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世界は魔法で溢れ機械を凌駕し、機械が魔法を追う世界。
油の代わりに魔物や、龍脈から取れる魔油、それで動く車や、列車。
それを結晶化させた魔石、銃や爆薬と言った、物に生成される世界。
そう言う世界で生まれた一人の男の話。
生み出したのはエルフの魔科学者。
人の脳をつかい新たな生命を誕生させた。
頭痛が痛いと言うか頭が痛いと言うか、激痛で目が覚めた。
瞳を開け周りを見る。
どうやら金属でできたベッド...診察台と言った方が良いような場所だ。
痛む頭を触ろうと蟀谷にを押す。
飲み過ぎた朝の辛さと言うのはこう言うのだろう...水が欲しい。
診察台から足を下ろし座る。
しかし、昨日の記憶も朧気で飲み過ぎた事を後悔しつつため息を吐く。
「ハァァ....」
喉がガラガラだ、酒焼けだろう。
ぐりぐりと蟀谷を回すように押していると痛みが引いてきた。
そしてだんだんと記憶が無いことも分かってくる。
しかし驚くくらい気分は落ち着いており、なんとなく大丈夫な気がしてきてぼーっとする。
暫くすると扉が開き男が入って来た。
「おお、起きたか」
そう言って男は俺の体を撫でる。
きつい冗談はよしてほしい、俺は男より女が好きだ。
「よしよし、しっかり機能しているみたいだな」
そう言い俺の目を力強く見る。
「お前は私の最高傑作だ」
そう言うのであればそうなのだろうそう思い頷く。
「おお、分かってくれるか、よしよしお前はいい子だな」
頭を軽く撫でられる。
「私の言っている事も分かる見たいだし、自己紹介もしておこう、私はオームバジット、博士でもオームでも好きな呼び方してくれ」
そう言って少し離れる。
「よろしくお願いします博士...すみません...私の名は....」
そう言うとオームは困った顔になる。
「そうか、やっぱり記憶は無くなってしまったか」
そう言ってオームは煙草を取り出して吸う。
「まぁそれは大した事では無いか、むしろ上々だ」
そう言って俺の手を引く。
「お前は俺の息子、それだけわかっておればよい」
診察台から降りついて行く。
「これがお前の服だこれを着てついて来てくれ」
そう言われ服を着る。
置いてあるのは白のシャツに紺のズボンだ。
パンツ?もちろん置いてある。
シャツの背には飾り穴が開いており猫背になると涼しい。
それはズボンにもついてる。
「よしよし、ではテストをしようそうだ、外に出ようか」
服を着るとまた手を引き外に連れ出される。
「よしよし、まずはあそこの木まで走れ」
そう言って指を刺す方向にはレモンの木が生えていた。
距離は推定80mほど、そこまで踏み固めた地面が見えるのが分かる。
クラウチングスタートの体制になり地面を蹴る。
ものの数秒でたどり着くと博士が大声でこちらを呼ぶ。
「よーし! 次は帰ってこい! そうだ! 次はなるべく歩数を減らして」
そう言われ難しい事を言うなと思いつつ上に向かって地を蹴る。
「よしよし、良いぞ! これは良い」
そう言って博士は自分で頷き笑みをこぼしている。
「体温はどうだ? かなり熱くなっているか?」
そう言って俺の体をまたペタペタと触る。
