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シーン9 開幕戦は波乱の末で

シーン9です

よろしくお願いします

 シーン9 開幕戦は波乱の末で


 爆発があったのは、メインスタンドの中心、ホームストレートのまさしく真ん中だった。

 会場はちょっとしたパニック状態になっていて、会場の警備員が慌てた様子で、スタンドから立ち上がる観客に対して、落ち着いて行動するようにと呼び掛けていた。


 吹き飛んだのは、出場したプレーンではなく、サーキットそのものだった。

 コースのど真ん中に巨大な穴が開いて、不幸な一台のプレーンがその中に落ちて完全にクラッシュしてしまっていた。


 あれは、ゼッケンナンバー23

 バイモスのチーム〈Tミラージュ〉のタジールマッハだ。

 パイロットは、トトロッシの方だろうか。


 黄色と赤の非常ランプがサーキット周辺で一斉に灯っていた。

 セイフティプレーンが出動して、サイレンの音が響き渡る。

 救急隊と思われるスタッフが、事故?の起きた巨大な穴に向かっていくのが見えた。


「良く分からないけど、危険だな。ラライはモーラとパドック船に戻ってて。僕とリカルドは本部に状況確認に行ってくる」

 アンディがそう言ったので、アタシは仕方なく船に戻る事になった。


 

 待っている時間は長かった。

 肩の凝るコスチュームから解放され、シャワーを済ませたアタシは、上下青白ボーダーのスウェットというラフな格好で談話室に行った。

 モーラが焼き菓子と、暖かいドリンクを用意してくれていた。

 アンディの差し入れたサンドイッチも持って来てあって、アタシは一つ頂いた。

 長くなりすぎた髪が邪魔になった

 そろそろ切りに行きたいが、レースクイーンのまねごとをしている間は、もう少し伸ばしておくのも良いだろうか。

 とりあえず、ポニーテール気味に高くまとめて、アタシは大型モニターのスイッチを入れた。


「何かあったの?」

 エルザが何処からともなく走ってきた。

「サーキットで事故みたい」


 GⅩ1専門チャンネルが映った。

 画面の中では、ヒキガエルのような緑の顔をしたドリアン人のレポーターが、耳障りな声で早口に現場の状況を伝えていた。


 そういえば。

 GⅩ1の関係者は、普通のテアードばっかりで、ガメル人やザンタ人、もちろんカース人など、特殊な外見の人類種をあまり見かけない事に、今更ながら気付いた。


『サーキットで起こったこの爆発は、現在事件と事故の両面から捜査が続けられています。現場に居合わせた観客の話によりますと、レースの最中、急にサーキット路面の下から爆発が起こったとの事で・・・』


「なんだか大変だったみたいね」

 ちょこんと、エルザがアタシの隣に座った。

 小さい手を伸ばして、焼き菓子の包みを自分の膝元に集める。

 甘い匂いがして、サンドイッチよりもそっちが食べたくなった。


 ニュースはまだ続いていたが、とりあえず新しい情報は無さそうだ。CMが入って、ケミカルメーカーやドラッグメーカーなど、GⅩ1の主力なスポンサーのタイアップ映像が流れ始めた。

 アタシ達のメインスポンサーは、ドリンクメーカーの『バッド・ビル』と合法ドラッグメーカーの『ソフトイレブン』だが、どっちも放送は入らなかった。

 まあ、バッド・ビルは正直美味しくない。

 談話室に設置された冷蔵庫内のストックが、全然減らないのを見ても、その人気が伺える。


 カタンと音がして、アンディが帰ってきた。

 あんな事件があったにもかかわらず、彼はなんだかご機嫌に見えた。


「どうかしたんですか?」

 アタシは聞いた。


「今、大会本部の緊急会合が終わってね。今大会の中止が決定したんだ」

「中止!?」

「そうさ」

 彼は頷いた。


「まあ、大会としては不測の事態だし、サーキットの安全の確認が取れない事にはね」

「でもなんで、そんなに嬉しそうなの?」

「だってさ、幸か不幸か、僕たちのチームは今大会のみの出場停止処分だったんだ。結局レースそのものが無くなったんだから、ペナルティは無くなったも同然って事さ」


 なるほど。そうなるのか。

 まあ、かといってアンディみたいに大手を振って喜ぶのはどうかと思うけど、連戦してチームポイントを競う事を考えてみれば、この決定は有難いことかもしれない。


「とりあえず、レース後の主催者パーティも無くなったし、あと一日だけこの星には滞在するけど、明後日には第二戦の舞台、地球星系の惑星ヴィーナスの宇宙サーキットに移動するから、皆、星を離れる準備をしておいてね」

 アンディは早口でまくし立てると、上機嫌で出て行った。


「いつもなら、最終日はオフなんだ。ラライは買い物にでも行くかい」

 モーラがアタシに声をかけた。


 どうしよっかな。

 買い物は良いけど、アタシ、先立つものが全然ない。

 そういえば、まだ給料だって貰ってないし、って、あれ? 給料日っていつだっけ?


