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sideカンナ3

エリザ嬢の部屋のベッドへ彼女を横たえると、すぐさまロウダさんが駆けつけてきた。


「お、おまえ!エリザに何をした!?」


その顔は怒りと言うよりは焦りの表情を浮かべている。エリザ嬢と一緒に居る時の彼は優しい父親という雰囲気だったが、今の表情は真に迫るものがあり、単なる親バカという事も無さそうかなと思った。


「魔力切れですよ」


そう言うと、彼は少し冷静になり「いや、そうだろうな、思い違いだ。すまない」と言った。貴族が謝らんでも良いでしょうに、と思ったが言及する必要も無いので代わりに別なことを尋ねた。


「あの、ロウダ様は『エリザ嬢はついこの間まで世界を知らなかったのだ』と言うような事を仰りましたが、もし良ければその事について聞かせていただけませんか?この子にとって辛いことなら、意図せず彼女を攻撃してしまう事にもなります」


ロウダさんは目を閉じ、しばしの間考え込んでから「よかろう」と言った。

そして、彼女の事を知った私はぞっとした。


「つまりそれは、自我が生まれて数ヶ月しか経っていないということですか?おかしいです。エリザ嬢は随分と多くの言葉を知っていますし、理解力も到底6歳には思えません。まして数ヶ月でその知識を習得したとなるとそんなの―――」


そこまで言いかけて口を塞いだ。ロウダさんはただただ俯いていた。

化け物。おおよそ人間とは思えぬ。実は何者が乗っ取って動いているだけでは?

今の話を聞いてしまえば、彼のの前でそんな事は言えない。彼もそれを覚悟の上であの態度であろう。例え偽物でも、ようやく人として動いてくれた愛娘なのだ。信じていたいだろう。


私も、彼女について邪念を感じなかった。少し言動が気になるものの、正真正銘「人間」である。

エリザという人間について、妙な引っ掛かりを覚えた私は、授業料は要らないからここで寝泊まりさせてくれと頼んだ。


ロウダは快く受け入れてくれたところで、エリザ嬢が目を覚ました。


彼女は私を家族のように受け入れてくれた。夕食は街で何か良い酒場で探すかと思っていたが、エリザ嬢の招待で一緒に夕食をいただくことになった。


彼女は口数は少ない。だが、よく私に旅の話等を聞かせるようせがんできた。話を聞いている時は目を輝かせ、黙っている。その大きく、吸い込まれそうな黄金の瞳が世界の知識を知りたいと煌めいている。

黙っていれば、彼女はやはりただの少女のようにしか見えない。


エリザ嬢は決して悪ではない。私はそう感じた。

私は楽観的に物事を判断してしまう癖があるが、幸運なことに今まで外れたことがない。

だからといって絶対などない。

私の感じたエリザ像が正しくある事を祈った。



2日目の朝、中庭も見やるとロウダ様とエリザ嬢が剣を振っていた。ロウダ様も剣が扱えるらしく、教師のなど要らないのではと思った。

だが、ロードランの英雄は、この剣は魔物を倒すためのものだと声を強くして言った。

10年もこんな世界をふらふらしていると人を相手にする機会などいくらでもあった。

刀で良ければ教えようかと聞くと、驚いた顔をされた。

まぁ、魔法の指南役として呼ばれたからには、魔法一筋の冒険者だと思われていたようだ。

試合を申し込まれ、実力を試されることになった。

ロウダさんはたしかに強かった。冒険者はF〜Sまでのランク分けがされ、Sに近づくほど強いとされる。

ロウダさんは、そのAにも届こうかという実力かと判断した。

おおよそ貴族であるとは思えぬ立ち回りで、岩のような大剣を振りましている。

得物を切って落とすと、流石に実力を認めて貰えたようで剣の指南役が来るまで私が教えることになった。

もちろん、追加料金は貰ってないし必要もないと踏んだ。



数週間後、ロウダさんより少し若い男が来た。名をマイヤーと名乗り、あのグラウンドドラゴン討伐戦に参加した勇士らしい。

グラウンドドラゴンの話は遥か遠方の国にも轟いている。

ロードランの大発生(1匹)は有名な話で、周期の長さとその1匹の強さは魔王とも仮称された時すらあったそうだ。

何しろ私が相手にした大群を、1匹にぎゅっと押し込めたようなものだ。

その驚異は計り知れない。

当時はそんな危険に飛び込む意味もなかったので近ずいてはいなかったが、ロウダという冒険者が筆頭にその妻の魔法使い、王国騎士団の精鋭、有志の冒険者が集って討伐隊が組まれたと聞いた。


おそらく、マイヤーという男はその「精鋭」だろう。

それに、この歳で王国騎士団の副団長にまで辿り着けたというのだから、実力は疑うまでもなかろう。



彼の教え方は私なんかよりも遥かに上手く、非常に型にはまった綺麗な剣筋であった。


だが、エリザ嬢の成長は目覚しく、彼が到着する頃には彼の強さを上回っていた。


最初の模擬戦で彼もそう感じていたらしいが、あくまで自分は指南役であるとわきまえ、的確に改善点をすくい上げていった。


たしかに私達の中では1番武力は劣っていたが、それ以外の点で言うなら彼は間違いなく剣術指南役としては最適だったと思う。


それも、一般的な基準で言えば騎士団副団長ともなれば上回る者はそう多くないが。


対するエリザ嬢も、相手の方が弱いからといってなめた態度を取らずに真剣に彼に耳を傾けていた。


その謙虚な姿勢に、何故か日本の友人を重ねて見てしまう自分が居るのに腹立たしく思った。


日本のことなんて忘れなきゃいけないんだと自分に言い聞かせる日々が続いた。

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