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シーン12 どうしてアタシが狙われる?

 シーン12 どうしてアタシが狙われる?


 第二戦が終わって、アタシ達のチームはちょっとした祝勝ムードになった。

 別に優勝したわけでもないのに、と思うかもしれないが、完走して10位以内に入るって事は、弱小チームのアタシ達にとっては、とても大きな事なのだ。


 食堂で行われた、ささやかなパーティは、和気あいあいとしていて、とても楽しかった。

 だが、バクスターさんが姿を見せてくれなかったのが、少し気になった。

 モーラに聞いてみると、「酒が腰に響くから寝てる」と教えてくれた。


 ちょっとしたハプニングは、その後で起こった。

 調子に乗ったアンディが口走ったのだ。


「次の第三戦は、ラリーだよ。メインパイロットはもちろんリカルドだけど、ナビゲーターはラライで行くよ!」


 ってーか。

 初耳だった。


 その場の雰囲気が、ちょっと変わった。

 アタシはもちろん、何を言い出すんだ、って思ったが、一番態度に現れたのが、リカルドだった。

 彼は急に不機嫌な顔になって。

 手にしていたグラスをその場にどんと置くと、アンディを睨みつけた。


 エリックが、「あのバカ」と呟いたのが聞こえた。

 アンディに向かって言ったのは明らかだった。

 この態度は、エリックはその事、つまりアタシをナビゲーターにするというアンディの考えを知っていたのだろうか。


 アタシはモーラを見た。

 本来なら、ラリーのナビゲートはバクスターの仕事だし、この為に彼は雇われているといっても過言ではない。

 夫の仕事を、こんなわけのわからない女にとられたとあっては、彼女も内心穏やかではないのではないか、と思ったが、案外冷静な顔をしていた。


「冗談じゃない」

 リカルドが言った。


「俺のナビゲートはバクスターだ。女なんか、二度と乗せるか」

 彼は忌々しげにそう言ってから、またアタシを睨みつけて、食堂を後にした。


 アタシ、睨まれる覚えは無いんだけどな―。

 アンディが勝手に言いだした事だし。


 でも、リカルド。

 今、二度と、って言い方しなかった?

 彼の言葉を思い返して、アタシはまた不可解な思いに包まれた。



 船は再び移動を始めた。


 第三戦はダッカリア星系の惑星リーパにある、巨大な地下空洞で行われる。


 大会の特殊規定としては、乗員二名で行われるラリー形式である事。競技は二足歩行形態で行われる事。ローラーやブースターの使用は禁止で、あくまで両足による歩行で進まなければならない。

 また、機体の位置検索機能を使ってはならず、大会本部が用意した、原始的なマップを利用する事になっている。


 大会に先駆けて、パドック船はスタート地点にあたる都市ミルスナーに到着した。


 第三戦のスタートまでは、珍しく時間があった。

 といっても、アタシの生活はいつもの通りだ。

 パイロットであるリカルドは、ここでも自由にパドック船を降りて、気ままに過ごしているようだったが、アタシはそうもいかず、ロックガンの装備変更や調整に追われ続けた。


 だが、今回はイレギュラーが発生した。

 歩行用の耐摩耗ベルトのストックが足りず、部品待ちの状況になってしまったのだ。

 エリックの機嫌はすこぶる悪くなったが、おかげで、


「こうしていても、やる事も無い。仕方ねえ、今日、明日はオフだ。遊びにでもどこにでも行ってこい」

 彼の許しが出て、アタシはリバティスターに着いて以来、はじめての休みらしい休みを貰えることになった。


 街に出かける前に、アタシはアンディに呼び止められ、これまでの給与を頂いた。

 整備士としての50万ニート(23万円くらい!)の給金と、レースクイーンとして働いた分は、1戦で14万ニートなので、これまでの2戦で24万ニート(11万くらい)だった。

 アタシは大喜びで受けとって、アンディの事を好きになりかけたが、後々聞いた話によれば、レースクイーンの仕事は、本来日給で14万ニートが相場らしく、アタシの給料は一般的なチームに比べると3分の1だったらしい。


