プロローグ・前書き
「どうして?どうしてあんただけが生きてるのよ!」
その少女の慟哭はこうも言い換えられよう。
「なぜ自分は生きているのか」と。
アイツらが勝手に動いたから?私が彼らを見捨てたから?この少女は班が違ったから?
いくらでも理由など探せばごまんとある。
だが、それは全て上辺だけのものだ。
もう答えは出ていたのかもしれない。
私が日記を書き始めたのはそれからだ。
この手記は私が今こうしている意味を問い質すためのものだ。
私はなんのためにここに居るのか。私はなんのために生まれてきたのか。その意味を探している。
この頃よく自分が何者か分からなくなる。精神年齢は30近いのだから思春期などと言うことは無い。私の心の中に、もう1人息づく人格を感じ始めた。
その人格が私を飲み込もうとしているが、それこそが私の転生した意味なのかもしれない。
もし、この本を私以外のものが見つけたのであれば、
私の人生の意味を考えてはくれまいか。
答えを見つけたら教えて欲しい。それは自分の心に教えてやってくれ。
それが、恐らくは私の本懐だと思う。
以下、私の拙い文での追憶の物語となる。
……そうだな。まず、何から書き出そうか。
宮原風音という人間について。
異世界人だ。
私はどこにでもいるような、高校という教育機関に通う2年生であった。
己の容姿に自信がなく、自ら人に話しかける事が苦手な人間だった。クラスでは教室の隅で、常に1人で佇んでいた。
そんな私にも気の置けない人物もいたが、それこそ別の高校に通う旧友くらいである。
今思えば、向こうの世界に残した私の唯一の気がかりは彼だろう。もし、彼に会うことがあれば宜しく伝えてくれるとありがたい。名を神崎博臣という。
さて、どこにでもいるような、と先程言ったが少し語弊がある。というか、素直にまっさらとした私の心の奥底的に包み隠さず言えば、私は変わっていたのかもしれない。
まず、第1にトランスジェンダーである。体は冴えなく、不健康そうな男の体であったが心こそは乙女であった。いや、あろうとしていた。
私のいた世界では、どんな人間にも権利があり、自分らしく生きれるような法律があったが、同時にほとんどの人間に人権がなかった。
16年も生きていればいずれ現実に負け、男である事を受け入れるしかなかろう。どうしようもない問題だった。
むしろ、自分が男か女か等というしょーもない問題を考える余裕すらなかった。第一に人間として自分はどういう存在かすら考えさせてもらえなかった。
現実から逃げるためか、私は少々夢見がちで、意識が覚醒している殆どの時間、妄想に耽っていた。色んなことを馬鹿正直に前向きに鵜呑みにしたり、未来に無責任な希望を抱いていた。
だが、その分現実とのギャップに頭を悩ませ、改善点を探すもひとりじゃ何も出来ないということに気づき、いつも陰鬱な気分で生活を過ごしていた。
私が勉学に大義を見いだせず、模索している間に周りはどんどん進めていく。そんな学校が嫌いだった。
将来役に立つか分からぬ物を学ばされ、現在を侵食されているようにも思った。
何しろ、漠然とした光の見えぬ「将来」というものが怖かった。
両親は幼い頃に離婚し、私は父側に着いたがその父も祖母に私を丸投げした。
祖母は優しかった。
だが、それは孫をどこか遠い所から見守っているというか、何だか不思議と距離を感じていた。
少々不満があったが、さりとてマシな人生だったのではないかと思う。
別に満足しているわけでもないが、周りから見れば自殺するほどの事ではないであろう。
とはいえ夢見がちな私にとって、双肩にのしかかる現実は耐えられるものでは無かった。
せめての反抗とばかりに、クラスで1番嫌いだった、将来有望な騒がしい少年少女の帰宅時間に合わせ、目の前で通過電車に体当たりをかましたのであった。
あぁ、我ながら最ッ低だと思うよ。
だが、どうだろう。彼らも上辺では驚いたり悼んだりもするだろうが、心の中では笑い草にしているかもしれない。
そうなると、私の小さな嫌がらせは意味があっただろうか?
宮原風音の生きた意味とは、果たして死ぬ事であった。
遺書は書かなかった。私の死は、何かしら意味のある物になり得ただろうか。
かくして、向こうでの宮原風音の人生は幕を閉じた。
この手の物は初めて書きますので至らぬ点がありましたら是非ご指摘願いたいです。
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