「まだこれくらいなら排熱をしなくて良いななら次はそこの石を持ってみろ」
そう言って指さす方向にはいかにも掴みづらそうな丸く大きな岩が置いてある。
「博士、多分無理です」
自分の腕より広い岩を滑らずに抱えるなど不可能だ。
「いいや、大丈夫だお前の腕力は数トンでも抱えられる、その代わり魔法は使えんがの」
最後は尻切れトンボの様にぶつぶつと言ったあと早く持たんかと急かされ岩の前に着く。
岩を両手で挟み込み持ち上げようとするとぎちぎちと音が鳴り始め岩が少し持ち上がる。
本気で力を入れ体が熱くなり全身が赤熱する。
その岩を腰の上まで持ち上げ手を離す。
ズンと音が鳴り落ちた後息切れが起こり呼吸が激しくなる。
「よし! 排熱をしろ」
言っている意味が分からないが、やる事は分かる。
背中と腕、両足が皮膚を突き上げ開口する。
すると機関車の様に蒸気を放出し熱が一気に下がる。
「よし、排熱も出来るな、よしよし」
そうしてテストは終わった。
それから一年程経った。
激動の一年と言っていい。
博士からの無理難題を言われテストをしたり、街に使いに出されたりした。
博士の研究を盗もうとする輩を捕まえたりもした。
勉学は嫌いだったが、色々学ばされた。
名前は最後までお前だったのが気になるが、仕方がない。
床に臥せる博士を毎日看病していた。
博士曰く寿命らしいが、ボケる事も無く今でも口は達者だった。
しかし、最後の方は博士らしくない発言も増えていた所を見るとボケが始まっていたのだろう。
俺を生んだ事を謝られる。
恐らく俺を一人にすることを悲しんでいるのだろう。
それを聞き俺も辛かったが、まぁ仕方がない所も有る。
自分は元死刑囚でやったことは戦犯だ。
どうやらかなりの悪人だったようで、敵側、まぁエルフ側の水路に毒を流したり兵士じゃない人々を片っ端から殺して回っていたようだ。
まぁそんな事をしていると味方側からも嫌われ最終的に和平条約で俺をエルフに引き渡したって話だった。
その時の記憶が無いから何とも思わないが、恐らくこれは記憶が有っても何も思わないだろう。
まぁその時の俺は死んだ、今の俺は違うと思いたいものだ。
でだ、博士は最後まで俺のを生み出した事を悔やんで逝った訳だが、俺は博士に大切な事を聞きそびれてしまった訳でいまだ博士の家で過ごしていた。
「名前....なんだろうな...」
朝まず目が覚めると俺は博士の忘れ形見のレモンに水をやりに行く。
豪快にバケツで水を上げ家に戻り味のしない固いパンを放り込み、粉末にした魔石を大量の水と一緒に飲む。
めんどくさい体にしたもんだ、脳を動かすための栄養と体を動かすための栄養は別々、しかも魔石は高純度に精製された魔油を再度精製しなおし不純物を取り除いた奴じゃないと体が傷んでくると言うもんだ。
その代わり馬力特化で肉弾戦は最強を自負しているが、大砲鉄砲を撃たれると弱いし、遠距離魔法も弱点だ。
正直に言うと博士のロマンで生み出された悲しい体に辟易するが、仕方がない。
しかし、博士の貯金は減る一方で、博士の生み出した物を切り売りして生活していた。
博士からは死後全て燃やしてくれと言われたが、俺の生活も有るしまぁ良いだろう。
航空機エンジンのレシピは高く売れた。
まぁ調子に乗ってバイクや車を買ったらすぐに底を着いた訳だが...
