表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この謎が解けますか?  作者: 『この謎が解けますか?』企画室
ファンタジックな謎が解けますか?
2/24

猫の会話

Author:子猫 夏/虚虎 冬


謎成分は薄めです……ほのぼのしていただけたら幸いです。



 一人の少年と、少年よりほんの少し年が上に見える少女。二人はあるものを巡って取り合いとなっていた。

「こっちが僕のミクちゃんだもん!」

「違う! その子は私のイクくんよ!」

 うう、と唸って、頭をぶつけ合う二人。かなり険悪なムードになっているところを、猫を抱きながら困ったように眺める一人の男がいる。

「あー、そのぅ、そろそろ落ち着いてくれないかな……?」

 男がなんとか諌めようとしても、

「探偵さんはどっちだと思います⁉」

 二人はぎゅん、と音が鳴りそうなほど首を強く回して、男の方を睨んだ。

 彼は猫の首元を探りながら、言った。

「どっちも『iku』になれるからなあ……後、僕は、探偵じゃないんだけど……」


 *  *


 街の隅っこにある、「探し屋」。周りからは、どんな相談でも受け入れてくれるため、「何でも屋」「探偵屋」などと呼ばれている。本人は「探偵」と呼ばれるのを嫌っているのだが……。

 人の愚痴を聞く、子供の朝顔の面倒を見る、魚や兎の育て方を調べる、スーパーの特価品を調べる――様々な依頼が飛びこんでくるのだが、ここの一番の仕事は「探し物」である。

 探し「物」は、生き物のこともある。

 例えば、猫。

「この三毛、首輪、全部ミクのだもん! 絶対この子はミクだよ!」

「イクくんだって、三毛猫だし首輪の色はそれよ。首輪に『iku』って書いてあるし!」

「ミクの首輪だって、『miku』って書いてあった! えむ、が消えただけだ!」

 本日ここには、迷い猫探しの依頼が二つ来ていたのだ。しかし見つかったのは、一匹の青い首輪を付けた三毛猫。少年も少女も、この三毛が自分の猫だと言って譲らない。

 探し屋の男が、毛も体も引っ張られ、不機嫌になっていた猫をなんとか保護し――その後は、今まで書いたごとく。二人はぎゃーすか言いあって、しまいには絶対に――

「探偵さん、僕のミクちゃんだよね⁉」

「違うわよね探偵さん、私のイクくんよね⁉」


 男は、二人の言葉に対し曖昧に笑った。

「うーん……今のままじゃ、なんとも言えないなあ」

 二人の質問をのらりくらりとかわす男に、子供はついに怒りだした。

「見つかると思って、ここに依頼を出したのに」

「もっと酷いことになったわ! もうちょっとやる気出してよ」

 依頼主、しかも子供である二人に、男は少々残酷と思える発言を繰り出す。

「大体、この猫がどっちかに懐いてたら、分かりやすかったんだよ。なのにこの猫ったら知らんぷりだし」

 男の腕の中に落ち着いている猫は、初対面の男に対して警戒しなかったので、決して人嫌いではなかろう。だのに、このミクなのかイクなのか、三毛猫は少年も少女も知らない、という風に振る舞っている。

 男の言葉で、二人はがくっと肩を落とした。

「ミク……僕にいっつも付いてってたのに」

「どうしちゃったの、イク……私の肩が大好きなのに」

 そんな二人の様子を気にも留めず、男はあっさりと、

「まあ、ミクでもイクでもない、ってのが一番楽なんだけどねえ」

「そんな!」

「じゃあ、私たちはどうすればいいの……」

 哀しそうな彼らを見て、男は「やれやれ」とどこからか本を取りだした。分厚くて大きな本――少し黄ばんでいる、古めかしい本だ。

 いきなり本を取りだした男を見て、二人は――期待はしなかった。

「あーあ、この人本読み始めちゃったよ」

「もう、探偵なんて役に立たないのね」

 そんな二人の言葉を聞いて、一瞬男の額に青筋が浮かんだが、それも一瞬の内に消え、いつもの穏やかな、のんびりした顔へと戻る。

「まあ、見てなって……ちょっくら猫の会話でも覗きましょう」

 店主の言葉を聞いて、喧嘩を続けていた二人の子供は思わず顔を見合わせた。

「猫の、会話?」

 二人の疑問も気にせず、男はブチッと猫の毛を引き抜くと――猫は怒って、彼の腕を引っ掻いた――、それを本に挟んだ。

 すると、なんと不思議なことに――本のページに、文字が浮き上がってくる。それは何かの会話の様だった。


 *  *


――お前さん、どこへ行く?

――なんだい、ああ、この街の古参の猫か。初にお目にかかります。

――いや、敬語はどうでもいいのだが。お前さん、何をしてるんだ? お前さんはあれだろう、その……。


――家猫、だって言いたいの?