 こういう契約とかって、結構疎いのよね。


 エルザが期待を込めた目でアタシを見た。

 うーん、これは付き合いでも行った方が良いかな。

 と思ってると、急に通信機から呼び出しの音が響いた。


 エリックだった。

 嫌な予感がしたが、的中した。

「ラライっ。今すぐガレージに来い。今すぐだっ! 宇宙レース用に装備変更するぞ!」


 どうやら、アタシにオフという言葉は無いらしい。

 本当にすぐにガレージに行ってみたら。


「バカもん、作業着で来んか!」


 怒られた。

 ちょっと、理不尽だと思った。



 数日後、アタシ達は地球星系に到着していた。


 惑星ヴィーナスは地球星系の惑星の一つで、「女神」の名を持つ星にしては、焼けた岩ばかりの殺風景な星である。

 人が営んでいるのは、その惑星を日よけにして作られた幾つもの人工都市衛星の方で、数百の衛星が一つの文化圏を作り出している。


 ヴィーナス宇宙サーキットは、地球星系のレース場としてはかなり古い方で、非常に広い間隔にチェックポイントが設けられ、とにかくスピード勝負の高速サーキットになっている。

 その速度は、先日のグリッドリッジとは桁違い。

 時速で言えば約40000キロ。

 機体強度に問題がなければ、大気圏を突破できるほどの速度である。


「両手両足を取り外すと、レギュレーション違反になる。チェックポイントにはフラッグバーがあるから、一周ごとに一本。全部で5本回収して戻らんと、失格になる」


 アタシとマックを前にして、エリックは改めて今回のレースルールを説明してくれた。


「はっきり言って、スピードが最大の勝負だ。コース取りも重要だが、まずは先頭集団から引き離されない事だ」


 なるほど、今回はシンプルなルールだ。


「それだけ? だとプレーンの基本機能が勝負って事?」

「そう簡単なもんではない。コース上には幾つものリング状のループゲートが設置されていてな、そこを潜らんとタイムペナルティだ。ゲートは狭いから、一気に何台ものプレーンは突入できん。当然、妨害もある」


 訂正。シンプルでも何でもない。


「また、予選はあるんですか?」

「ある。二回だけだから、確実にやらなきゃならん。」


 エリックはアタシをじっと見た。


「どうかしましたか?」


 アタシは首を傾げた。

 エリックは思案気味な顔になった。


「ラライ、お前、プレーンに乗ってみる気はないか?」

「・・・!?」

「レースに出てみる気は、ないか、という意味だが」


 こほんと、エリックは咳払いをした。

 マックが驚いた顔で、アタシとエリックを見比べた。


「な、何ですかー、アタシは駄目ですよー。そんな目立つ事出来ませんよー」

 アタシは慌てて断った。

 ただでさえ、レースクイーンとして注目されるのも怖いのに、レーサーになんかなったら、ますます注目されてしまう。過去を捨てた女として、わざわざ騒がれてしまうような舞台に立つなんて、危険極まりない。


「そうか、この間の走りといい、天性のものを感じるんだが」

 エリックは残念な様子に見えた。


 彼の言葉は嬉しかった。

 プレーンに乗って仕事ができるなら、それはアタシが望んできた事だ。

 そして、何であれ人に認められるってのは嬉しいものだ。

 だけど、今のアタシに相応しい職業かといえば、そうじゃないとしか答えられない。


 もっとも、レースクイーンなんて、それ以上にアタシには不似合いなのだが。


「そうですよ。姉さんなら、バクスターさんより早く走れそうなのに。勿体ないな」

 マックが、これもお世辞じゃなく言った。


「今でさえ二足のワラジ状態で死にそうなのに、この上レーサーなんかやったら、本気で死んじゃうよ」

 アタシが肩をすくめて見せると、


「クイーンなんざ、お遊びみたいなもんだろうが」

 その仕事の辛さを何にも知らないエリックがぼやいた。


 いや、思った以上にきつい仕事なんだぞ。

 アタシは反論したくなったがやめた。


「父さん、ラライ、ここに居たね」

 ある意味アタシをこんな状況に追い込んだ張本人が、能天気な声をあげながら、ガレージ内に入ってきた。


「どうした。アンディ」

 彼がガレージに来るのは、実は珍しい。

 エリックが顔を上げた。


「第二戦の件だけど。バクスターが駄目みたいだ」

「駄目? どういうこった?」

「腰が痛いって、しばらく前から言っていたんだけど、メディカルボックスに入っても改善しなくてさ。もしかしたら古傷かもしれないって」

「メディカルボックスでも治らない傷って?」


 アンディはアタシにも一瞬だけ視線を向けた。


「メディカルボックスは自然治癒力を高めて治すんだ。自然には治らない傷は治せないんだよ。バクスターは昔大怪我をして、腰に人工のバネを入れてるんだけど、痛みはそいつのせいかもしれないって」

「検査には」

「パドック用宇宙港に到着したら行かせるよ」

「どっちにしても、第二選は無理か。まあ、リカルドに任せるしかないだろう」

「それなんだけど」


 アンディが、改めてアタシを見た。

 アタシは、とっても嫌な予感がした。

お読みいただいてありがとうございます

少しずつ、事件が動き出してきました

引き続き、よろしくお願いします

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