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家を出ると、既に迎えの車が来ていた。
黒色で、如何にも高級車というような風貌をした車体は、太陽の光を吸収して眩しいほどに光っていた。
朝からよくやるね、と呆れつつ窓をノックする。
それに気づいた運転手はすぐに後部席のドアを開き、祐を招き入れる。
「おはようございます、祐様。」
「あぁおはよ。早朝からお疲れさん。じゃ、頼むわ。」
その祐の言葉を聞いて、ドライブを踏む。
揺れながら移動するのが何となく気持ちよくて、寝てしまいそうに何度もなったがなんとか耐えた。
「到着致しました。足元にお気を付けて。」
「んー。ありがとうね。帰りもまたよろしく。」
着いた先は超高層ビル。街の中でも特に高いその建物は警視庁本部で間違いはない。
エレベーターにて23階を押して、会議室へ移動した。
───
「おはようございまぁす。」
会議室の扉を開いて挨拶をする。
だが、虚しいことに返事は帰ってこず、逆に睨まれてしまってすっかり祐は気を落とした。
席に座るやいなや、机に伏してしまった。
「……祐、お前もガキじゃあるめぇし、空気ぐらい読めないもんかね。」
「うるさいよ隼人。僕は僕らしくあるべきだって言ったのは君じゃないか?」
「もうガキじゃないと思ってのことだったんだがな、まだだったか。大人になろうな。」
「あ?」
《異能力特別制圧部隊》No.4の"隼人"は、拗ねた祐に対して指摘するが、返って祐をイライラさせるだけであった。
今現在、会議室に来ている人間は、13席ある中の6人程度で、半分程度しか集まっていない。
朝に弱い者は仕方がないが、普段からこういう会議に来ない部隊メンバーは数人いる。
祐は「協調性がない」と言うが、それに限っては祐も人の事を言えた立場ではなかった。
「司令官サン?もウ待ってるの面倒だし、始めちゃおうヨ。」
「それもそうだなソリエノ。今回の話は、私がまた個別に伝えておこう。」
No.6のソリエノがそう促して、ようやく話が始まった。
「今回お集まり頂いたのは他でもない。"例の件"についてだ。」
「しつもーん。例の件ってなんなのさ。」
「紅から聞いていないのか。というか紅はなぜ来ていない?」
「聞いてないよ。それと、紅は家事で大忙しみたいだよ。」
実は紅は仕事の度に家を留守にするのだが、如何せん洗濯物やゴミが溜まるので、連続で仕事が続いた日には大忙しなのだ。
祐は例の件についてはなにも知らなかった。
なぜ紅が教えなかったのかは分からないが、何か理由はあるのだろう。
「こいつを見てくれ。」
そう言うと須藤は指を鳴らし、空間に映像を映し出す。
これは彼の能力「映像投影」によるものである。
記憶しているもの、及び事前にインストールした資料を、このように空間へと映し出すことが出来る能力だ。
「これは先日発見した異能ヤクザグループの集会だ。見えるだけでざっと百人以上はいるだろうな」
「へぇ、じゃあ例の件って言うのはこのヤクザグループの始末って事?」
「大雑把にいえばそうだ。だが、アジトすら分からない上にどこに現れるか、それに目的が予測できないため、追跡に手間取っている。」
「それデ、私たちがどうソウサするんですカ?手掛かりがないト、私たちも動けない。」
祐も隼人も実際そう思っていた。が、思わぬ所に捜査の要がいたのだ。
隼人の右正面にいるブカブカの上着を着た細身の男。先程からなにも喋らないが故に目立たなかったが、実は1番早くここに来ていた。
彼はNo.12のシオヤ。
《異能力特別制圧部隊》唯一の探査系異能持ちであり、最近加入したばかりの新参者である。
「……あんた、誰?」
「12番じゃん、新入りの癖に全く会議来ないから何事かと思ったけど……」
「彼の能力で、アジトの一部を掴むことが出来た。私が選出したメンバーにてその一部を制圧し情報を持って帰れ。」
「それが、今回の司令っスか〜!」
No.7、澄春はウキウキした様子で声を出す。
どうやらさっきまで寝ていたようだがまあ、話の内容が分かっているのなら構わない。
「今回の任務に向かってもらうのは私が事前に決めている。
No.1。No.4。No.8。No.12。この四人で行ってもらう。異論はないな?」
「ちぇ、私は入ってないんスか。」
「……まあ、そのメンバーならいいかな。」
「俺も異論はないぜ。ただ心配なのは12番。あんた、戦闘に関しては大丈夫なのか?」
「……」
「それに関しては安心して欲しい。彼の戦闘センスは私が保証する。」
「ヘェ、司令官サンのお墨付きかぁ。それなら安心だネ!」
話に一段落着いたところで、6人いる中で一人だけ出てきていない人物。"No.8"が口を開いた。
「今回の任務はよぉぉ……どんくらい暴れてもいいンだぁ……?」
「悪いがトート。今回の任務ではあくまで情報の奪取だ。あまり暴れて被害が増えるのは好ましくない。」
「なんでだよォ!!ならなんで俺を配属したァ!?」
「……なんでトートってさ、能力的に暴れられるような感じじゃないのに暴れたがるの?」
「なんでってそりゃぁ……」
「"気持ちいいから"……デショ?」
「よぉく分かってんじゃねぇかオイ!」
No.8であるトートは気性が荒く破壊の限りを尽くすような残忍なキャラをしているのだが……。
その異能力は「死神の鎌」。名前と同じ異能という極めて稀なその能力は文字通り死神の鎌を生成する能力。
なのだが、実はその鎌は物体を斬ることが出来ない。
出来ない訳では無いのだが、その本来の能力は「斬ったものの魂を刈り取る」な為、外傷を与えることがメインではない。
鎌そのものは脆く、すぐに傷ついてしまうからだ。
「トートもしっかりと任務をこなしてくれ。毎回死神の鎌を修理するのは嫌なんだ。」
「チッ……わーったよ。今回は真面目にやるよ……。」
「そうしてくれ。では今回の会議はこれまでとする。各自、任務には真面目に取り組むように。以上!」
その言葉と同時にシオヤは席を立ち、サッサと部屋を出ていってしまった。
その手には何かが。それが何かを見れた人間はいなかったが、全員がその存在を認識していた。
(12番、シオヤ……。なーんか隠してるみたいだな。任務中にでもちと観察してみるか)
それぞれが、任務へと準備を始めた。
おはようございます。
二話、更新しました。シオヤがカタカナ表記なのはわざとです。喋らないのもわざとです。
ルビ付けるの大変ですね