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16ページ目、深夜のおしゃべり

お久しぶりです(?)

「父は、人と上手く話せる訳もなく、喋るのも苦手だった。黙っている時も声が漏れてしまうものだから、気も触れているんじゃないかって変な目で見られものよ」


私の告白の代わりに返ってきたのは、カンナさんの父親の事だった。


「でも、私は父が誰もよりも優しくて、強いことを知っている。父は漫才が好きだった。ラーメンが好きだった。綺麗な人を見かけると目で追い、よく母に怒られていた。会社に行くのは面倒だと言った。家族を大切にしていた。好きなものがあって、嫌いな事がある。大切なものがあり、愚痴もこぼす。そんな彼と、耳の聞こえる人達。違いがあるのかい?」


それはつまり、「同じ人間じゃないか」という陳腐な言葉だ。

だが、同じ人間であるのは、普通の人も障がい者も、性的マイノリティと呼ばれる人達も、日本人も外国人も、白人も黒人も同じだ。

外身が普通とは違っていても、中は人の心を持っている。


彼女の、細く眠たそうに開かれた目はつまりはそういう事を訴えていた。


私の様子をしばらく伺った後「さ、これでおあいこ。この話はここでおしまい」と膝を叩きました。


「君も色々聞きたいことがあるとは思うが、私が先でもいいかな?」


「構いませんよ」


それから今の日本はどうなってる?とか、どんなものが流行ってた?とか色々聞かれました。

答えてやると、カンナさんは懐かしそうに目を細めて聞いていました。


法律が変わって、実質戦争が出来るような体制になってるとか、中国が世界征服するために着々と計画を進めているとか、袋の半分しか入っていない数百円のお菓子が多いとか、ちょっと盛りましたがそんな事を言うと、驚かれました。


「頭おかしいよ、その人ら。私の頃と変わったもんだねぇ」


驚く、というより少し引き気味に顔を引き攣らせています。

私もそう思います。


話の合間に食べるお菓子は、やっぱりというか、焼き菓子が多く、ただの甘いパンもありました。


「あまり……食文化的にはそこまで進んでいませんよね、この世界」


蜂蜜が入っていると思われる小さめのパンを頬張りながら共感を求めると、カンナさんもこくこくと頷きました。


「あ、じゃあさせっかく日本人が2人集まったんだったら、郷土料理でも作らない?ロウダ様に振舞ってあげたらきっと喜ぶと思うよ」


それを聞いてはっとしました。私は、料理は得意な方でしたが、ここにきてからは料理長さんが作ってくれるのですっかり料理というものをしていませんでした。


まぁ、貴族なら料理とかしませんしね、普通。


「いいですね、それ!何を作りましょう?あー、でも、キョウにも似たような食べ物がありそうですよね?カンナさん、何作りたいとかありますか?」


「そうだねぇ。明日までには考えとくよ。多分材料やら厨房やらは料理長に聞いてみなきゃ使えるかは分からないから、エリザ―――」


そこまで言いかけると「あー、なんて呼べばいいかな?」と苦笑いをしました。

考えていなかったので、少し悩みますね。

風音は男性名だからあまり気に入っていません。学校では宮原で通っていましたが、ここではエリザですので……


「……エリザで、統一しましょうか。人のいる時とかは様をつけた方がいいかもしれませんね。少しむず痒いですが」


「様」付けで呼べなど、少し恥ずいので、身動ぎしながら「えへへ」と笑いました。


「わかった。エリザは、料理長さんに許可を取ってきて欲しい」


「はーい」


かくして、異郷人2人は郷土料理を作る計画を打ち立てました。


夜も更けてきています。そろそろ寝なければ明日の朝起きれないかもしれません。


明日に少しワクワクしながら、眠りにつこうとすると、1つ問題にぶち当たりました。


「そう言えば枕しか持ってきませんでしたが、ベッ―――」


「あぁ、私が下で構わないよ」


即答でした。


「お姫様を地べたで寝かせる訳にはいかないからね。」


「は、はい。ありがとうございます」


その真意は分かりませんでしたが、その善意に応えるべくベッドの上に登ると随分と古びたちゃんちゃんこが置いてありました。ところどころ糸がほつれていて、あて布もされています。


「あ、そのちゃんちゃんこは渡してくれないか」


「あ、はい。…これ、買い換えたりしないんですか?恐らくキョウのですよね?」


尋ねがら返すと、カンナさんはそれを大切そうに折りたたみ、そっと近くの机の上に置きました。


「これはねぇ…日本のちゃんちゃんこなんだぁ」


なんと!?よく考えればカンナさんは異世界から迷い込んだだけですので、裸一貫で来たわけじゃないはず。となれば日本の服があっても当然でしょうが、寝耳に水でした。


「なんでちゃんちゃんこなんですか?」


「ここに来た時はね、風邪をひいていてね。当時は私も16だったけど、学校を休んで、パジャマの上にちゃんちゃんこって状態で寝てたんだ」


カンナさんの声は穏やかでした。明かりを消すと、日本とは違い人口の明かりはなく、本物の暗がりが広がっています。その中に優しい声が響きました。

そうしてカンナさんの、ここに来てからの冒険譚を聞いているうちに意識が微睡み、いつの間にか眠り込んでしまいました。


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