物体がある訳では無かったので私は苦手だったが、最近は上達が著しいように思われた。


暖が欲しいという渇望が魔法を発動させているだけかもしれませんが。


授業が終わり、お父様に大魔法(?)の行使の許可を取りに行きます。





「―――という事で、エリザ様の気分が優れないのは日光を浴びていないせいであり、太陽を疑似的に再現できないだろうかと言われたのでその試験の許可を得ようと。知ってのとおり、太陽はあんなに空高くにあるのにも関わらず、私達を温めます。つまり、近くに行けば想像もつかぬほど高温になっています。小さいとはいえそれを再現するのでしたら危険かもしれぬと思い、どこかそれを行って良い場所を探しています」


カンナさんが説明するとお父様が唸りました。デメリットだけ伏せておけば良かったのでは?と狡い考えが浮かびましたが、嘘をつけないのがカンナさんなのでしょう。


「……どれほど危険かは知らんが、庭で行ったらダメなのか?結構な広さがある上に周りへの被害と言ったらせいぜい木や草が燃えるくらいだろう。庭師には悪いがそこで行ってみるのはどうだろうか」


思えばカンナさんも随分お父様の信頼を勝ち得たものです。まさかこんなにあっさり承諾してくれるとは思いませんでした。


「だが、俺も同行させてもらう」


とはいえ流石にそんな危険な事に娘とカンナさんだけでは気が気じゃないでしょうね。


手袋と耳あてをつけて、皮の厚いブーツを履きました。マフラーはありませんでしたが、上着が首元まで布のある作りでしたので、まさに完全武装です。


冬将軍でも何でもかかって来やがれー!


そう心の中で叫びながら外へ踏み出しました。

外の空気は、現代のような排気ガスの臭いも無ければ風を塞ぐビルもありませんでした。まして、人混みの排出するCO2などはとても少ないのです。


すなわち、思っていたよりも寒かったのです。

カンナさんは何か魔法でも使っているのか、いつもの着物の上にちゃんちゃんこを羽織っているだけです。さすがにブーツは履いているようですが。


私が身を縮めて震えていると、お父様が抱き上げてくれました。半年ぶりでしょうか。久しぶりに抱き上げられて少し嬉しくなります。


「ありがとうございます」


にっと微笑むと、お父様も白い息を吐きながら笑っていました。


3人で庭の真ん中まで来ると立ち止まりました。


「この辺だろうか。その、擬似太陽?はどう言ったものだ?太陽を作ろうと挑戦した魔導士の話はたくさん聞くが、成功したとかの文献は殆どないと聞いた。出来るのか?」


「え、まぁ、多分ですが。やってみなきゃですねぇ。じゃ、いきます」


とその場で「一発ギャグ言います」みたいな雰囲気のまま魔法を発動しました。

お父様の話を聞くにだいぶ凄い領域の魔法らしいのですが、大丈夫でしょうか。


カンナさんが斜め上に手を掲げ、目を閉じています。

胸がゆっくりと上下していて、深く呼吸をしているのが分かりました。


しばらくすると降り積もった雪が溶け、水と合わさり氷っぽくなっていき、カンナさんの背中からうっすらと影が伸びている事に気づきました。


赤、と言うよりは黄に近い強烈な輝きを放つビー玉くらいの球が頭上高くに浮かんでいます。


それ自体は小さいですが、照りつける熱と光はまさに地上の太陽と呼ぶに相応しく、私の凍えた体を解していきました。

上着を脱いで、腕まくりをしてみたりして皮膚でその光を感じると、嗚呼、何だか生き返るような、活力が湧いてきます。

日向ぼっこは前世より好きな行為だったので、心の内が満たされていくようでした。



「こりゃ凄いな……俺は魔法には疎いが、魔導士が見たら狂ったように問い詰められそうだな。」


「はは、そりゃ勘弁ですね」


「なんかこう……思ったよりも小さいんだなてっきりイグニスボールくらいあるのかと思ってた」


確かに太陽の再現となれば、ファイアボールの最上位版魔法であるイグニスボールくらいはありそうと考えるのは普通ですかね。

イグニスボールはだいたい直径2mくらいなので、そんなものをこの威力で作ったらロードラン領が消し飛びそうだなぁ……と思います。


「まぁ、このサイズだから威力を抑えられているのですがね」


カンナさんの言葉にお父様は納得しているようです。


「ところでこれ、いつまで光っているのですか?」


しまった、というような顔をしてから、カンナさんはおどけて答えました。


「………超新星爆発まで?」







結局その光は夜になっても庭先で昼を作り出していましたが、翌朝になると普通に燃え尽きていました。


炎系の魔法は、基本的に可燃物があればずっと燃えています。ボール系統は少し違うくて、自分の魔力を媒体に燃やしているので、消費した魔力を燃やしきるまで残ります。


果たしてカンナさんが「サンライズ」と名付けたあの魔法はどちらを元にしていたのでしょうか。


気になるところではありますが、あの光が私の部屋まで届いていたので、今はとても眠くてそれどころでは無いなと感じました。

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