1
「……うん。オッケー!それじゃ、手筈通りに頼むよ〜。うん、じゃあまたね。」
《ピッ》
暗闇に包まれた閉鎖空間に、電話を切る音が不気味に響いた。
肌が凍るような感覚すらも得てしまう程に寒い中、二人の人間が視線を交わす。
「やけに反抗的じゃん、ここに来てまだ救いがあるとでも思ってるの?」
冷たい目で、地に伏す女性を見下す。
見下された女性もまた、熱く燃えるような視線を送り返すが、寒さ故に声は出せないようだった。
「まあいいや。今のキミじゃあどうにも出来ないんだから大人しくしていた方がいいと思うけど、どうかな?」
「───────!!」
女性が口を開く。
震え、凍てつき、ヒビ割れたその唇を必死に動かし伝えた声無き言葉は。
瞬時に彼女の言葉を理解した男は、パチンと指を鳴らす。
何が起きたのか、瞬時に彼女の首が飛んだ。
「ナルホドね……。本っ当に最後の最期まで面倒くさい事してくれるじゃん、"水澄夕鈴"。まあいいや。俺の仕事はコイツの始末だけだし、あとは彼らに任せればいい……。楽しみだ、これからどういうお祭りが開かるのかな?」
右頬に残る火傷跡を手で撫でつつ、何もない空間へと笑みを向ける。
その邪悪に満ちた顔は、やがて崩れ去り、まさに表向きの顔とでも言うかのような青年の顔へと変貌を遂げた。
《チュンチュン》
新しい朝が来た。
別に特別な日でもなんでもないのだが、こうやって朝が来る度に日にちの経過をわざわざ確認する。
これは完全に癖なので直しようがないし、別に直す気もないので今も続いている。
「おはよ。今日もいい朝だね。」
「おぉ、おはよう。またこんな時間に起きるなんてなんかあるのかい?」
「別に。早起きは三文の徳って言うだろ。それだよ。」
時刻は朝の6時。
リビングに行くと、既に彼女は起きていた。
彼女の名前は"紅"。
これはコードネームとかでもなく、正真正銘の本名だ。
「ん、朝ごはんは出来ているからね。好きに取って行っていいよ。」
「うん、ありがと。」
朝ごはんを取るとテーブルまで行くと、座りながらテレビを付けた。
いつも通り、朝のニュースでも見て平和に……。
とは、行かないようだった。
『今日のニュースです。昨夜未明、無人の小屋から女性の死体が発見されました。』
「……朝から物騒じゃんね、やめて欲しい。」
ため息をつきながらフォークとナイフを持つ。
今日の朝食はパンケーキ。意外とお腹に溜まるしいいかなとか思っていたりする。
『女性は大手異能企業の社長、水澄夕鈴さんである事が判明しており、死体の状態は首と胴が離れていたと言うことです。また、首元が不自然に凍っており、氷結系との争いが起こった可能性があると見て、捜査を進めています。』
「待ってよ、あの人って歴代でも上位に入るほどの炎熱系異能の持ち主じゃなかった?それが氷結系に負けるなんて……ありえる?」
「まあ、別に相手が一体だったとは限らないからな。深く考えない方がいいぞ。」
それもそうか、と目を落としパンケーキを頬張る。
目を落とした先は携帯。そこに映るのはメールの画面のようだったが、少し眺めたあとにすぐ画面を落として食べることに集中しだした。
その時、紅がハッと何か思い出したように話しかけてきた。
「そういえば祐、今日はなんか呼び出し食らってるんじゃなかったか?呑気に食ってるが間に合わなくなっても知らんぞ。」
言い忘れていたが、もう一人の人物は"祐"(ユウ)という。
これも本名だ。
名字もあるが、今公開した所でなんの面白みもないだろう。
「……そうだった。司令官からか、会議があるからお前も来いなんて言われた気がするよ。」
最後の一切れを口に含むと、部屋に戻り着替えを済ませると中身がスカスカなリュックをからって靴を履く。
見送りには紅がしてくれてるが、ホントのところ別にこういう主従関係とか夫婦みたいな関係は全くない。
「いってらっしゃい、祐。今回も怒られない程度にしろよ。」
「わーってる。じゃあ、行ってくるわ」