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シーン17 決定的に欠けたもの

 シーン17 決定的に欠けたもの


 第3戦は、いわゆるラリーレイドで行われる。

 周回コースで競われるラリーとは違って、チェックポイントを経由しながら、目的地までの速さを競うスプリントである。

 GⅩ1の舞台となるのは、ダッカリア星の地下をアリの巣のように張り巡らされた自然の地下空洞で、その巨大さは星全体を一周するほどに広がっている。


 言い換えれば、迷路だ。


 その起伏も半端なく、狭い鍾乳洞状になっているかと思えば、崖や地底湖、地下山というように、その構造の複雑さは想像を超えている。

 リーパの地下空洞からスタートし、初日はカンダルシティ、二日目はモルタードヴィレッジを目指す。三日目は、それまでのタイム差をスタート時間に加えて、ダッカリア星の首都カルーダシティが最終ゴールとなる。

 事前確認が出来るのは、スタート地点リーパの指定区域のみとなっていた。


 スタート前日。

 アタシとリカルドはロックガンの歩行試運転を行うとともに、渡されたラリーコースのルート指示データが、どこまで正確性を伴っているかをチェックした。


 わかった事は、データなんて、気休め程度だという事だ。

 信頼できるのは、方角と高低差のみ。

 どこに何があるかなんて、一切データには無い。

 使用できるセンサーは、照度センサーに、気流、温湿度、音くらいか。

 そういった微妙なデータから、この先に何があるのかを予測して、ルートを選んで進めって事らしい。正直、ナビゲーター役のコ・パイロットの判断っていうのが、結構重要になるのではないだろうか。


 にしてもだ。


 リカルドの奴、アタシが隣に乗っているのが、どんだけ不満なんだ。

 テストの間中、ムスッとして殆ど喋らないし、アタシが指示を出しても無視。

 こんなんじゃ、先が思いやられるわ。


 ガレージに戻ると、最後のカスタム作業が待っていた。

 コクピットのハッチを、ラリー用の特別用に交換する

 透明で、外が見える硬質ガラス状のハッチだ。

 で、外側に網状の保護カバーをつける。


 センサーが制限されるため、目視で周辺状況を確認するためだ。

 ハッチの上には通常はプレーンの首が乗るが、それも後方に下げて、少しでも視認性を向上させる。


「いざという時の脱出装置も確認するぞ、ハッチ開けたまま、そうだ。ナビシートの方からいくぞ。」

 エリックの指示で、マックがコクピット内のシートの脱着を確認していた。

「座面下の圧力パイプを外せよ、ここで本当に飛ばしたら大怪我するぞ。」

「大丈夫です。3・2・1、はい、射出圧OKです」

 マックが大きく両手でマルを作った。


 今回ばかりは、アタシは出場者だ。

 気を使われたのか、整備から外されて、なんだか寂しかった。


 パドック船内に戻ってバッドビルを飲みかけたところで、モーラに見つかった。


「ラライ、終わったばかりのところゴメン。アンディがまた変な仕事持ってきちゃって、アタシと一緒に来てくれない?」

「はーい」


 素直に答えたが、内心嫌な予感でいっぱいだった。

 アンディめ、アイツは油断できない。

 今度は何をさせようってつもりなんだ。


 モーラは、アタシを彼女の部屋に連れ込んだ。

「じゃ、着替えて。終わったらメイクするからね」

「って事は、また写真撮影ですか」

「ま、そうなるね」

「前回みたいに、変な写真は嫌ですよ」

「あんた若くて綺麗なんだから、文句言わない。あたしみたいなオバサンと違うんだから」

「モーラさんは、十分綺麗ですよ。なんかその、大人な感じで」

「あら。言うじゃない」

 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 アタシは用意されたコスチュームを見て、あ、っと口を開けた。

