2ページ目、英雄の話
エリザの――つまり私の父はロウダ・フォン・ロードランという名前で、ロードラン領を治める侯爵様である。
その事を知って、私は驚いた。とてもいい所に転生出来たって思った。
さぁ、そんな彼はこの6年間、男手ひとつでエリザを育ててきたんだ。
母はどうなったかと言うと、エリザが産まれる前に起きた魔物の大発生について語らねばなるまい。
この世界の色んなところで、定期的に魔物が大量発生したり、強力な個体が生まれることがある。強いものから弱いものまで、大量に。規模や間隔は場所によって違う。
ロードラン領付近の場合、300年に1度強大な魔物が1匹だ。
名目上「大発生」だが、正直大発生とは言えないと思う。
ともあれこの1匹が恐ろしく強く、中には魔物の王としての「魔王」を冠した事もあるくらいだ。
さて、当時父はそのまたお父さん――私の祖父に認めてもらうために冒険者をやってたらしく、武勲を立てたら仲間の女性を家族に迎え入れ、実家に戻ろうと考えたらしいんだ。
貴族なのにそんな危険を犯すなんて全くおかしな人だ。
と思った。だが、彼にとっては切実な問題だったのかもしれない。
この大発生が起きそうだと聞きつけた彼はすぐ戻ってきた。冒険者仲間であり、妻である魔法使いの女性と。
祖父も緊急事態が故に強く言えず、そのまま魔物との戦闘になったらしい。
その時既にエリザを身ごもっていたらしく、それでもなおその魔物に挑んだんだ。
実際に見たことは無いけど、「グラウンドドラゴン」と言って怒れる大地の化身であるかのような、強大な竜だったそうだ。
2人を中心として、国の精鋭や腕自慢の冒険者達が集まった。
父は大剣を振るい、竜の猛攻を凌ぎ、母はその硬い装甲を剥ぎ取るような火炎魔法を放った。
それはもうかつてない程熾烈で、燃え上がるような戦いだったそうだ。
集まった軍は半壊、2人も満身創痍でようやくトドメを指した。その時、グラウンドドラゴンが最後の力でお母さんに呪いをかけた。どういった類かは詳しくは知らない。
ただ、そのせいで彼女は程なくして命を落とした。
父は心に深く傷を負ったそうだ。
そんな父にとって直前に生まれた君だけが心の支えだった。
だが、エリザが3歳になって少しした時のことだ。
その呪いがエリザにもかかっていた。死ぬほどのものではない。いや、むしろ既に死んでいたと言っては言葉が悪いかな?
エリザと名付けられた少女は、自我が育たなかったのだ。
初めは疑惑だった。それが4歳5歳お歳を重ねる事に、一向に物も言わず動きもしない娘に苛立ちが募っていった。
彼女の唯一残したものが、彼女の面影を落とす人形だったのだ。
彼は妻も、妻の残した娘も愛していた。でも、なんだろうね。愛するものが実際にはここにいないような、そんな感覚だったのだろう。
彼の心は限界だった。
彼は一時の激情に身を任せ、返事をせぬ人形を、かのグラウンドドラゴンに拮抗する腕力で殴りつけてしまったのだ。
それが、私の意思の宿る前夜の事だった。
この界隈では多くは無いのでしょうが、思ったよりも多くの評価、ブクマ、嬉しく思います。
ありがとうございます。
どのくらいになるかはまだ分かりませんし、だいぶ長くなるかもしれないですが是非最後まで付き合って頂けると幸いです。