――そう、家猫だろう。首輪をしっかと付けているしなあ。名前は、ふむ、イク、か?

――イク、ねえ。そう呼ばれてるかもしれないね。

――分からないのか?

――だって、ボクを飼ってるのがちっちゃい子だからさ、なんて呼んでるのか、さっぱりなのよ。イクか、ニクか、ミクか。

――ニク、だったら美味しそうだね。

――おいおい、美味しくないから食べないでくれ。まあ、名前はどうでもいいとして。

――そう、そう。今大事なのは、お前さんが何でここにいるのか、さ。家猫は外に出ないだろうに。


――まあ、ね。そうだけれども、猫にもいろいろあるんだよ。家の中は窮屈だからね。

――窮屈か。外にひっきりなしに出てる私には分からないな。

――それは素敵なことだね。ボクは、たまたま窓が開いてた時に、ちょっくら出てみようか、ってんで、飛びだしたんだ。いきなり塀にぶつかりそうになって、焦ったね。

――外の世界は初めてなのか。そりゃあ、新鮮だったろう?

――それはもう、ね! 外の空気、……ってあれはクルマとやらの排気がす(、、)がきつくって、あまり好きではないのだけれど、家の中の曇った空気より美味しいよ。

――曇ってるのか。

――曇ってるのさ……ふっふ。まったくジメジメしてるし、ボクの留守番中はえあこん(、、、、)を止めてくんだ。一度、冬には死にかけたね。

――外の方が、寒いけどなあ。

――それとこれとは、別の話。とにかく、ボクは部屋の中が窮屈だったのさ。


――なるほど、で、外に出て楽しかったんだろう? ……まさか、主の元に戻らないのかい?

――そんな、もう戻るつもりだったよ。まだこぉんなに小さいボクのあるじ(、、、)が、泣いちゃうだろうから。けどね。

――様子を見ていれば分かるさ。迷子だろう?

――残念ながら。どうやって戻ればいいのか、分からないんだよねえ……。

――なるほど。それならば、あるじの方から接触を試みるだろう。そのために、同じ場所で生活してくれないか。そうすれば……私と、私の主がなんとかするが。

――それはありがたい。

――絶対ではないが、な。


――まあ、いいさ。それならそれで……。また、会いに来てくれるかい。

――きっとな。それでは、さよなら、若猫よ。

――さよなら。


 *  *


――なあ、ここ、どこだよ?

――いきなりとっつかまれて聞かれてもだな。どうした、迷子か?

――迷子! んなカッコ悪いことすッかよ。俺は旅に出た、それだけなんだ。

――それこそ、今いる場所なんて関係ないだろうに。

――うるせえ、ゴタゴタ言ってると殴んぞ。

――はい、はい……。まったく、血の気が多いな、お前さんは。


――んで……お前さん、名前は?

――イクだよッて。手前の名前は何だよ?

――なんだろうな。まあ、話そうじゃないか、ゆっくりと。折角同じ三毛で、同じ首輪なのだから。

――……同じ首輪、じゃねえぞ。これは俺のヌシの作った、おりじなるめいど(、、、、、、、、)なんだからな。

――「オーダーメイド」のことか。

――そう、それだ。俺専用にしてくれたんだ。「何の柄がいい?」「これでどうかな?」っていちいちこっちに見せてきやがる。メンドクてテキトーに首振ったりして答えてたら、なんだか勝手に俺が好きな首輪になったんだよな。

――そうか、それはいいな。

――そうなんだよ……ったく、ヌシはどこにいンだよ。

――家じゃないか?

――分かっとるわ! ……俺のコト、探してるのかなあ……。

――探しているだろうよ。お前は愛されているからな。


――だと、いいけどよ。……つーか、会ったばかりの手前に、大丈夫だの駄目だのと指示されたくねえぞ。

――まあ、自由に生きてみろ……もし主に会うつもりがあるなら、じっとしてろよ。

――何するつもりか知らねえけど、俺にとっちゃイイコトだな。よろしく頼むぜ。


 *  *


 興味ありげに本を覗きこもうとした少年と少女は、ページがバタリと音を立てたのに驚いた。

 探し屋の男は、にこにこしながらこう言った。

「ミクちゃんは――、イクくんは……、いると思うよ」

 それまで、男の言葉には全て憤慨してきた二人も、今度ばかりは目を大きく見開いて、その瞳は今までで一番輝いている。

「ホント⁉」

「ありがとう!」

 すぐさま走り去る二人を見送って、彼は腕の中の猫を見た。

「一瞬にして注目がなくなったねえ、なあシク




 最後に一つ、本のページに追加された内容。

――もう少し、優しく毛を抜いてはくれまいかね。まったく、仕事を手伝わせるとは、なんと酷い主よの。

読んで下さりありがとうございました。他の方の「謎」も楽しんでくださいませ。


***The Next is:『日本語に魅せられた男』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