 てっきりレースクイーン用のコスチュームかと思ったら違った。


 アタシ専用の、それはプレーンパイロットスーツだった。

 白を基調にして、グレーのシャドーと、エメラルドブルーの鮮やかな二重ライン。

 胸元にはバッドビルの大きな文字が、これ見よがしに入っている。

 背には同じく大スポンサーの「ソフトイレブン」

 その他にも肩口やら、腰やらに、企業名がべたべたとつけられていたが、それがまた何とも言えずカッコよかった。


「あんたさ、実際のところ、黒より白が似合うね。髪の色も明るい青だしさ」

 試着を終えると、満足したようにモーラが言った。

「お人形さん役も大変だろうけど、大事な広告塔だからね。いい顔で頼むよ」


 モーラに言われると、仕方ないなあ、って思ってしまう。


「今回は、ちゃんとした記事だっていうから、頑張ってきなよ。インタビューとかもあるそうだけど、原稿はアンディが用意してるって」


 それはまた、ご丁寧な事で。


 アタシはアンディと合流し、一時間ほどインタビューを受けたあと、パイロットスーツでの撮影に臨んだ。


 今やアタシの天敵となった、口の上手いトーマ人カメラマンが待っていた。

 くそ。前回はよくもセミヌードまがいの写真をとりやがって。

 今度はそうはいくか。

 キメキメでカッコいいアタシを見せてやる。


 意気込んで臨んだ。


 そして。

 口車に踊らされた。


 撮影が終わる頃には、アタシは何故か、はだけたパイロットスーツの下に水着を着て、膝立ちのまま髪をかきあげていた。


「ハイ、終了お疲れさまー。いやー、ラライちゃん、撮影の度に良くなってくるね~」

 カメラマンにおだてられて、アタシは笑顔で手を振った。

 悔しいが、褒められすぎて気持ち良くなってしまった。


「なかなか居ないよ、こんなに適応力の高い娘。モデル業の方があってるんじゃない。嫌いじゃないみたいだしさー」


 カメラマンがアンディに向かって振り向いた。


「シーズンオフあたり、本気で写真集出してみない。売れると思うよ~。キャリアギャップに、この素人っぽさと、時々見せるプロ顔負けの凄みが、実に良いね~」

「その時は、ちゃんとウチを通してくださいね。ラライはウチの専属なんですから」

 アンディが釘を刺すように言った。


 アンディ、アンタはいつからアタシのマネージャーになったんだ。


 撮影が終わって、アタシはようやく全ての仕事から解放された。

 正直。

 撮影が一番疲れた。

 変な所が筋肉痛になるみたいだ。


 それに。


 毎回だが、撮影が終わると決まって後悔する。

 なんだろう、撮影しながら変に高揚していく自分がいて、それが終わったとたんに、急に叩き落されるような虚無感と敗北感に苛まれる感じは。

 で、また、次戦のパンフレットとかを見て、恥ずかしさに悶絶するのだろう。


 アタシは部屋の隅に投げ捨ててあった第三戦のパンフレットを拾い上げた。


 出場チーム欄を見て、リバティスターを探した。

 こうしてみると、今回の出場チームは異常に多かった。


 ラリースタイルだからなのだろうか。

 今回だけのワンスポット参戦チームが30以上もあった。

 どこも聞いたことの無いようなチームだったが、おそらく地元のチームなんかも入っているのだろう。

 ようやく、目当てのページを開いた。


 『リバティスター』

 ロックガンと、ヘルメット姿のリカルドの写真が添えられていた。


 『往年の名パイロット、マーキュリーブルーを擁するプライベートチームの雄。ここ数年はスピード系の試合で結果を残しているが、ラリー戦は苦手。天才肌のベテランパイロットは、パートナーとの信頼性が決定的に欠けているか? 今戦はしっかりと完走し、ポイントを堅実に獲得するのが目標。3年目となるコキュロートガンマは成熟の域に入り、安定感が増している』


 なるほどねー。

 この記事を書いたのが誰かは知らないけど、なかなかウチの実情を、言い当てているじゃない。


 信頼は、ま、決定的にないわよね。

 それでも。

 やるからには、勝ちたい。


 アタシはロアの特集記事をめくって、彼女の写真を見つめた。

 パイロットスーツで、決めポーズを作る彼女は、本当に可愛くて、カッコ良かった。

 負けたくないな。

 あらためて、そう思った。


 ちなみに。

 彼女も女性パイロットだが、特集ページのどこにも、水着に着替えさせられたような写真は無かった。


 何故だろう、パイロットとしては、負けた気がした。



 早朝。

 アタシとリカルドは隣同士に座って、目の前のレッドランプを見つめていた。


 地下道を、中継用の小型マシンが飛ぶのが見えた。

 横一列に並んだマシンが、重圧エンジンの鼓動に震えながら、その時を待っている。

 大地を踏み、駆けるその瞬間を。


 グリーンに変わった。

 リカルドが機体を前方に大きく傾けて駆けだした。

 スタートは最高だった。


 ファルカン機が一歩だけ先に抜け出し、次に無尽オルダーのコレスケ機が二位で続いた。

 アタシ達のロックガンは3番手で、スタートエリアを飛び出した。

 隣にいた筈の、ロアのタジールマッハが見えない。


 あたしは思わず後方を見た。

 ロア機がスタート地点付近で、複数のプレーンがクラッシュしている状況に巻き込まれているのが見えた。

 ・・・ロア!?


 ライバルなのに、つい、心配になった。


「どこを見てる。早速、分かれ道だぞ」

 リカルドが言った。


 前方で、巨大な地下空洞は、三つに枝分かれしていた。

 真ん中にファルカンが、続くコレスケも同じルートを選択したのが見えた。


「一番安定したルートが真ん中ね。右は平坦だけど、若干遠回り。左は、・・・良く分からない。最短コースかもしれないけど、起伏が大きそうね。スタートしたばっかりだし、はじめっからリスクをかける必要はないわ」


 アタシは説明した。


「選ぶなら、やっぱり真ん中ね。まずはファルカンをペースメーカーにしよう」


 だが。

 リカルドは聞き耳を持たなかった。

 彼は、迷わずに左を選んだ。


「な、アタシの説明きいてないの!?」

「聞いてるさ。だが、選ぶのは俺だ」


 まったく。

 信頼が欠けている。

 アタシはコースデータを放り出したくなった。



お読みいただいてありがとうございます

遂に第三戦が始まりました。

引き続き よろしくお願いします


おしらせです

「蒼翼のライ」閑話エピソード

シャーリィVSラライ 女の闘い を

短編小説としてシリーズ内に追加しています。


ぜひ、合わせてお楽しみください。

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