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19/92

sideカンナ1

私の名前は立花環奈(たちばなかんな)

現在ロードラン領を治める侯爵様の御息女の家庭教師?をしている。

歳は……26だ。そう、10年前。あの依頼が来た、ちょうど10年前だ。

私はまだ16で、右も左もわからん小娘であった。「もう大人何だから1人で何でもできるようになりなさい」と母から言われたが、いやいや私はまだ子供だと思っていた。


いやはや、全くもって子供であった。両親は今でも私を探しているだろうか。

あの日、私は風邪を引いて家で寝ていた。ひとりぼっちで、適当なテレビでも見ながら、煎餅をかじっていた。寝巻きの上にちゃんちゃんこという、いかにも病人らしい格好をしていた。


そのうち何だか頭がぐちゃぐちゃしてきて、眠いような、眠たくないようなで、気分が悪くなった。

小さい頃、父に「気分が落ち着く方法だ」と教えてもらったのを思い出し、目を閉じて10秒数えてみた。




爽やかな風が頬を撫でた。ぼーっとする頭でも理解出来た。草原だ。見渡す限りの草原。空は真っ青に美しく、これは夢だと思った。


果たしてこれが夢ならばどれほど良かっただろう。


今でも信じられない。

まさか母の言う通り、独り立ちせねばならぬようになるとは。

運良く通りかかった親切な冒険者に連れられ、私も冒険者という職に就いた。

幸いにも、こちらの世界に来た私は強い力を貰った。

誰かから与えられたのか、この世界が弱いのか分からないが、とにかくこの世界ではトップクラスの身体能力と魔力が備わっていた。



ならば。


地に足つけず、世界中を歩き回ったのは元の世界に戻るためだ。

多少の無茶も仕方ないと割り切り、怪しいところはくまなく探した。

だが、私のように迷い込んだ人間も居なければ、日本の道具も何一つ落ちていなかった。

正真正銘、日本を知っているのは私だけだった。

もしかすると日本なんてものは私の嘘の記憶で、最初っからそんなものは無かったのかも、なんて思ったこともあった。



大陸の東端、半島のような地にキョウという国があると知った。時代劇で見たような、江戸の城下町そっくりだった。服も着物が流行っており、箸も普及していた。あたかもタイムスリップしたようだった。

だが、所詮はキョウ国であり、日本ではない。まして、昔ここに日本人が来たのでは?とも思ったがそんな影すらなかった。

キョウ国には、私の懐かしむ平成の面影は一切なかった。

それでも私はキョウに故郷を重ね、懐かしむように暮らしていた。




この世界ではよくあることらしいが、大発生と言って大量の魔物が発生する。私は故郷の面影を落とすこの国を、日本と私の最後の繋がりに思え、全力で護ろうと決意した。

強い魔物が群れをなせばそれこそ数年前に現れたグラウンドドラゴンとやらに匹敵するだろう。あの時は2人の冒険者と王国の騎士団が筆頭に軍が集められたらしい。

キョウという国は国と言うより野心家の集まりであり、騎士団などは無い。冒険者達が防衛線だ。

私は国の人達が不安にならないように1人で、半ば自暴自棄になってその大群を殲滅した。

その代償に左腕を食いちぎられた。

流石に派手にドンパチやっていたのでキョウの冒険者ギルドから数人が探索に向かっていた。

その内の1人に事情説明して腕は治してもらった。と言っても腕が生えてくるわけじゃないけど。



私はどうしてこんなところに来てしまったのだろう。

普通に高校生として、過ごし、友達もいて親もいた。

私と、私の友人たちとの違いはなんだったのだろうか。

どうして私だけがこうなってしまったんだろう。


私が異世界に飛ばされた理由はなんだ?




いっそこの時死んでしまえば良かったか、等とも考えた。だが、心の奥底では何処か「いつか戻れるのでは」と信じていて、結局だらだらと惰性で生きていた。

キョウの街の人々とも仲良くなり、ならキョウ人として生きていくのも悪くないかと思っていた。


そんな矢先、もう引退したというのにギルドマスターから声がかかった。キョウから見て西側にある、ソルラヴィエ王国のとある侯爵が娘の家庭教師を探しているのだという。


剣術と魔術をそれぞれ1人ずつ募集しているそうで、私は魔法も上手なのでどうだろうかとの事だった。


多分、1人の被害も出さずに大発生を押さえ込んだ私に、彼なりの礼がしたかったのだろう。莫大な謝礼金は街のために使い、私自身は職など就いていなかったのを見かねての事か。


特に興味は無かったが、この世界に根を下ろすなら他国の貴族に恩を売ってみるのも面白かろう。

特に強い意志も無くその話に乗った。


何かこの世界で残せたなら、それが私のこの世界に飛ばされた理由なのではないかと思ったりもした。


私の身につけた技術を全て教えてやろう。そして、彼女が何かを成したなら、それこそが私の存在意義になる。そう考えた。

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