ギャルに耳かき
霞:気が弱い
亜以夏:割とフレンドリーで若干細身
き、気まずい...。
放課後、気の弱い私(霞)が陽キャ共に押し付けられた、授業用のプリントを、ホチキスで止める音が教室内に響く。そんな中、目の前の席でギャルがマニキュアを塗っている。
まぁ、いつも見ている光景ではあるのだけれども、問題はこの教室に私と彼女を除いては誰もいないということだ。
パチンパチンとホッチキスでプリントを止めながら目だけを動かし、彼女を見る。
金髪に軽くウェーブがかっかたショートヘアー、猫みたいな目...、綺麗な瞳だなぁ......ほら、瞳孔までもくっきり....あれ?。
「何ジロジロ見てんの?」
観察に夢中で、バッチリ目が合っていることに気づかなかった!!!!!!
「す、すみません!!ごめんなさい!!いやっ!別にジロジロ見てたわけではなくてですね!えと..えと」
完全なパニックになった私は、バックをもって逃走をしようとして。ベチーンッ!と床に盛大に転んでしまう。その時一緒にカバンの中のものまで散らばってしまった。
最悪だ...。あんなにきょどった挙句に転倒。きっと明日にはハリウッドダイブというあだ名がつけられるんだ。おい、ダイブしてみろよと言われるんだ。
そんな思考を巡らせている私に、「ちょっ、ダイジョーブ?」と彼女は駆け寄ってくる。
はやくこの場から退散したい私は、大丈夫です、すみませんと言って散らばったカバンの中身を片付けようとする。すると、彼女は「めっちゃ頑丈じゃん、ウケる」と言いながらも一緒に散らばったものを集めてくれる。
「ん?なにこれ」
なんとなく嫌な予感がして、その言葉で彼女の方を見るとそこには、愛用の耳かきセットォ!!!そういえば今朝耳が痒かったから、カバンに押し込んだのをすっかり忘れていた。
「えーと...。それはですね」
頭が真っ白になる。きっと耳かきをセットで持参している陰キャなんてきもいと思われるに決まっている。
「おぉ!相田ってもしかして耳かきすきなの?」
「その、嫌いじゃないというか、家族に頼まれたからやってるだけで...」
実際のところ、耳かきはするのもされるのも大好きなのだが、正直には答えられない。正直に言えるわけがない。
「へぇ~、私さ、耳かきされるの好きなんだけど、自分でやるの苦手でさぁ。頼んでもいい?」
その言葉に一瞬思考が止まる。あれ?引くどころか耳かきを頼まれた?誰が?私が?
「え?いやいやいや!無理です!」
全力で拒否をする私をケラケラと笑い恥ずかしげもなく短いスカートでヤンキー座りをする彼女。うわー、私のと比べ物にならない大人っぽさだぁ。
ハッして彼女の顔を見ると、彼女はニヤッと笑って。
「はい、見物料いただきま~す」
こうして、見物料(耳かき)を請求されるのであった。
どうしてこうなった。
寝やすいように並べられた椅子。その椅子に座る私の太ももの上にギャルの頭。
「いつでも初めていいよ~」
軽く言う彼女とは裏腹に、私の心臓は緊張でバクバクし手も震えている。
「で、では。いきます」
深呼吸をし、耳かきに集中する。いったん集中してしまえばこっちのもの。自然と手の震えも収まり、心臓も正常に戻る。
今回使うのは、京都のお土産で買った、竹の耳かき(手作り)。匙が薄いのにしなりがあり、木製より痛くないのだ。
耳を覆っているさらさらの髪を耳にかけ、耳の外を掻き始める。
カリ...カリ...。
美意識が高いだけあってか、外側はほとんど取れない。
「耳の中やります、痛かったら、ご、ごめんなさい」
「そんな謝らなくてもいーよ。無理言って頼んでるのコッチだし」
気を遣うような言葉に少しホッとし、やる気が湧いてくる。いや、満ち溢れてくる。他人の耳かきなんてそうそうできるものではないのだから!!