 知らなければ幸せなままでいられたのに・・・


 ともかく。

 アタシは街に出た。


 ミルスナーの街は、GⅩ1歓迎ムードはあるものの、他のサーキットに比べれば、比較的静かな印象だった。

 リーパの地下空洞への入り口とあって、観光客船が多く立ち寄る街で、土産物屋や、宿泊施設が多く立ち並ぶ。

 やはりこういった街には特有の旧市街なんかもあった。

 そっちは少しだけ治安が悪いとは教えられたが、かえって活況もあって、アタシは好奇心をそそられた。


 雑多な街には、プレーンパーツをはじめとしたジャンク品を扱うリサイクルショップなども多く、そういった店を眺めるのはアタシの趣味だ。


 そんな街の一角で、ヘルメットを扱う店を見つけた。

 覗いてみると、手ごろで良さそうな品が沢山あった。

 アタシはその中から、二つのヘルメットを選んで、どちらにしようか迷っていた。

 どちらも、プレーン用にも通常の宇宙作業用にも使えるもので、古いモデルだが、カラーリングが素敵だった。

 一つは、シルバーの地に、虹の様なラインと、星が幾つも入っていた。

 もう一つの方は、白を基調にエメラルドブルーの縦ラインが入って、爽やかだが、ほんのりレーシーな雰囲気が漂っている。


 どちらにするか決めかねて迷っていると、思いもかけず声をかけられた。

「で、どっち買うの?ライ」

「そうねー。シルバーが良いかなって、思ってんだけど・・・・」


 アタシは、がばっと、声のした方を振り返った。


「って、なんでアンタが居んのよ、ロア」

「何でって言われても、ボクだってオフくらいあるさ」

 ロアは、腕組みをして立っていた。


「脅かさないでよ。ライって呼ばないで、って言ったでしょ」

「そうだっけ?」

「そうよ」

「じゃ、口止め料」

「・・・・な。」

「とりあえずはお昼ご飯で良いよ、ボクお腹空いてるんだ」


 そう言って、ロアはシルバーのヘルメットを取り上げた。

「あ、それ、今アタシが選んでるんだけど?」

「迷ってるんでしょ。キミはそっち買いなよ。ボクはこっちが気に入った」


 しれっと言って、彼女はシルバーのヘルメットを買ってしまった。


 そうだった。

 こいつ、いつもアタシが欲しがるものを横から奪ってく奴だった。

 プレーンも。

 お菓子も。

 服も。

 とにかく、何もかもだ。


 アタシは怒りで震えながら彼女を見たが、ロアはてへっと笑う顔をして誤魔化した。

 仕方なく、アタシは白いヘルメットを買った。


 路地を歩きながら、食事のできる所を探していると、ロアが急に体を寄せてきた。


「どうしたの、ロア?」

 ロアは、アタシを見上げて、目を素早く左右に巡らせた。


「相変わらず鈍感だね。誰かにつけられてるよ。わからない?」

「え?」

 アタシは何の事か分からなかった。

 ロアはアタシの手を引いて。突然走った。


 路地裏に走り込み、ダストボックスの陰に身を隠す。

「伏せて」

 彼女の言われるままに体を小さくすると、足音が近づいて来るのがわかった。


 顔を見たくて、覗こうとしたが、ロアに抑えられた。

 彼女の獣耳がピクピクと動いた。


「2人だね。青い髪の女を探してる。狙いはキミだ」

 さすがはベルニア人だ。よく遠くの音も聞こえるんだ。


「狙われる覚えは?」

 アタシは首を横に振った。


 過去から現在までを通したら、そりゃあ色んな人に狙われても不思議ではないけど、少なくとも今は真面目に生きている筈だ。


 相手は二手に分かれたようだった。

「一人がこっちに来る。どうする?」

 ロアがアタシに訊いた。


「任せる」

 アタシは答えた。


 正直、アタシは戦いに自信はない。

 銃を持っていれば、大抵の相手には負けないと自負してるけど、普段持ち歩かないのだから仕方が無い。素手では、多分その辺の一般人にも簡単に負けてしまうだろう。

 自慢じゃないが、アタシは弱いのだ。


「相変わらず、生身じゃポンコツか」

 ロアは、両手を開いた。

 シャキン、と爪が伸びた。


 アタシを探して路地に飛び込んできた男に向かって、ロアは飛びかかった。

 男はなんと、武器を手にしていた。

 あれは、パンツァーV。粗悪品だが、よく流通している麻痺用のガンだ。


 ロアの一閃が、男の腕から銃を弾き飛ばした。

 身をかがめ、足払いで相手の体勢を崩す。流れるような動きで、相手の首筋に、鋭い爪を突き付けた。


「何者だい。なんでボクたちをつけまわす?」

 彼女は訊いた。

 可愛い声なのに、ものすごく迫力がある。男がごくりとつばを飲み込む音が聞こえた。


「答えないなら、このまま刺しても良いんだよ」

 爪を、男の目の前で光らせる。

 男の顔が恐怖にひきつった。


「た、頼まれただけだ」


 男は叫ぶように言った。


「誰に?」

「名前は知らねえ、ただ、青い髪の女を、ちょっと怪我させてくれって」

「怪我をだって?」

「そうだ。殺すとか、そういうのじゃねえ。怖い目を見せて、船を降りるように仕向けるか、ちょっととした怪我をさせてくれればいいって」

「どういう奴だった」

「お。男だ、わりと、若い」


 ロアがもう少し聞き出そうとした時だった。

 仲間が駆けつけてきて、銃声が響いた。


 ロアはすんでのところで躱した。

 隙を突いて、男が逃げ出した。


 追いかけようとしたが、威嚇射撃を受けて、ロアはアタシの隣に再び身を伏せた。

 銃声が聞こえなくなってしばらくすると、ロアは立ち上がった。


「どうやら、逃がしちゃったみたいだね」

 ロアはアタシを振り向いた。

「さて、助けてあげたんだ。今日のランチはとびきりのものをご馳走してもらわないとね」

 彼女はいましがたの襲撃など、何に気にもかけないように平然としていた。


 まったく、相変わらず、なんて娘だ。


 アタシは仕方なく頷いて立ち上がったが、どうしてアタシが狙われたのか、全く訳が分からなくて、しばらくはまともな受け答えが出来ない程に混乱していた。


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