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 下川に教えてもらった住所をナビに入力し、姉の運転する車で向かった。

 僕の胸は不安でいっぱいだった。今から向かう公園が、彼女と出会ったあの公園だとはかぎらない。もしかしたら、ぜんぜん別の公園なのかもしれないのだ。彼女と会える保障なんか何もなかった。

 悪い考えを捨てきれないまま、車は目的地に到着する。

「本当にひとりで大丈夫?」

 姉は心配そうに運転席から顔を覗かせた。

「うん。携帯もあるし。大丈夫だよ。何かあったら連絡する」

「わかった。でも三十分だけよ。時間になったら戻ってきて。電話するわね」

 誰に会いに行こうとしているのか、と問われることを覚悟していたが。ありがたいことに花束を抱える僕を見ても、姉は訊かなかった。バッグからスマホを取りだして、ゲームを始める。これで弱みを握られたことになる。

「ありがとう、姉さん。恩にきるよ」

 駐車場から公園の中へ入っていく道を見つける。僕はゆっくり歩いた。


 風が吹いて木々が揺れる。

 僕の通ってきた道は、僕の知らない道だった。夢の中ではいつも、目覚めるとベンチの近くだったから。迷ったことはなかったのだ。迷路の中に突然、置いていかれたような気分になって。僕はいっそう不安になる。

 何度も引き返そうと思った。彼女に会えなかったらと思うと、怖くてならなかった。それでも僕は先へすすんだ。


 はるか。

 はるか。

 教えてくれ。

 僕の住む世界は、君のいない世界なのか。

 君と出会った世界とは決して交わることのない、さいはての地なのか。

 お願いだ。僕に教えてくれ……――。


 そのときだ。急にむせ返るほどの緑の匂いがして。彼女と出会った季節に時が戻ったような気がした。

 瞬間、全身に力がみなぎるのがわかった。僕は思わず走り出す。力の限り、走り続ける。

 そして、どのくらい走っただろうか。

 いつのまにか。少し離れたところにベンチが見えて。

 そこには。ひとりの女性がすわって、静かに本を読んでいた。


 見覚えのある、なつかしい横顔。やわらかな眼差し。

 はるか……。

 君はそこにずっと、いてくれたんだね。


 僕は立ち止まる。

「あの、唐突で申し訳ないけど。君に聞いてほしい話があるんだ……」

「え……?」

 君のやさしい瞳がまっすぐに僕の目を覗きこんだ。




これで完結です。

最後までありがとうございました!

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