シーン0 プロローグ 撮影会は突然に
この作品を見つけていただいて、ありがとうございます。
蒼翼のライ、エピソード3、いよいよスタートです。
今回は、プロローグも含めて、全60回でお送りします。
基本的には毎朝更新を目指します。(5時~9時・・・6時台が多いです)
最後まで、よろしくお願いします。
星々の生まれゆく速さは、時代を凌駕する。
目にした光の全てが、真実ではない。
それを心のどこかで知っているからこそ、人は希望を光に例える。
光は、確かに目の前にあった。
人型をした汎用機械―プレーン
背中にある二枚の翼、エネルギーパネルから生み出される推進力の全てをその一瞬に賭けて、「ライ」は眼前で炎に包まれる敵機へと自らを特攻させた。
先程まで死闘を演じていた機体は、外部からの激しい衝撃を受けて変形していた。
コクピットハッチが半開きになって、中にいるパイロットの腕が見えていた。
脱出できないのか?
咄嗟にそれを直感した。
暴走するマシンの粒子圧縮エンジンが、無音の筈の真空世界に轟音をあげていた。
ライのプレーン「ジュピトリス」は、必死に敵機を押さえつけ、引きはがされないようにするのが精一杯だった。
ライに、ためらう時間は残されていなかった。
自らもコクピットハッチを開き、敵機に向けて飛んだ。
全身の力で、変形したハッチの隙間を広げ、敵パイロットの腕を掴む。
相手の体が少しずつ、自由になった。
思った以上に小柄な相手だった。
女?
それも、子供か―
機体の悲鳴が、更に激しくなった。
やむを得ない。
ライは、相手の体を抱くようにして、プレーンを離れた。
広大な宇宙に生身で投げ出され、二人の体はくるくると回りながらどこまでも飛んだ。
離れていった二機が、巨大な光の玉となり、そして、消えていった。
アタシのジュピトリス―
ライは、自らが宇宙海賊を名乗った時からの、かけがえのない盟友を失った事に、まだ、実感を覚えることが出来なかった。
助ける必要などなかった筈の敵パイロットが、彼女の腕の中で震えていた。
まだ子供だ。と、いっても、彼女と比べて、そんなに変わるわけではない。
バイザーの中から、大きな、それでいて鋭さのある瞳が、ライを睨みつけていた。
そこに浮かぶ光は、憎しみ、怒り、そして、戸惑い?
『どうして』
接触式の通信が、ライのヘルメット内に響いた。
『どうしてボクを助けたりしたの? ボクは、キミを殺そうとしてるんだよ』
明確な答えは、ライ自身にもわからなかった。
ただ、一つ言えることは。
目の前で震えるこの小さなパイロットの憎しみが、かつての自分が胸の奥底にしまい込み、隠したものと、同じだったから、かもしれない。
それが。
のちに「蒼翼のライ」のメンバーとなる少女。もう一人のプレーンパイロット、「ロロア・コルト」、通称ロアとの、初めての出会いだった。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
とまあ、ここまでが昔話で。
今のアタシは、惑星グリットリッジの乾いた大地の上で、熱すぎる太陽の光にじりじりと全身を焼かれていた。
アタシの名前は「ラライ・フィオロン」。
外見は地球人とよく似た、テア星系人種の女だ。
トレードマークは生まれつきの青い髪。
最近、切るのをサボりがちになっちゃって、もうすっかりロングヘアーになってしまった。
顔は、まあまあ、美人の類には入るのだと思う。
少し童顔なせいで、性格まで甘く見られがちなのか、結構頻繁に男に声をかけられる。
といっても、今のところは恋人を作る予定もない。
恋愛に興味がないのかっていえば、そういうわけでもなく。
気になっている男性が、いるにはいるのだが、自分の恋愛感情というものに、今一つ自信が持てなくて、相手に対する「好き」という感情のレベルが図れなくて困っている。
まあ。
そんな事は、どうでもいい。
問題は、アタシの経歴だ。
アタシは数年前まで「蒼翼のライ」と呼ばれる宇宙海賊だった。
アタシ、いや、正確にはアタシ達のチームは、犯罪結社エンプティハートと戦い続け、遂にはエレス同盟軍と結託した恐るべき野望を打ち砕いた。
その活躍はいつしか万人の知るところとなり、映画やドラマにもなって、世間では「宇宙の英雄」とまで呼ばれるようになっていた。
だけどアタシは、そんな彼女の偶像が嫌だった。
チームを解散し、全てを捨てて、もう一度最初から、普通の女性としての人生を歩む決意をした。
それが、今思えば間違いだったかもって、たまーに思う。
いやはや、苦労の連続だったのよ。
経歴を抹消したのは良いけれど、身分証明も何もなくなって、就職は出来ないやら、そもそも就職するための資格諸々もとれないやらで。
それでも紆余曲折あって、宇宙旅行会社に勤めてみたり、モグリの運び屋のアシスタントになったりして頑張ってみたんだけど。
どうにもこうにも、長続きなんてできやしない。
アタシはスーツケース一個とショルダーバック一つで街を歩きながら、一枚のポスターに目を止めた。
『今年もグリットリッジに熱い季節がやってくる!』
そこにはそんな文字が躍っていて、様々なプレーンメーカーやパーツショップがスポンサーになっているレース用プレーンが描かれていた。
ギャラクシーエクストリームレース。
カスタムしたプレーンによる、銀河中を舞台にして行われる一大レースだ。
プレーンレースにも色々ある。
カテゴリーや団体によっても様々で、もっとも規模の大きい大会になると、優勝賞金は夢物語の世界になってくる。
