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この謎が解けますか?  作者: 『この謎が解けますか?』企画室
恐ろしき謎が解けますか?
11/24

生死は問わず、心のみぞ知る

Author:雅愛 律

「さて、どうしようか」

 私は言う。皺を寄せた眉間に指を置き、悩ましげな表情をつくる。座っていた椅子が軋み、床と擦れる音がする。

 彼女は私を見ているようだ。それはまるで、私に「どうしよう」とでも言いたげである。

 私はそんな彼女を気にせずに、思考を続行する。

 後始末だ。なんにせよこのまま放置して置くわけにもいくまい。己のためだけの業を抱えた人間は、そのまま生きることは出来ない――許されない。未来の二択は、償いをするか、また新しい罪を犯すか。そのどちらかに限られる。

 彼女は不安気に俯きながら、ゆっくり目を閉じたようだ。私にはそれが、彼女特有の、何かものを考える時の顔つきに見えた。

 そうだ。

 私はこの表情をとても好んでいた。そしてだからこそ、これの相手に彼女を選んだのだ。

 私はいくらか安心する。ほぅ、と息を吐き、少し落ち着こうとする。

 何をしよう。

 私はこういう場合、いつも他愛のない些事について熟考することで、自身を落ち着かせるよう努めている。

 ふと思い浮かんだのは、他人にとっての「命の境目」についてだ。学生の時分に、施設で暮らしている孤児の友人と、よく話した題目だ。

 あのとき友人は確かに言った。自分の中ではもう親は死んで――殺していると。土の中に埋めて、業も希望も感じさせないほどに殺してやった、と。

 あの時の私は、それに対してどういうことかと問うた筈だ。

 友人は答えた。

「【人間の命ってのは主観的で、はっきりしないんだよ。憎たらしけりゃそいつを殺すし、愛している奴は死んでも生きていると盲信する】」

 その時の私は、彼の言っていることのほんの僅かすら理解していなかっただろう。

 だが、今ならわかる。

 愛する人が死に、それでもなお生きていた証に黴のようにへばりついている。結果としてそこにいる彼女によって、罪を犯した。彼が憎しみのあまり両親を殺した――想像の中だが――というのも、得心いく話だ。

 考えながら、ちらと彼女を見遣る。彼女は始めの、椅子に固く座った姿勢のままだった。

 私は――ふと興味が湧いた。

 何となく椅子から立ち上がる。彼女がぴくりと揺れた気がする。私の行動に不信感を覚えたのか。私はしばしそのまま、動かない。彼女の揺れは収まる。私は近づく。彼女は揺れる。しかし私はそれを厭わない。

 私は近づく。彼女の目の前まで。

 そして。

 さくり、と目に指を突き立てた。

 しかし私は何も感じない。強いて言うなら、爪に固い感触があるだけだ。

 私は何度も何度も目を突く。彼女は痛がらない。私は何も感じない。

 素晴らしい。私は陶酔に呑み込まれる。

 白く細く、所々黒焦げた彼女は生きている。私の主観により、生きている。

 それがたまらなく、彼女の【生】を際立たせ、私の業すら忘れさせ、そして、


 何より、私の【生】を際立たせるのだ。

***The Next is:『彼女の雨空、彼の曇り空』

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