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「本当にびっくりした。こんなところで相田くんと会うんだもの。いったい何をやってたの?」

「え、僕?」


 彼女が僕の隣にストンと腰を下ろす。いきなり抱きついてきた。


「ええっ!」


 あまりにもとつぜんのことだったので、僕は固まってしまった。天地が引っくり返ったのかと思った。びっくりしたと言ってる彼女よりも、何万倍もの衝撃を受けたと思う。


「でも、会えてうれしい……」


 恥ずかしそうにうつむきながら、彼女は頬を染める。




「うっ、あっ、うう」


 どきん、どきん、と心臓が鳴る。強い痛みに似た、ときめき。


「いや、あの、そのう……」


 しどろもどろになりながらも、どうして彼女だけ僕の姿が見えるのだろうと不審に思った。




 僕は彼女を知らない。なのに彼女は僕を知っている。いきなり抱きついてきたことから、僕と彼女は特別な関係のようだ。ていうか、僕の夢の中だから。自分にとって都合のいい夢を見ているだけなのかもしれないけれど。




 どうしたらいいんだろう。やけにリアルな夢だ。

 真実を話すべきか、それとも適当に話を合わせていればいいのか……――。




「あっ」


 どうしようか考えているうちに、目ざとくカメラを見つけられてしまった。


「やっぱり写真を撮りにきたのね。いい写真、撮れた?」


 期待のこもった眼差しで僕を見あげる彼女。僕の趣味が写真だということを、彼女はちゃんと知っているらしい。


「えっと、いや。まだなんだ」


 と、ためらいがちに答える。僕は素直に自分の状況を説明した。


「街を歩いて目についたものを撮ってるだけなんだ。久々に出歩いたから、どこに行こうか迷っちゃってね。ちょうど悩んでいるときだったんだよ」


 すると、彼女は僕の手をぎゅっと握りしめた。


「迷ってるの?」


 どうしてなのか、彼女は僕の顔を探るように見る。


「あ、うん……」


 小さくうなずいたら、彼女の表情はパアーッと明るくなった。


「明日、お弁当をつくってくるわ。相田くんの行きたいところへ二人で行こう」

「え?」

「ね、いいでしょう? だって、前に約束したじゃない。退院したら、お弁当を持って遊びに行こうって」


 わけがわからず、僕はひとりごちる。


「退院したら……?」


 彼女は、はしゃぐように言った。


「だって相田くん、元気になって退院したんだよね? だから公園にいたんでしょう? どうして連絡くれなかったの? そうしたら、わたしもっと早く、病院に迎えにいったのにな」




 約束だと言われても、やはり記憶になかった。本当に僕は彼女とそんな約束をしたのか。

 それに退院したと誤解させていることも心苦しい。

 しかし、結局、彼女の押しの強さに負けてしまった。

 夢の中の彼女と初デートをすることになったのだ。




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