「あー、そろそろ働かないとだめだなぁ...」
博士の死後ベッドを天蓋付きのに変え金持ち感を表していたが見せる女や友人も居ないので持て余していた。
生前物欲が強かったのが垣間見えるが、まぁこれは仕方がない。
目覚まし付きラジオから流れるクラシックを聞きつつ体を起こす。
天蓋付きベッドから体を起こし煙草に火を付ける。
鼻と背から煙を吐き出しつつキッチンへと向かった。
ざあざあと雨が降り、雨が窓を叩く。
雨の勢いは強くジトっと湿った感触が体を包む。
「パンにカビ生えて無いだろうな」
唯一の会話相手が亡くなり独り言が増え常に何か喋るようになってしまった。
パンを持ち上げると少しカビが生えていたのでガリガリとカビた所を削り口に入れる。
相変わらずの無味だ、味わいが無い、料理も出来ないので仕方がない。
食べ終わった後ザっと魔石を流し込み水を一杯。
「うーん苦い、もう一杯」
何か間違えている気がするも分からず毎朝の恒例を終え歯を磨く。
ラジオからは、今日の天気や、映画の説明コーナーが流れ始める。
何時も通りの毎日を過ごすためソファに座り毎日読んで擦り切れた小説を読もうと手に取った瞬間ドンドンと扉を叩く音が響いた。
「ジャック! 居るか!」
野太い声が聞こえ耳を塞ぎたくなる。
「入るぞ!」
間髪言わずに扉が開きずぶ濡れの小男が入って来た。
その男は髭を蓄え焦った顔をしていた。
名はオリバ、ドワーフのオリバだ。
「居るなら居ると言え! まぁ良い、えらい事になった!」
そう言ってオリバはライフルを見せつける。
「村に魔物が出た! 手伝え!」
オリバはドワーフさながらの筋骨隆々の体をしているので、俺が手伝う必要が有るのかとも思いつつ、話を聞く。
「なんの魔物ですか?」
「オークだ、量が多い! 土砂降りだから山から降りて来たんだろう」
ソファから立ち上がり壁に掛けてある散弾銃をてに取る。
「オークメイジが居るから近づく時気を付けろ」
そう言ってオリバは先に外に出た。
バックショットとスラッグを手に持ち俺も後を追った。
村の中ほどに行くと銃声と破裂音が響く。
「ジャック! 来てくれたか!」
そう言って少年の見た目をしたエルフが言う。
「敵の数はどうですか?」
「かなり多いね、恐らく計画してたんだろう」
そう言って少年エルフもとい、ダニーが言う。
「軍に無線は送りましたか?」
「ああ、でも雨が酷くて来るのに時間が掛かりそうなんだ」
「喋ってるだけじゃなくて撃て!」
そう言って迫ってきていたオークを撃ち抜く。
「結界が効いて無さそうですね」
そう言いつつスラッグを込め走ってきているオークを撃つ。
撃たれたオークは肩が吹き飛び倒れて藻掻いている。
「下手くそ! しっかり殺せ!」
オリバがライフルで藻掻いているオークの頭を撃ち抜いた。
見た目の割に丁寧な射撃だ。
「わかりました、取り合えず私が吶喊して動けなくしていくんで処理をお願いします」
そう言って俺は飛び出した。
土砂降りの雨を体に打ち付けつつオークに接敵する。
そして俺は思い切りオークの膝を蹴りで撃ち抜いた。
骨が砕ける音と共にオークが叫ぶ。
そして散弾銃をその口に差し込み放つ。
装填していたのはバックショットだ、頭が爆ぜ千切れ飛ぶ。
後ろからこん棒で殴ろうとしたオークを散弾銃のストックで顔面を撃ち抜き蹴り飛ばす。
すろと蹴り飛ばしたオークはもんどり打って頭を撃たれるのが見えた。
そうして次々とオークを潰し撃っていると、弾が切れた。
急いで戻ろうとすると火線が目の前を通り過ぎ少し先の地面で爆ぜた。
衝撃波で吹き飛び転がる。
「オークメイジだ! 全員隠れろ!」
叫び声が聞こえ慌てて立ち上がろうとすると、肩に衝撃が走る。
見ると、ナイフがささっており、オークの笑い声が響いた。
筋肉が裂け肩に力が入らない。
しかもその衝撃でまたすっころんだ。
後方で炎弾が当たり吹き飛ばされる。
転げまわりながらナイフを抜き笑っているオークにナイフを投げる。