このギャラクシーエクストリーム、通称GⅩ1は中規模の大会で、参加している30チームのうち、メーカーが資金を出しているワークスチームはたった2チームだ。
残りは殆どがカスタムショップやケミカルメーカーなどがお金を出し合って参加しているプライベートチーム。
まあそれでも、こんな辺境の惑星にとっては、街中が騒ぎ立てるほどの一大イベントでもあるのだろう。中規模とはいえ、ものすごい金が動く世界なのは間違いない。
それに、開幕戦がこの星で行われるのは、数十年ぶりの事なのだ。
アタシはスタート地点となる、グリットリッジサーキットのチーム専用宇宙港に立った。
気だるそうな警備員に要件を伝え、しばらく外で待たされる。
日差しが容赦なかった。
お気に入りのスワローハットが役にたったが、それでも結構な時間がかかった。
このままじゃ熱射病になるかも―。
もう熱いのはうんざりなんですけど―。
とか思っていると、確認が取れて、アタシは中に通された。
中は広大な空間になっていて、チームごとに専用の整備工場、兼、移動用貨物船、パドックシップが並んでいた。
はっきり言って、これまでに目にしたことが無い程の壮大な光景だった。
機械の匂いが充満して、マシンの出力調整をしている音が、そこら中から響いてくる。
アタシは目的のチームを探した。
一番奥の、薄暗い場所に、その船は停泊していた。
チームのカラーリングはブラックにブルーラインで、白のナンバー24が目立っている。
よし、ここだ。
ちょっと気合を入れて、と、思ったが。
なんだろう、ここ。
他のチームに比べると、随分と、みすぼらしい。・・・ような、気がする。
アタシはメインハッチの前に立った。
男の人が二人いた。
一人はやや年配のテアード(テア星系人の事)で、見るからに整備士という格好をしていた。もう一人は、それよりは若く、きちんとした身なりをしていたが、よく見ると二人の顔つきが、よく似ていた。
親子だと、直感した。
声をかけようとしてためらった。
なんだか、口論をしているようだ。
「お前がしっかりせんからいかんのだ、うちのエースに恥をかかせる気か」
年配の男が怒鳴る声が聞こえた。
「そんな事言っても、父さん。今どきあんな安月給で、シーズン中帯同してくれるモデルなんて見つからないよ」
「レンタルでもなんでも、探せば良かっただろう。うちのチームパンフレットの撮影はもう一時間後なんだぞ。バイモスのチームなんぞ、二人も雇ってたというのに」
「あっちは新しいスポンサーがついたし、広告収入があるから」
「バカもん、チームイメージが上がる努力もせんで、スポンサーがつくか!」
どうも、内輪もめっぽい感じだな。
いいのかな、今、声かけちゃって。
少し様子を見たが、二人の口論はまだまだ続きそうな勢いだった。
仕方ない。
「あのー、ちょっといいですかー」
なんだか、怪しい宗教勧誘のような呼びかけになってしまった。
二人の動きが止まって。
ゆっくりと、その顔がアタシを見た。
「カスタムショップ、ゼロ・マジックの社長から紹介を受けてきたんですケド。ここって、チーム〈リバティースター〉のパドック船ですよね―。 求人の件で、その―、連絡って来てます?」
「ゼロ・マジック?」
「求人の・・・件?」
あれ、二人とも、はてなマークが浮かんでる。
おかしいな、連絡してくれてないのかな。
と、突然。
「良い」
男が呟いた。
二人の眼がアタシの全身を上から下まで見つめて、顔を見合わせて・・・頷いた。
「君、求人で来てくれたんだね!」
若い方の男が、唾を飛ばしながら駆け寄ってきた。
「は、はいそうですけど」
勢いに気圧された。
なに、この待ってました感。
採用してほしいのはやまやまだけど、なんだかちょっとおかしくない?
「採用だ。すぐ採用するよ、はやく、はやくこっちに来て!」
「ちょ、ちょっと、面接とか、技能テストとかって、無いんですか」
アタシは腕を引っ張られた。
せっかくプレーン整備一級の偽造免許まで用意してきたのに。
見なくて平気なわけ?
アタシの華麗なトルクレンチのテクニック披露は~。
アタシは船内に連れ込まれた。
「モーラ、彼女だ、頼む」
男は、モーラという体格のいい中年女にアタシを紹介した。
「少し線が細いね。良いのかい?」
「ああ、大丈夫だ。彼女しかいない!」
何事ですかー。
アタシは。
・・・。
アタシは整備士として、紹介されてここに来たんですけど―。
説明する間もなく、アタシはモーラという女性によって、強制的に着替えとメイクを施された。
良く分からないままに、水着みたいなコスチュームを着せられ。
やけに高いヒールを履かされ。
一時間後。
「はい、ラライちゃん、もう少し笑って―」
はい。にこーっ。
ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃっ。
・・・。
アタシは、レースクイーンになっていた。
はじめて会ったばかりのエースパイロット、リカルド・マーキュリーの隣で、笑顔で写真に収められる。まるで、もう何年も一緒に過ごしてきたチームのパートナーのように。
ん。
これはいったい、どーゆ―ことだ。
アタシは、整備士に応募してきた筈なんだが。
周りにいるスタッフからも、何一つ説明を受けられないまま、アタシは撮影会を続けた。
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