【スキル】平凡
魔王迅速討伐シリーズ第2弾。
魔王と名乗っている者を、じっと見つめた。
平凡な僕ができることはとりあえずそれだけだった。
「ふははは!勇者よ、この魔法はさすがに防げまい!」
「だから、僕は勇者なんかじゃないってあれほど」
僕はジョンという、ただの平凡な16歳男子だ。
勇者として召喚されたわけでも、伝説の武器を持っているわけでもない。
「ふざけるな!我が部下達を瞬殺するほどの力をもっていたではないか!」
「瞬殺って、倒したのは一緒にいた兵隊さん達だし」
「その者共に倒し方を瞬時に伝授したのはお前だろうが!」
僕はただ、その部下達がやってる平凡なことを見て言葉にしただけなんだけど。
実際、大したことはしていなかった。誰もが同じことのできる呪文をつぶやいていただけだ。
「そもそも、我が魔眼をもってしても畏怖と混乱に陥らないではないか!」
「魔眼ねえ。単に目つきがキツいだけじゃん。その悪趣味な服装と同じで」
「我が最強の精神攻撃を無効にするお前がただの人間であるものか!」
え、もしかしてその思春期特有の言動(意訳・中二病)が何か特別な力とか思ってる?
国王陛下の演説の方がまだ面白くて役に立つんだけど。
「うぬう…権威や脅しに屈しない性格か?いや、そんなレベルをはるかに超えている」
「神官様達も似たようなこと言ってたなあ。神様が降臨した時だっけ」
「な、か、神だと!?天使共ではなく!?」
確かに神様だったなあ。今思えば平凡な雰囲気で、だからどうしたって感じだけど。
ちなみに、その神様は現れたと思ったら『アナタ平凡ですねー』と言ってすぐ去っていった。
なんだったんだろ、アレ。神官様達はスキルの光がどうとか言ってたけど。
「くっ、やはり貴様は危険だ!くらえっ!」
魔王にとってはとっておきの魔法らしい。巨大な炎の渦が僕を襲う。でも…。
「へー、そういう言葉の組み合わせでそんなことができるんだー」
「バカな!?この複雑な詠唱でさえ効かぬというのか!」
「いや、効くと思うよー。ただ…」
やたら厳かにつぶやいていた平凡で無意味な部分を省略して、僕は必要キーワードのみ口にする。
同じ炎が現れ、魔法が相殺される。そして、すぐさま同じキーワードを口にする。
「ぐがああああぁぁぁ…」
魔王が消し炭となり、チリひとつ残らず消えていった。何事もなかったかのように平々凡々と。
「なんか、あっという間に魔王勢力が消えちゃったなあ。帰ろ」
平凡な僕は、平凡にしか見えない道中を進み、平凡な家にたどり着いた。
「ただいま、ジーン」
「おかえり、お兄ちゃん。シチューできてるよー」
「おおお、やったー!」
かわいい妹の作るシチューは格別にうまい。これぞ特別だ。
そんな特別な感動に浸っていると、平凡で無粋な足音が響き、玄関の扉が大きな音を立てて開く。
「ジョン殿!魔王を討伐されたのなら、まずは国王陛下に報告を!」
「えー、めんどい。将軍様、あなたもジョンって名前なんだから代わりにやっといて」
「そんなわけにいくか!村長も青ざめておるぞ!」
平凡な村の、平凡な国の、平凡な世界で、僕は今日も平凡な人生を送る。
「お兄ちゃん、おかわりは?」
「いるー。大盛りね」
「ジョン殿!」
お気に入りの深夜アニメに選挙速報のテロップが重なると腹立つよね。




