sideカンナ2
私は日本人じゃない、キョウ人だ!そう自分に一喝し、大きな屋敷の扉を叩いた。
執事と思しき老人が扉を開けてくれ、そのまま客間に案内された。
ここの街のギルマスとキョウのギルマスが親しかったから推薦があったのだろうか。じゃないとこんな立派な所に一冒険者風情を招かないだろう。
等と考え事をしながら部屋を見回していると、ガタイのよさそうな壮年の男性と小さな女の子が入ってきた。
着ている服は豪華で、いかにも貴族といったところだ。
そもそも侯爵ってどのくらいの地位だ?日本で暮らしていると、おおよそ情報の入ってこない話だ。
多分かなり上位なんだろうなぁとか思いながら、なんちゃって丁寧語で喋ることにした。
詳しくは知らんが、貴族というのは4歳から貴族としてのしきたりや振る舞い、武芸や魔術を教えられるらしい。全く英才教育とはこの事か。子供は病まないのか心配になる。
だが、この子はもう6歳なのに、私が1人目の教師となるそうだ。不思議に思ったが、また後で聞いてみようと思った。
ロウダと名乗った貴族は、恐らくだいぶ変わっている。貴族って言うと、もっと「庶民庶民」とか言いそうなイメージだったが、この男は多少の無礼も全く気にすることなく、非常におおらかな人だった。
彼自身冒険者だった頃もあると聞き、これは多分貴族としては異質だと確信した。
その娘のエリザ嬢もおかしかった。
ロウダさんは多くは語らなかったが、エリザ嬢はつい半年前まで世界の事を全く知らないのだと言った。
世間ではなく「世界」と言ったのに違和感を覚えたが、私の聞き間違いかもと安楽に流した。
エリザ嬢はとても可愛らしい容姿をしていた。
ロウダさんと同じ、夜の帳を思わせる深みのある紺の髪は長く、末で内に巻いている。
ぱつりと切りそろえられた前髪からは、太陽に照らされた稲穂のような双眸が覗いていた。
左の目元に泣きぼくろがあり、まだ6歳と言うのに妙な色気が出ていた。
さて、魔法について教えようかと言う時、心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
「あの、左腕、その……」
まごつきながらも私の左腕がないことを気の毒に思っているようだ。
無いことへの疑問ではなく、無いと知った上での心配をするという、おおよそ6歳には思えぬ言葉に少し驚いたが「気にしてない」と言うと少し安心したように「そぅ…」と小さく呟いていた。
少し間を置いてから、空気を変えるためにか私の服装が似合っていると言ってくれた。
だが、その際この子は着物ではなく「和服」と言った。和とは日本を表す言葉であり、キョウですら和服とは言わない。
もしかすると……と考えたがまだ時期尚早だ。もしかするとここら辺では和服という言い方もあるのかもしれない。
彼女は物覚えが早く、たった一日で魔法の行使まで至った。
私の教え方、上手いんじゃない?と調子に乗ろうと思ったが、これは彼女の才能だろう。
あえて難しい言葉を使ってみたりもしたが、大体は理解しているようだ。
話を聞く態度は大人しく、やはり貴族として育ってきた子は違うなと思ったら、元気いっぱいな仕草や活発な動きは何処か庶民的な雰囲気も醸し出していた。
実は魔法は途中で威力を変えると莫大な魔力を持っていかれたりする。
最初のイメージをキャンセルして、別のものにする。
キャンセル料。私はそう呼んでいるが、キャンセル料のことを知らずに火の魔法を小さくしたり大きくしたりするという、地味に高度な遊び方をしていたからか、エリザ嬢は突然倒れてしまった。少し焦ったがそれの原因が目に見えているので抱き上げて自室に抱いていく事にした。