そうして地面を足で掴み思いっきり駆けた。
向かうはオークメイジ、凄まじい速度で俺は接敵しオークメイジを地面に向かって蹴り飛ばす。
オークメイジは頑丈だ、皮は分厚くその下にも詰まった筋肉に太い骨が有る。
魔法を使うなら筋肉なんていらないだろと思うが強者のみが使える魔法は体にも依存しているようだ。
叩きつけたオークはバウンドし、跳ね返った所を蹴りぬく。
蹴り飛ばされたオークは転がり木にぶつかって止まるもまたすぐに魔法を放ってきた。
「固いんだよボケ!」
基本的に汚い言葉はあまり使わない俺も口汚くなる。
ドンドンと魔法が着弾し俺はもと居た石垣に隠れる。
「お前怒らせるだけかよ!」
オリバに怒鳴られる。
「いいや、あいつはこれで弱っている筈だ、次魔法が止まったら俺が頭を撃つ」
そう言ってダニーが手に持つのは大型のライフルだ。
弾も大きくしかもマグナム弾だ、ダメージはデカい。
石垣が壊れるかと言うくらい爆ぜていると魔法が止んだ。
その瞬間ダニーが頭を上げライフルを放つ。
「当たった! もう一発! もう一発!」
ボルトアクションを高速で行い何発も当てる。
そうして暫くすると軍が到着したんだろう、オークの後方から低く大きな銃声が連続して響いた。
重機関銃だ、12.6mm弾を放つそれは瞬く間にオークを肉塊に変えて行った。
すると後ろに置いてあった鞄型無線機から無線が入る。
『あーテステス、こちら101駆動隊、自警団聞こえるか?』
ダニーが無線を取り言う。
『感良し、こちらドルチェ村自警団、撃つ前に何か一言欲しかったです、ですが助かりました』
『いきなりの発砲失礼、オークが無線を傍受しているとの可能性を示唆されたため後方から近づきやらしてもらった今から顔を出す、発砲をするな』
『了解した、こちらけが人が多数おり、そちらの衛生兵の手を借りたい』
『了解、そちらへ向かう、終了』
すると、ケンタウロスが歩いてきた。
手には先ほど撃っていた重機関銃だろう両手で持ち歩いて来る。
「友軍だ! 撃つな!」
手を上げ挨拶する。
すると向こうも手を振って来た。
「いやぁ助かった意外と早かったんですね」
ダニーがそう言って手を全力で挙げる。
ケンタウロスがすこしかがみ手を握る。
「こっちはケンタウロス部隊だ、何、土砂で道が潰れていても走ってくるさ」
そう言いながらヘルメットを外すと髪がさっと流れてきた。
よく見たら女性である。
胸も大きい体躯に合った胸ですね。
ガン見しそうになるのを堪えつつ二指の敬礼をする。
すると向こうは此方をちらっと見て頷いてビリーと何か話し始めた。
オリバーが俺の腰を小突く。
「何やってんだ、俺達はさっさと死体を運ぶぞ」
そう言って俺達は死体を運び始めた。
雨も上がり、体に着いた泥や、血が固まり始める頃には死体もほとんど片づけ終わった。
初めて買った一張羅をボロボロにし棄てなきゃいけないなと思いしみじみと煙草を吸っていると、ビリーの家からケンタウロスが出てきた。
「ジャック、こちらはエリカ、エリカさん、こいつはジャックだ」
なぜ俺を紹介する必要が有るのかと思いつつ手を出す。
「どうもジャックです」
「ええ、貴方の事は知っている、バジットさんの息子...でいい?」
そう言われ首を引く。
「まぁ息子と言うと若干の語弊が有りますが、似たようなものです」
「そうね...あなたの事を詳しく知りたいわ、そうね...あなたの家に行って良いかしら?」
ぐっとガッツポーズするのを押さえ彼女を見る。
「知りたいって...何処までですか?」
「ジャック...顔に出てるよ、あと、彼女は既婚者だ」
そう言われ首を落とす。
「何が知りたいんすか? 国に売ったレシピはもう底についてますよもう俺帰って良い? 風呂に入りたい」
思わずめんどくさそうに対応する。
「すみませんエリカさんこいつは、すこし変わり者でして」
「変わり者でも何でも良いですよ、今は少しでも力を借りたくて]
そう言ってエリカは無理にでもついて来ようとした。