指で少しだけ耳を引っ張り、耳の中を見やすくし、覗き込む。
「どんなカンジ?」
「すごいいっぱいあります..」
「うわー、やっぱり?恥ずかし」
「み、耳垢は誰でも溜まりますからっ」
「お、おう...。ありがとう...」
まずは手前。粉っぽい耳垢を掻き出す。
サリ...サリ..ザリザリ...スー
カリ..カリ...ザリ..スー
サリサリ...カリ..カリ..スー
掻けば掻くほど匙に山盛りの粉。見ているこっちまで気持ちよくなる。
何度か往復し、手前はあらかた取り切った。次は大きいもの達を取りにかかる。
ぺり..ペり...カリッ..ぺリ...クッ..ペリッ..スー
自分の耳からは見ることのできない大物!ティッシュにのせ、次の獲物に狙いを定める。
ザリ...ジャリ..スー ザリ..ザリ...スー カリ...カリ..クリ..ペリ..スー
壁に張り付いてるものもあれば、若干浮いてる耳垢もある。浮いているものは壁の接地面をクリクリと掻いてはがしていく。張り付いている耳垢は、奥から手前に掻いていくと、モロッと剥がれ、匙に乗る。その瞬間に背筋がゾクゾクとする。
面積が広い耳垢をぞりぞりと掻くとモロモロッと耳垢が取れる。
見えない部分は慎重に掻いていく。一掻きすると、薄く大きな耳垢がごそっと出で来る。
こことか取れそう。普段から耳かきしている人でも割と掻き逃しているポイントをカリカリと掻いていく。
引っかかる感触。引っかかりをはがすように、カリ...カリ、クッ...ペリッ
「んっ」
ドキッとする。
「ご、ごめん。痛かった?」
「違う違う。そこめっちゃ気持ちよかったから」
よかったぁ...。危うく心臓が止まるところだった。
耳の中から抜いた耳かききは大きい耳垢と一緒にもっさりと粉が沢山。もしかしたら、溜まりやすいポイントだったのかもしれない。
大体取り終わったあたりで、彼女が奥が痒いと言われたので、のぞいてみる。
ぱっと見は何もなさそう....。
「ここらへん?」
耳かきでカリカリと掻いてみる。
「んー、もうちょい奥?」
「ここらへんかな?」
少し奥を再度掻いてみる。するとズルッと薄い耳垢が浮き上がる。まさか隠れていたとは。
「んー、さっきの所痒い」
カリカリと耳垢があったところを掻く。ふぅ、と彼女から息が漏れる。
「もう痒いところはないですか?」
「うん。もうないかな」
「あ、はい。じゃあ仕上げに」
フーッ
私はいつもの癖で、耳に息を吹きかけてしまった。
「あ」
気づいた時には、時すでに遅し。
「ごごごごご、ごめんなさい!!!」
「ちょ、もういっかいやって」
「え?」
「今のめっちゃよかった!ボボボボって!もう一回お願い!」
困惑しながらも「で、では失礼します..」ともう一度耳に息を吹きかける。
「クセになりそぉ」
もう何度目かの予想外の反応に驚きながらも、気に入ってもらえたことで、嬉しくなる。
「反対もおねが~い」
返事を待たずに、彼女はごろんとこちらを向く。この体制だと視線があって気まずい。
がんばれ私!ちょっとドキドキするけど!
反対の耳かきも無事おわり、椅子の上で胡坐をかきながら、彼女はマジマジととれた耳垢をみていた。
「これ、全部私の耳からとれたものかぁ~」
ウヒーと苦々しくティッシュごと丸めゴミ箱へ投げ捨てる。
「いやー、ありがとう、霞」
いきなり名前で呼ばれ若干フリーズする。
「あれ?もしかして、名前で呼ばれるの嫌だった?」
「いや、その、ちょっとびっくりしただけで、むしろ嬉しいというか...」
私の早口を見て、彼女はケラケラと笑う。
「じゃあ、私も名前で呼んでよ」
「えッ?いいんですか?!」
「いーよ、だってもうトモダチだし」
久々に聞いた友達という言葉。ジーンと胸があったかくなる。途端に目頭が熱くなってくる。
「ありがとう、亜以夏さん」
「え?ちょっと?泣くなよ~イジメてるようにみえるじゃんか~」
彼女、いや亜以夏亜以夏がごしごしとハンカチで拭いてくれる。
「あ、そーだ。プリント留めるの手伝うから、帰りにマックでも食べにいこー」
ニッと亜以夏は笑った。
耳かきの貯蔵は十分か。ってネタ挟みたかったのですが、わからない人もいるので断念。